8章・黄金の大地(7)
アルフレッドは廊下を進み、もっとも奥にある部屋へ入った。
セレナもそれを追うようにその部屋へ入る。その部屋には扉の他は窓もなく空気が澱んでいた。不思議なことにセレナが入ると自然に扉が閉まった。
光源はたった一つのランプ。
その淡い光が、弱々しくもその小さな部屋全体を照らしていた。
「セシルは?」
セレナが問いかけた。緊張はあった。
だが何故彼に付いてきてしまったのか彼女自身良く解らない。催眠か何かの魔法をかけられていたのか。
「ああ、あの少年か。一足先にアステ・ウォールのガイアの塔へ向かって貰った」
「ガイアの塔?」
「我々が根城としているところさ。聞いたことはないか? ガイア教の総本山だ」
「たしかガイアの一族が残した遺跡の一つ……」
セレナは脳裏の奥底にあるような記憶を掘り起こした。
何時それを聞いたか、知ったか、彼女には分からなかった。
「伝説などではないよ。我々はそこで真実を得ている。古代封滅させられたガイアの一族の復活は目の前まで迫っている」
「どういうこと?」
セレナは疑いの目でアルフレッドを見つめた。同時にそれは真実を追い求めている目でもあった。
「なるほど、君は知りたいのだな、我々の……自身の一族のことを」
アルフレッドはセレナの視線を受けて頷いた。
「ガイアの一族とはかつて強大な魔法文明を築きあげたヒトの眷属なのだ。しかし、人間達はそれを脅威に思い、何らかの方法でこことは異なる空間へガイアの一族を封印したのだ。だがガイアの一族は復讐を忘れてはいなかった。彼らの持つ秘法の一つで、霊子の欠片を人間達の中に埋め込んだ。その霊子の欠片をもつ人間の間に生まれた子供は何かのきっかけで、その力に目覚める。我らのようにな」
アルフレッドはそう言いながら、自分の髪をかきあげた。
普通の人にはありえない、鮮やかな緑色の髪を。
「我々の使命は、異世界に封じられたガイアの一族の解放だ。いや、彼らを元の世界……つまりはこの世界に帰すために存在している」
アルフレッドは何かに陶酔している。セレナはそう感じた。いや、そう言う風に彼は教え込まれているのかもしれないとも思った。
「彼らは自然を愛し、このアルカーティスの大地とともに文明を栄えさせた。だが、今はどうだ? 人間はお互いにお互いと争い、大地を汚し、緑を砂に変え、それを省みようともしない。大地と共にあったガイアの血を引くものとして、悲しむべきことだ。私は一族の悲願たる封印されたガイアの一族を解放し、人間どもを駆逐しこの大地をガイアの力を持って緑へと戻そうと考えた。どうだ? 同胞たるセレナ・アスリード……私とこの大地を取り戻そう」
アルフレッドの瞳に穢れは無い。純粋に彼はその理想に燃えていて、同族の因子を持つセレナを仲間に引き込もうとしている。
「私は……」
セレナは視線をそらした。
「緑の髪だと言うだけで、酷い目にあっただろう。ひどい迫害を受けただろう。人間とはそう言うものだ。所詮、自己の満足だけが一喜一憂すべき対象だ」
アルフレッドの言葉はセレナの胸に刺さる。それは事実だからだ。
微かな幼い頃の記憶。両親と旅をした記憶だ。二人はやつれていた。
ようやくたどり着いた安住の地は、悪夢のような一夜で廃塵に帰した。
「セレナよ、お前は人間を憎んでいるだろう?」
アルフレッドはセレナに向かって手を差し伸べた。
「人間への復讐を果たし、我等の王国を築こう」
それは本当の意味での同族からの救済の手ではないだろうか。
しかし――。
彼女の脳裏には鮮やかなものが映る。
アーディルの、ミナの、運命を共にしてくれる人間達の顔だ。
彼らは救ってくれたではないか。絶望の淵に立たされていた自分を、救ってくれたではないか。
「ちがう、ちがう! 私は復讐なんて望んじゃいない!」
セレナは激しく首を振って叫んだ。
「違わないな、お前はこの世界を憎んでいる」
セレナははっとなって顔を上げた。
眼前にはアルフレッドの銀色の瞳があった。
セレナは慄然した。射すくめられたように身体が動かなかった。
「あ……」
全身を恐怖に支配されながら、セレナは唇を奪われた。
はじめての経験だ。
体は動かなかったが、涙はこぼれていた。
アルフレッドの舌がセレナの口内をくまなく犯した。屈辱でしかないのに、酒を飲んだときのように頭がぼんやりとして力が抜けた。
身体を傾けるとそこには冷たい壁があった。
「美しい……」
アルフレッドはセレナの唇を解放すると、形の良いセレナの頬から顎にかけてのラインを中指でなぞった。
セレナは悪寒を憶えた。通常の感触ではなかったからだ。
アルフレッドの姿はそこにあるのに、まるで肉体がないような、不可解な何かが自分の身体に触れているのだ。
「くっ……」
微かにセレナは悲鳴を上げた。
アルフレッドの「ような」それは、セレナの着ている服を無視して、直接のその柔肌に触れた。
セレナはそのどろりとした感触に恐怖を憶えた。
やがてそれは彼女の乳房をいたぶりはじめた。さして高くはない、だが形のいい頂上からその谷間に至るまで。
「ふ……ん」
セレナは性的な経験がまだなかったが、年齢を重ねるに連れ、田舎の村でも仲間内の話の中で盛り上がる事はある。その行為が何であるのか、よく知っていた。
陵辱の中、脳髄が熱くなっていくのがわかった。下半身の彼女の女は湿り気を帯びていた。
――何故? 何故こんな得体の知れない、知らない男に!
今やその存在はセレナの乳房に飽きたのか、彼女の女の部分や、太股をなぶっている。
彼女自身の意志と反して、全身の感覚器は異常な敏感さをもって脳に伝えている。
「アーディル……アーディルぅ……助けてぇ……」
意に反し火照る身体を憎みながら、セレナは心の中で愛する男に助けを呼んだ。
そして愛する男の名に気付き、今の自分の姿を思い浮かべて海より深い罪悪感に沈んでいった。




