第13話 花火デート④
「美味しい!」
私は、物凄く嬉しそうな顔をして、さしみを食べていた。
異常なハイテンションになっているのだが、どうにも元に戻らない。
酔っぱらいすぎた人みたいな、高熱があってハイになってる人みたいな・・・とにかく、まともな状態ではなかった。
確かに、ここは、高級な日本料理店。庶民の私は、入ることすらできない料亭である。
今いるこの部屋、個室。
八畳くらいの広さ。もちろん畳。コウさんの後ろには、床の間がある。緑色のもみじの葉をつけた枝に、かわせみが降り立っている。下には、水流の夏を表した掛け軸。花瓶には、ミニひまわりをメインにした華やかな夏を表している花々が生けてある。横に、高級な香炉が置いてある。年代物にみえるが、私の知識では、わからない。
和室とはいえ、堀こたつになっているため、正座しなくて良いので、気楽である。
今、ここにいるのは、予定通りのデートコース。花火をみてから夜ご飯にする約束だった。
以前、メールで、好きな食べ物を聞かれて、『和食』、『和菓子、特に、小倉あん』と、答えた。
答えたけど、庶民の和食は、家で作る煮物や炒め物や和え物です。
しまった。ゆう子ではなくて、優子なのだから、高級な方に思ってしまうよね。今までは、優子でもおかしくないゆう子の思いのままメールをしてたけど、最近は、ゆう子の地のままメールを返していた。
しまった。嘘を告白することしか考えてなかったから・・・。
ちらっとコウさんを見ると、目があった。
思わず、そらしてしまった。
頬が赤くなるのを感じ、ハイテンションが、どこまでもハイテンションになっていくのを感じた。
おかしい。
おかしい。
私の年齢で、キス一つで、こんなテンションになるなんて、おかしすぎる。
もちろん、コウさんとは初めてのキスだったけど、経験がないわけではない。
たしかに、キスは、久しぶりだった。
だとしても、このテンションの高さは、なんなんだろう?!
一回ではなく、何度もだったから?
深いキスだったから・・・?
ダメだ・・・。
考えるのは、逆効果だ。
思い出しては、ハイテンションのスイッチを押しているようだ。
どうしようどうしよう。
それにしても、あのキスの長さはやばかった・・・。
車が、また通ってくれたから、ライトの光で映し出された私たちは、我に返り、何とか電車に乗って、ここまでたどり着いたけど・・・。
車が来なかったら・・・別のところへ?
いやいや・・・。
考えてはいけない。
何はともあれ、ここに着いたのだから。よしとしよう。
もう一つさしみをとろうとして、いまだ右手に残っている彼の手の感触と体温を思い出してしまった。
手まで、熱い・・・。だから、何気ない行動で、記憶がよみがえってしまう。
そう、電車の中でも、コウさんは、私と手をつないだままだった。正確に言うと、長かったキスの後から、この料亭にくるまで、手をつないだままだったんだけどね。
さしみをとろうと、箸を動かそうとしただけで、思い出す私。
重症だ。
体の隅々まで、ドキドキスイッチ、ハイテンションスイッチが、埋め込まれてるようだ。
私が、自分の中で、葛藤していると、コウさんは、声をかけてきた。
「ゆうちゃんって、一人暮らししてるの?」
思考回路も、ショートしていて、ゆう子まるだしの私は、素直に答えていた。
一人暮らししてること。年数。自炊していること。
気づくのが、遅かった・・・。
この話の流れは、自分からゆう子へと、暴露していくことに。
「今度、招待してね。」
思わず・・・「うん!」と、いう前に気づいた。
あの部屋は・・・。
優子が住むには、安すぎる。
つまり、招待できない!
どうしよう・・・
すでに、私は忘れていた。
コウさんへの想いが溢れ出していた私には、
今日のデートの目的、『林優子でないと告白する』と、いうことを。
「う・・・。友達とか、皆で集まる機会があったらね。」
と、苦し紛れに答えた私。コウさんは、特に何も言わず、うなずいた。
その後も、コースの料理が、でてきた。蒸し物、魚の煮物、天ぷら、お味噌汁とお寿司。
とても美味しかった。
会話も、弾むまではいかなかったが、何とか、優子としてできてたと思う。
ちょっとハイテンションではあるが、ボロは出してないだろう。
そして、まだ私は気づいていなかった。
優子のままでいることを選んでしまったことを。
読んでくださって、ありがとうございます。
きりが悪いので、早めに更新しようと思ってます。(未定ですが・・・)
頑張ります。




