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異世界大陸幻想譚アルカーティス  作者: 水夜ちはる
8章・黄金の大地
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8章・黄金の大地(5)

 少し時間を遡ることになる。


 青年は強すぎる日光を煩わしそうに左腕で遮った。

 この大地に生きとし生けるものすべてがこの太陽の恵みがあるからこそとはいえ、この熱砂の大地の上では煩わしくもなるというものだ。

 もっとも次に寄る街はすでに目の前だ。青年の足どりは軽かった。


「多分、落ち合うならこの街だな。あいつ等だってそう考えるはずだ」

 ぼそりと青年は呟いた。

 彼の目の前にある街はナルシャ。


 と、彼の視界に大型の鳥が目に入った。

 こう言った砂漠と緑地の境界線ではハゲタカなどの猛禽類の生息地でもある。

 だがその鳥は彼目指して一直線に飛んでくる。

 猛禽類は総じて獰猛だが、滅多に人間のような大型の動物を自ら襲うことはない。


「なんだ?」

 彼は怪訝そうにハザのフードをあげて目を凝らした。

 鷹の飛ぶ様はあまり翼を羽ばたかないので見た目の速度感がない。だが、見た目とは逆にその速度はとてつもないものだ。あっと言うまにその距離はなくなってしまう。その鷹は彼の眼前で大きく翼を広げて、瞬時に勢いを殺して彼の肩に捕まった。


「カトゥル? カトゥルか! って事は、ジーク達がナルシャに拠っているってことだな」

 青年、アーディル・アラムシードは顔をほころばせた。

 同時に彼の脳裏に一人の可憐な少女の姿が映し出された。彼を慕う少女、セレナの姿だ。


 彼は街に仲間が居ることを確信し、ナルシャへ向かう足を速め、

 迷うことなく宿場街を目指した。

 旅慣れたアーディルの勘はあっという間に目的地へと彼を導いた。


 ふと兎月亭と言う宿の前でアーディルは足を止めた。

 そこへ一人の少女が走りこんできた。

 少女はかなりの距離を走ってきたのか、息が乱れ、肩は大きく揺れていた。

 黒髪の小柄な少女はアーディルにも見覚えがある。

「ファティマ? ファティマじゃないか!」

 聞き覚えのある声がしてファティマは顔を上げた。

「アーディルさん!」

 カトゥルを従えたアーディルを見つけて、ファティマは驚いて彼の名を叫んでいた。



「この屋敷?」

「うん……多分。この屋敷からさっきの魔力を感じる」

 ミナがぼそりと尋ね、セレナも緊張した面もちで頷いて答えた。

「もうすこししたら、ファティマがジークを呼んでくるはず」

「でも、それじゃセシルが」

 セレナは心配そうに言った。

 セシルは出会ったばかりだが、ガイアの一族だ。異様な存在が、その彼を攫ったのである。セレナはセシルのことがわが身のように心配だった。


「それもそうね。しょうがない。私達だけでも行く?」

 ミナは冷静に言った。やや楽観的でお調子者の彼女だが、本当の危険と言うものは肌で感じることが出来る人間だ。

「……うん」

 セレナは頷いた。


 セレナの胸は焦燥で焼き付きそうだった。この屋敷からあのシンシアと対峙したときに感じた魔力の波動を感じるのだ。

 セシルのものではない、もっとおどろおどろした、自分の中と同じガイアの魔力を感じている。


「じゃ、行こう!」

 ミナは腰に吊るした剣の感触を確かめると、セレナを見て言った。

 短い言葉に続き、低い体勢で彼女は走った。

 セレナもそれをまねて追った。


 一気に門を突破するが、幸いに人影はない。

 だがそれが逆にミナには不気味に感じたが、潜入した以上迷っている時間はない。

 素早く屋内に進入して、物陰に身体を滑り込ませて一息付く。


「セレナ、向こうの動き、感じられる?」

「そんなにはっきり解るものじゃないけど……この奥に何か、いる。さっきの感じ」

 セレナは神経を集中して魔力を探る。強力な魔力だ。見失うことはない。

「よし……奇襲するなら早い方がいい。見つかったら意味ないからね」

 ミナの言葉にセレナは頷いた。


 ミナの合図と共に二人は廊下に飛び出る。

 廊下を突き当たりまで行くと、大広間に出た。

 この辺りの建築らしく、床も天井も壁も石造りだ。全体に白っぽいのは花崗岩のためか。その白さ故か、小窓が幾つかあるだけでも部屋全体はぼんやりと明るい。


 そこに男がいた。巨躯だ。ジークとほぼ同じぐらいかとミナは思った。

「あんた! セシルをさらってどうするのさ!」

 この期に及んで物怖じするようなミナではない。大音量でも美しさの損なわれない声で問いかける。

「ああ、さっきの緑の髪のやつか……」

 男はにやと笑った。

 顔は中年の域に差し掛かろうとしている様子だが、身体つきは無駄のないたくましい筋肉で包まれていて威圧感があった。

 だが武器は見えない。少なくとも大剣や中剣と言った、服の上に目立つ武器は持っていなかった。


 だが、セレナは彼よりも奥に魔力を感じとっていた。

 もう一人いる――。セレナはそう感じてミナの背中をはなれて、横へ歩いた。違う角度で部屋の様子をうかがうためだ。


「ふふふ、待っていたよ」

 大男の後ろには暗く沈んだ奥への通路があり、そこから一人の男が現れた。

 若い男だ。長身で髪を長くしている。

 目に付くのは緑の髪。セレナたちは驚いて彼を見た。先ほどからの魔力は彼のものだったのだ。


「セレナ・アスリード、君の話は聞いている。シンシアからね」

 青年は髪を掻き上げて、セレナを見た。

 セレナは自分とシンシアの名を聞き、驚愕した。


「あなたは一体? セシルをどうするつもりなの?」

「私の名はアルフレッド。君たちに来て貰いたい……いや『帰る』べき所へ招待しにきただけだ」

 青年、アルフレッドは静かに言った。

「帰る場所?」

「来たまえ。君は知りたいはずだ。ガイアの一族についてをね」

 アルフレッドは穏やかに微笑んでいた。

 その微笑みの裏に何が隠されているのかセレナには想像も付かなかったが、次の瞬間、彼女は一歩前に進んでいた。


 彼女は自分の出自について、自分の運命について、それを追い求めてこの地までやってきた。危険が伴おうとも躊躇うことはなかった。

 また次々出会うガイアの一族も、それが偶然でなく謎に近づいていることを示唆していると彼女は思った。


「セレナ!」

 ミナが注意の声を促したが、アルフレッドの隣にいたはずの大男が、すぐ彼女の背後に迫っていた。


――何時の間に!?


 ミナは戦慄した。

 いかにアルフレッドに注意を奪われていたとはいえ、易々と背後を取られるとは。


 その隙に、セレナはアルフレッドへと近づいた。

 まるで夢遊病者のような足取りだった。

 また彼女の表情は面のように感情を失っている。緊張だろうか、それとも不可解な術でも受けたのだろうか、ミナにはにわかに判断が付かなかった。しかしそれが常のセレナではないことは確実だった。


「待って! セレナ!」

 アルフレッドは一つ笑みを残して奥へと消えた。それを追う様にセレナが進む。ミナの声は届いていないかのようだ。


「待てよ、お前の相手は俺だ」

 いかにも自信ありげに言葉が飛んだ。大男がミナに飛び掛る。

 ミナはその攻撃的な気配を感じてすばやく飛んだ。


「ふん、あんたなんかで私の相手が出来ると思うの? それも丸腰でっ!」

 ミナは僅かに苛立ち、長剣を抜いて踊りかかった。反転奇襲として申し分ない速力だ。


 大男はその速さに少し驚いた表情を見せた。

 直線的なミナの攻撃を紙一重で横かわし、その裏に回る。その勢いを利用して拳を少女の背中に叩きつける。

 殺気を感じたミナは、勢いを殺さずに前に飛んだ。

 拳は確かに彼女の身体に届いたが、前に飛ぶことでダメージを緩めたのだ。


「少しはやるようだな。俺の名はエレイン・バートン」

 大男はそのミナの動きを見て、見た目以上に彼女が「手錬れ」であることを認識した。

「あんたも結構やるじゃない……でもね、私は急いでるの! 私の名はミナ・リニファ、悪いけど憶えるのは死んでからしてもらうよっ!」

 ミナは相手の戦闘欲に合わせてやるほど寛大でも戦闘好きでもないので、速攻を仕掛けた。

 セレナのことが心配だったし、相手が武器を取り出す前に決着を付ければ楽に勝てる。

 ミナは剣を構えてエレインへと踊りかかった。

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