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第15話 花火デート⑥

「やっぱり、いいや。今日は、聞かない。」

「えっ?」

「また別の時にしてくれないかな。」

心配そうな瞳を向けて、コウさんは、ハンカチを私に渡した。

ハンカチ?

青いチェックのハンカチ。もちろんブランド品。質の良い生地のハンカチだ。

何故、私に?

と、受け取りながら、コウさんを見た。

その時、頬に、熱いものがつたった。

えっ?

私、泣いてるの?

何故?

自分でも、自分に驚いてしまった。

「大丈夫?」

いつのまにか、私の隣にきていたコウさんは、私の頭をなでながら、聞いてきた。

あまりにも、自分の気持ちがわからなくて、声が出なかった。

出なかったというより、何を言っていいかわからなかった。

「ゆうちゃん。どんなことでも、受け止めてあげるから、泣かないで。」

そう頭の上から声がしながら、私の肩を抱き、そのままコウさんの胸の中に顔をうずめられた。

柑橘系の香りがした。

私の背中を優しくなでてくれるコウさん。

温かいものが、心に広がっていく。

癒されていく。幸せというものだろうか?

自然と涙が止まった。

私は、彼の胸の中で、つぶやいた。

「何?」

コウさんには、聞こえない小さい声だったのに、彼には聞こえていたらしい。

「私、コウさんが好き。」

彼を見上げた。

私は、学習能力がないのだろうか。

見上げるということは、彼の顔に近づくということを・・・。

「僕も・・・。」

そのまま・・・コウさんは、私の唇をふさいだ。

触れるくらいの軽いキスではなく。

少し深いキスよりも、もっと深いキスだった。

本当に、私は、学習能力がないらしい。

またしても、そのままこたえてしまった。

彼の手が、私の腰にまわされて、静かに、畳の上に、寝かされた。

深いキスは、そのまま続いている。

頭がぼうっとしてくる。

何も考えられず、彼の想いに、愛情にこたえながら、身を任せている。

コウさんの熱を帯びた瞳で、見られると、何故か・・・こたえてしまう。

無表情で笑わない彼は、基本、怖い。

そんな彼の瞳が、私を捕らえようと、私を欲している、炎のような熱いものが宿って、私にまっすぐ向けられる。

ギャップ。

人間、ギャップにやられるという。

冷たい人と思たったら、熱い部分も持った人だった。

意外!

そのギャップに、私も・・・。

でも、コウさんの場合は、獲物を狩るような逃げれないものを瞳に宿してる気がする。

それも、私が抵抗できない一つだろうと、まだ冷静な自分が、脳内で、自分の行動を正当化していた。

しかし、甘すぎる深いキスに、溺れていく私。冷静な私は・・・そのままとろけてしまいそう。

コウさん、大好き!

いつのまにか大きくなった彼の気持ちを、心の中でつぶやいたその時!


「失礼いたします!デザートをお持ちしてよろしいでしょうか?」

出入り口の障子の向こうで声がした。

慌てて、コウさんの胸を押して、上体を起こし、乱れた浴衣を手早く直した。

コウさんも、向かい側の席に戻りながら、「どうぞ!」と、答えていた。

障子が開いて、デザートが運ばれてきた。

先ほどとは違う着物を着た40代くらいの品の良い女性が、お茶と一緒に、お饅頭を持ってきた。

彼女に、もの凄くきつい視線をコウさんは送っていた。彼女も、微笑みながら、こたえていたのだが、私は、デザートがお饅頭という、珍しいことに驚いて、お饅頭をずっと見ていたので、そのことは、知らない。

品の良い女性は、目的を終えて、早々にでる前に、コウさんに何かを目で訴えてでて行った。

このお店は、コウさんの馴染みのお店。先ほどの品の良い女性はこのお店の女将さんである。先ほどの、コウさんの行動を、察して、注意していたのだが、私には、知る由もなかった。


相変わらず、食べ物に弱い私は、小倉あんが入ったシンプルな白いお饅頭を食べて幸せになっていた。

このデザートは、コウさんが特別に頼んでくれたのだが、気分を害されたコウさんはそれどころではなく私には、そのことを教えてくれなかった。

「お饅頭、美味しい!」

嬉しそうに、彼に告げた私。

それを見て、微かに笑って、コウさんも、お饅頭を食べ始めた。


読んでくださってありがとうございます。

これで、『花火デート』は、終わります。

まだまだ続きます。

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