第14話 花火デート⑤
「ちょっと遅くなったけど・・・。」
最後に、デザートを出すため、テーブルの上を片付けていった着物姿の店員さんを見送ったあと、コウさんは、口を開いた。
そして、片手で、なんとかもてそうな四角い箱を私の目の前に置いた。
虹色の上質な紙の箱に、金色のリボンかかっている。
「僕と、結婚を前提に、付き合ってください。」
コウさんは、獲物を捕獲するような瞳ではあったが、声は少し緊張しているようだった。
私は、まったく予想していなかった為、驚いた。コウさんが、緊張していることは、一切、気づいていなかった。
私は、『断る』という選択肢はなかった。
なかったというより、まだ自分では気づいてないけれど、優子のまま、彼を好きでいようと決めていたから。ずっとそばに居たいと強く思っていたから。
私は、迷わず、答えた。
「はい。喜んで。よろしくお願いします。」
そして、箱を、コウさんの前に返して、理由のないプレゼントは貰えないことを告げた。
コウさんは、自分の左手を私に向けて、言った。
「お揃いなんだ。指輪は、結婚の時にとっておきたいからコレにしたんだけど・・・」
彼の左手には、黒を基調とした、文字盤の周りは金のアナログの高級腕時計がつけられていた。
シンプルだけど、存在感のある防水時計だ。
『お揃い』の言葉に、心が動かされたが、高級なプレゼントこそ、もらえない。
なんとか、「気持ちだけで嬉しい!」と突き返したのだが、なかなか受け取ってくれない。
「じゃあ、今後、僕が、ゆうちゃんに何か怒らせたときの、お詫びを前もって渡しておくってことで!」
と、強い口調で、まだ開けていない、七色の箱に、金のリボンがかかったプレゼントを、私の手の中に、入れ込んできた。強引に。
何それ。
適当に、理由つけて、渡されてしまった。
嬉しいのだけど・・・。
高すぎる・・・。
手の中の箱をじっと見つめて迷っていると、
「早く、開けて、つけて!」
と、コウさんがせかしてきた。
口調がきつい。
もちろん、怒っているわけではない。
どちらかというと命令してる。
しかも、断ることのできない、そんな口調だった。
仕方なく、リボンをほどき、コンパクト式になった七色の箱を開けた。
コウさんとお揃いの腕時計がそこにはあった。
色は、白。
彼とは色違いだけど、それ以外は同じ腕時計だった。
ひきこまれるように、腕時計を取り、今つけていた腕時計と交換した。
再度、彼の左手を見て、なんだか嬉しくなった。
「ありがとう。嬉しい!」
私は、自然と、今までに彼に見せた以上の笑顔を向けた。
コウさんは、珍しく、顔の表情がゆるんで、微笑んだ。
微かではあるが、十分に破壊力のある、そんな笑顔だった。
ますますドキドキしてしまった。
コウさんの笑顔は、本当に素敵・・・。
夢の世界へいざなってしまう彼の笑顔。
こんな素敵な人と、恋人同士になれるなんて、なんて幸せ!
しかも、結婚を前提なんて!
夢みたい。
こんなきっかけをくれた優子に感謝しなくては・・・。
・・・・?
あれ?
ちょっと待って。
「私、ゆう子だって!」と、告白していない。
告白してないどころか、本日は、お別れするはずだった。
え?
ちょっと待って。
どこで間違えた?
う・・・。
今、お付き合いの承諾したよね。
私。
しかも、結婚前提。
やばい!やばい!
お見合いでは、断っても、ここで、優子として付き合ったら、意味ないじゃん!
ないけど・・・。
優子としてでも、私は、コウさんと一緒に居たい。
悪魔のささやき。自分の欲望。醜い願望。
そんな気持ちに、負けるなんて・・・。
それくらい、彼を好きだといえば、自分のかたくなな性格にも、納得できる気がしてしまう・・・。
このまま、嘘をつき続けようかしら?
甘い誘惑に、私は、心奪われていく時、コウさんは、言った。
「そういえば、大事な話って、何だったの?」
えっ?
大事な話・・・?
そんな話言ったかなと思い返してみて、すぐ、思い出した!
そう!
あの時、花火見終わって、駅に向かうあの時・・・。
ダメだ・・・。
やっぱり、嘘はつけない。
ゆう子、しっかり!
このまま素直に告白して、振られてしまおう!
振られて・・・。
私は、何とか勇気を振り絞って、言葉を発しようとした。
今から向かう地獄の世界への扉を開けるしかないことに、恐怖を覚えながら・・・。
読んでくださってありがとうございます!
まだまだきりが悪いのですが、長くなってしまいましたので、このあたりで、切らさせていただきました。
『花火デート』あと少しで、終わるハズです。
何だかもどかしい主人公ですが、もう少しお付き合い頂ければ幸いです。




