第32話 お泊りデート⑪
「5年・・・」
コウさんが、静かにつぶやいた。
怒っているのか?驚いているのか?
まったく判断できない表情だ。
今は、夕食を終え、月夜の湖を見ながら、夜の飲みタイムに、入っている。
場所は、ハンモックや長椅子が置いてある棟。
その長椅子に、それぞれ、座っている。
コウさんは、ワイン。私は、酎ハイから、梅酒に変わっている。
小さいテーブルには、コウさんが用意してくれたお酒のつまみがのっている。
チーズ、生ハム、干しブドウ、スナック、ナッツ類、チョコレートがある。
すでに済ませた夕食は、とにかく好評で、頑張ったかいがあった。
「ゆうちゃん、おいしい!」「短時間で、こんな豪華な料理できるの、凄い!」「ハンバーグのソース、最高!」「サラダのドレッシングも、初めての味だけど、いいね!」
と、絶賛で、私は、有頂天になってしまった。
そのあと、片付けと洗い物を、コウさんが、やってくれている間、私は、お風呂を済ませた。
髪は、元のストレートに戻り、そのままおろしている。
白色のワンピース型の部屋着に、着替えている。上には、ワインレッドのカーディガンを羽織っている。
膝には、貸出されている、フリースのひざ掛けを、かけている。
コウさんも、濃いめのグレイの上下分かれた部屋着姿。
なかなか似合っていて、部屋着姿に、ドキドキしてしまった。
かっこよい人は、部屋着姿でも、魅力的なのかしら?
センスが良いのかしら?
男性の部屋着に、ドキドキしたのは初めての経験なので、このあたりでも、動揺していた。
ここは、湖に映る、月がとてもキレイで、うっとりとする光景だ。
もちろん、すでに、写真には納めてある。
夜なので、うまく撮れていないので、残念ではあるが、自分の目には、しっかり焼き付いている。
そんなロマンチックすぎる場所で、何も考えれなかったのかもしれない。
お酒も話も進んで、今は、昔付き合っていた人の話になっている。
コウさんの彼女の多さには、ちょっと嫉妬したが、付き合った期間の短さには、驚いた。
三か月から半年。7人。初めての彼女が中学1年生。
さすが、そのルックス。
モテるんだなと思った。
私の番になって、昔付き合っていた人の話をした。
もちろん、私自身の話。
付き合った彼氏は2人。
半年と5年。
最近彼氏だった人が、5年付き合った人なのだ。
昔の話だし、隠すことでもないので、素直に答えた。
しかし、5年って、長すぎかな・・・。
もしかして、長すぎる彼氏がいる女の人は、嫌いなのかな?
やっぱり、3年くらいにしておけば良かったかしら?
料理を褒められて有頂天になり、湖に映る月夜に、心奪われ、コウさんの部屋着姿に、ドキドキして動揺して、何も考えずに、答えた、私が、悪かったかしら?
コウさんは、ワインを一口飲み、何か考えている。
うー。
どうしよう?
まさか、嫌われた?!
やっぱり、長く付き合って、この年齢で別れるなんて、何か問題ありだって思われたのかな?
そうだよね。
30歳過ぎて、別れるなんて、ちょっとおかしいよね?
と、いつのまにか優子27歳のことは忘れて、自分の33歳の年齢について、考えていた。
お酒も入って、すでに、ハイになってきている私だった。
結構長い間、沈黙。
別れた理由は、仕事が変わって、会う時間が合わず、すれ違いが続いたからだ。
コウさんには、ネイルの副業を土日始めたことだと伝えてある。
そこで、どれくらい付き合ったか、聞かれたのである。
「軽蔑・・・してますか?」
あまりにも、長い沈黙を、私は破った。
明るく聞くつもりが、何故か、半泣き状態で、かすれた声になってしまった。
そんな私の変化に、コウさんは、目を見開いた。
「・・・そうじゃないんだ・・・。」
コウさんは、言いにくそうに、目を少しそらしながら、言葉をつなげた。
「嫉妬・・・。5年も、ゆうちゃんと一緒に居たかと思うと・・・物凄く・・・。」
最後の言葉は、かすれて、私には、届かなかった。
「物凄く・・・?何ですか?」
「嫌だな・・・って。昔の話なのに、イライラする。」
目をそらしているコウさんの瞳は、今まで見たことのない怖いものだった。
余りの怖さに、背中に、寒気が走った。
コウさん、怖すぎ・・・。
嫉妬。
コウさんでも、嫉妬するんだ。
何だか、嬉しいな。
愛されている感じが、凄く嬉しい。
こんな気持ち、久しぶり。
そして、ここまで相手を好きになるのは、初めてかも・・・。
「ゆうちゃん、何、笑っているの?」
いつのまにか、顔がゆるんでいた。
あの怖い瞳のまま、睨まれた私。
しかし、コウさんの嫉妬が嬉しすぎて、その瞳は、気にならなかった。
両手で、ゆるんだ顔を隠しながら、
「嬉しくって。」
と、素直に伝えた。
コウさんは、目を見開いて、声を出して、笑った。
え?
笑うところですか?
ツボに入っているようですが、何故?
長くない?
なかなか笑いが止まらないコウさんに、頬を膨らまして、睨んだ。
それに、気づいて、
「やっぱり、ゆうちゃんは、おもしろいね。癒される!」
と、笑いながら、コウさんは、言った。
意味がわからない!
褒められている?
いやいや。
絶対、違う。
「怒った顔もかわいい!」
いつのまにか、コウさんの顔が近づいて、優しく、口づけられた。
ご・・・。
ごまかされません。
更に、睨んで、コウさんを威嚇しようとした。
しかし、コウさんには、まったくきかない。
ちょっと怖い笑顔を私に向けて、私の耳元でささやいた。
「ゆうちゃん、バラのいい匂いが、する!」
甘い、とろける声で、コウさんは、ささやいた。
私は、全身真っ赤になって、言葉を失ってしまった。
コウさんのサプライズのバラ風呂のバラの香り。
しっかりバラ風呂を堪能した私は、バラの香りに包まれたのである。
ただ、今みたいな至近距離でしか香らないのだが・・・。
湖に、映った月が、高くなる前に、二人は、別の部屋に消えた。
読んで下さってありがとうございます。
あと少しで、終わるはずです。長いデートで、ごめんなさい。




