第2話 偽りのお見合い①
「お待たせしたようで、申しわけない。」
彼の第一声だった。
彼、纐纈雄海。外科医。33歳。長身で、人懐っこい気さくな人と聞いていた。
しかし、現れた彼は、少しくせっ毛の黒髪で、170センチ弱の眼光の強い、人をよせつけないオーラの人物だった。顔は整っていて、かっこいいが、雰囲気が怖い。近寄り難さがある。申しわけないといいながら、詫びてる感はなく、とりあえず口にしただけのように聞こえた。
まあ纐纈雄海の情報も、優子に知り合いにこっそり聞いてもらった情報だ。本人は、小さいころ会ったきりなので、大人になった彼を知らない。知り合いの情報だから、イマイチ情報だったのだろう。
でも、振られるにしろ、それなりの好印象にしておかないといけないだろう。
私は、にっこり笑って、
「いいえ。私も、今来たばかりです」
と、おきまりのセリフを言った。
えっ・・・?
彼、纐纈雄海は、少し笑った。
近寄り難いオーラが弱まり、親しみある美男子が、一瞬現れた。
「そうか。良かった」
そう一言返ってきた。
私たちは、席に座り、ドリンクを注文した。
いつも最初のドリンクを決める際、時間がかかる私は、早くついたおかげもあって、早々に決めて置いたので、彼を煩わせずにすんで良かったと思った。
とにかく、彼は、ちょっと怖い。顔立ちは、私の好みなのだが・・・。
今も、外の景色をみながら、何か考えている横顔は、笑みもなく、声かけたら、怒られそうな雰囲気だ。
でも、一応、お見合いだし。
やはり、自己紹介はするべきよね?
相手から声かけてくるのを、待つべきか、私からいくべきか。
それとも、ドリンクきてから会話すべきか・・・
うーん。
きっかけが、難しい。
どうしようかなと、悩んで、彼を見ていたら、突然、目が合ってしまった。
あまりにも、ドギマギしたため、
「は、はじめまして。さ・・・林優子です。」
と、どもりながら、危うく自分の本当の名前を言いそうになるのを抑えて、自己紹介してしまった。
最初は、男性から挨拶するのを待つべきだったかなと、言ったそばから後悔した。
彼は、ちょっと驚いた顔をしたが、すぐ、仏頂面に戻った。ただ、少しだけ口角をあげて、
「纐纈です。・・・小さいとき会ってるから、久しぶり・・・?」
と、最後の言葉は、意地悪そうに言ってきた。
優子からは、親に小さいころ会ったことあるのは聞いてるけど、自分は、記憶ないから、覚えてないと言っていいよと言われている。
しかし、彼は、覚えてるのか?
うーーん。
迷っても仕方ない。
今日は優子になって、振られるのだから、あたって砕けろだ!
「ごめんなさい。私、覚えてなくて・・・。」
と、詫びて、彼を見た。
彼は、何か考えてから、
「そっか。昔は、仲良く遊んでたんだよ。」
と、教えてくれた。
え・・・?
マジですか?
どうしよう。
優子からきいてない。
聞いてないし、これは創作して話もできない。
彼、ちょっと怖いし。
下手なこと言ったら、優子の親御さんの関係を悪くしてもいけないし・・・
これは、やっぱり、ひたすら謝るべき?!
「ご・・・ごめんなさい。本当に・・・覚えてなくて。なんと言っていいやら・・・」
うーん。
これじゃあ。しっかり詫びてないよね。
「本当に、ごめんなさい。」
私は、頭をさげて、精一杯、謝った。
返事がない。
どうしよう。
怒ってる?
おそるおそる、頭をあげて、彼を見た。
彼は、右手を軽く握り、口元を抑えていた。目元が少しさがっているように見えた。
うーーーん。
笑われてる?
彼は、私の視線に気づいて、
「おもしろいね。冗談だよ。」
と、言ってきた。
は?
冗談?えっ?
えっ?
「実際には、小さいころ、顔合わせたくらいだから、お互い覚えてないのが、普通だよ。」
と、彼は、言葉を続けた。
はあ。
つまり、からかわれたのね。
うーん。
良かったのか悪かったのか。
ちょっと、ムカッとするけど。
おいおい。
と、彼を、軽くにらんでいると、ウエーターの人が、ドリンクを、持ってきた。
彼は、ビール。私は、ベリーとワインベースのカクテル。
「じゃあ、乾杯しようか?」
と、彼が言った。
仕方なくグラスを持つ、ふくれっつらな私に、彼は、こう言った。
「再会を祝って!」
そして、私のグラスに、カチンッと音を立て、乾杯してきた。
私は、彼を、凝視してしまった。
まったく動けない。
なぜって・・・
彼は、とびきり楽しそうな笑顔を、私に向けてきたから。
彼の笑顔は、違う意味で怖すぎる。
私の心を、鷲づかみして、離さない。
破壊力ありすぎる笑顔に、私の心は、ざわめきはじめていた。
読んでくださって、ありがとうございました。誤字脱字、気をつけます!投稿仕方に、まだ四苦八苦してます。いろいろお見苦しいところは、ご容赦ください。