第38話 怒りと不安
イライラする。
とにかくイライラする。
何故?
何故?
何故なの?!
コウさんから、連絡がない。
コウさんが、旅立って、一週間がたつ。
外国にたつ留守電を聴いて、パソコンメールしたが、一向に返事がない。
心配になって、そのあと、一回メールした。
しかし、連絡がない。
辺境の地でもないし、テロや戦争や治安が悪いところではない。
ホテルに泊まれば、インターネットも、無料で使えるはずだ。
コウさんが、連絡をしてこないことなど、一度もなかった。
たしかに、付き合いが短い。
外国に旅ったあとの連絡の頻度は、経験がない。
でも、あんな・・・あんな・・・素敵なデートのあと、連絡なしって、どういうこと?
もう、用済みって、こと?
いや。
そんなことはない。
もし、そうなら、外国行くことを言わずに行くはずだ・・・。
それとも、外国先で、運命の恋に落ちたとか?
コウさんのルックスなら、モテて、当然だ。
ちょっと近づき固いオーラはあるけど、外国だったら、気にせず、アプローチかけられても、おかしくない。
美人でグラマーな人も多いだろう。
私みたいに、嘘をついている女より、何倍も魅力的な人と出会って、恋に落ちた方が、コウさんだって、幸せだろう。
幸せ・・・。
最悪なことを、考えてしまって、涙が、にじんでくる。
「ゆう子さん?」
はっと我に返って、声の主を、見る。
何度も、呼んでいたようだ。
ここは、ワタル珈琲店。
いつも通り、休憩時間に、来ている。
ただ、いつも声をかけてくるのは、耀輔君である。
今日は、初めてお店に来た時と同じで、久米さんが、声をかけてくれている。
「大丈夫?初めてお店来てくれた時と同じ、辛そうな顔してたから・・・。何かあった?」
優しい声で、気づかってくれる、久米さん。
この前の親睦会に参加して、少し仲良くなったからか、ただ辛くて聞いてほしいのかわからないけど、私は、久米さんに、理由を、話した。
仕事の関係で、彼氏が、外国に行って、一週間連絡がないことを話した。
どこの国か聞かれたので、それも教えた。
話を聞いた久米さんは、少し考えたあと、私に答える。
「奇遇ですね。ワタルさんも、同じ国に行ってるのですが、珍しく連絡ないんですよね。」
はあ。
ワタルさん。
ワタル珈琲店のオーナー。
コウさんの友人ね。
あ、一緒に行ってるのかな?
「ワタルさんも、マメな人で、お店の売り上げをいつも連絡するのですけど、必ず返事くれるんですよね。」
はあ。
それと何か、関係があるのかしら?
「もちろん、海外に行っている時も、マメに、返事が来ます。ゆう子さんの彼も同じ様なマメの人ってことなので、連絡がないってことは、したくても、できない状況だということですよ。」
はあ。
「テロとか戦争など、治安悪化のニュースもないので、仕事の関係で、連絡できないだけですよ。」
はあ。
「って、恭子に言われたんですけどね。」
は?
のろけですか?
「俺も、ワタルさんのこと心配で、ゆう子さんみたいに悩んだんですよね。好きだから、不安だし、心配。だけど、好きだからこそ、信じて待つっていうのも、大事かなって・・・。俺も、恭子に言われて、信じようって、元気になったんですけどね。」
はあ。
きょうちゃんね。
ワタルさんは、コウさんと一緒に行ったのかしら?
それなら、同じ境遇で、連絡できないということに、納得できる。
「あ、ワタルさんは、誰かと海外に行かれたんですか?」
聞いてみた!
久米さんは、驚いた顔をした。
「いや。いつも、一人で行くんだよね。だから、心配なんですよ。」
「今回も、一人?」
再度、聞いてみた。
久米さんは、再度、変な顔をした。
「そう。一人。彼女と行った気配もなかったからな・・・。」
と、元気になったと言ってたわりに、気落ちして、去って行く。
もちろん、私の注文は、聞いて行った。
少しすると、今度は、耀輔君が、いつものワタルブレンドと好物の小倉あんどらやきを持って来た。
「体調大丈夫?」
私は、いつもの顔が現れて、少し心配げに聞いた。
コウさんからの連絡がないことで、頭がいっぱいだった私。
耀輔君が、体調悪くて、寄りかかっただけだと、自分の中で、解釈して、その抱きつかれたことは、すっかり忘れて、体調が悪かったということだけ、覚えていた。
「え?」
気まずそうな緊張していた耀輔君の顔が、驚きに変わる。
「この前、青い顔してたから、二日酔いに、ならなかった?」
耀輔君は、私の言葉を、理解して、笑顔で、答えた。
「うん・・・。ちょっとありましたね。今は、元気ですよ。ゆう子さんは、大丈夫でした?」
「え?私?ちょっと飲みすぎたけど・・・。二日酔いにはならなかったね。翌日、問題なく、仕事できたしね。」
「そうですか・・・。」
コーヒーと小倉あんどらやきを、すでに、受け取っている私。
耀輔君は、まだ何か話したそうであるが、言葉を紡いでくれない。
沈黙が流れる。
店内のお客は、私以外に、3人。
新規のお客も来る気配ない。
立ち去らない耀輔君を、コーヒーを、飲みながら、見上げる。
どきんっ
私の心臓が、高鳴った。
目が合っただけである。
私の大好きなかわいい顔の耀輔君ではなく、以前、初めてみた男の顔の耀輔君であった。
以前・・・。
そう、あの熱っぽい瞳・・・。
どこで・・・。
私は、ワタル珈琲店の親睦会の帰りの抱擁のことを思い出した。
慌てて、目線を外し、どうしてよいかわからず、目線を泳がす。
コーヒーカップも、落としそうになったのを、悟られないように、ソーサーに、静かに置こうとした。
が、手が、震えて、ガタガタと、音を鳴らしてしまった。
頬も赤くなっていたが、動揺した心で、気づかなかった。
なぜか、満足した声が耳元で、ささやかれ、私の震えた手に、彼の手が、一瞬重なって、去って行った。
「小倉あんどらやき、先週より、おいしいですよ。」
そう、ささやいた。
言葉的には、耀輔君らしい。
しかし、耳元で言われ、その声が、いつもと違った。
初めて聴いた、耀輔君の甘い声。
しかも、私は、耳が、弱いので、耀輔君の吐息がかかっただけで、必要以上に、ときめいてしまった。
その後の、耀輔君の大きな温かい手が、重なって、心臓が、飛び跳ねそうになった。
いや、飛び跳ねた。
もう!
何なの?
からかっているの?
それとも、私のこと・・・?
いやいや。
あんなに若い男の子が、8つ上の私に本気になる訳ない。
きっと、まわりにお客さんがいたから、耳元近くで、話しただけ。
そして、手も、握ったのではなくて、あたっただけ。
もう!
勘違いしない。
大人なんだから、しっかりしなければ。
うう。
年齢だけ、重ねて、男性経験も、口説かれる経験もとぼしい私。
おちつけ
おちつけ・・・
真っ赤になって、明らかに動揺している私を、嬉しそうに、みつめている耀輔君。「やっと、口説く気になったか。」と、応援する久米さん。
そんな二人の言動には、一切気づかない私であった。
読んで下さって、ありがとうございます。




