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異世界大陸幻想譚アルカーティス  作者: 水夜ちはる
8章・黄金の大地
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8章・黄金の大地(3)

 乾燥した内陸育ちのセレナにこの地方の気候は慣れた物であったが、温暖で湿気が多いアムル地方育ちのファティマには乾燥地方の昼夜の気温の差は想像を超える物だった。

 夕暮れともなると日中の暑さも忘れてしまうほど涼しさが辺りを漂う。乾燥した大地は熱を蓄えることが出来ず、その熱を次々と上空へ解き放ってしまうのだ。

 ファティマの体力の消耗を鑑みて二人は行程に余裕を持ち、カイン市を出て八日後、交通の要衝ナルシャの街へその足を踏み入れた。




 二人がナルシャの街に入ってすぐのことだった。

 ファティマははっとなって路地を見た。

 緑の風を感じさせる髪が路地の向こうに消えたような気がしたのだ。


「ね、ねぇ、セレナ……」

「どうしたの?」

 緑の髪の持ち主、セレナは隣にいる。では彼女が見たあれはなんだったのか。

 ファティマは気になって走り出した。


「あ、ファティマ? どうしたの?」

 ファティマは外見よりもずっと俊敏なその足で路地に駆け込んだ。小さな曲がり角を曲がるとき、何者かにぶつかってその反動で転んでしまった。


「あっ! ご、ごめんなさい!」

「いてて、それよりもお姉ちゃん、大丈夫?」

 そこには緑の髪をした十五、六の少女が立っていた。緑の髪だ。紛れもなくセレナと同じような髪を腰まで蓄えている。

 セレナのように美しい顔立ちで、眉が少しだけつり上がって、凛としている。目鼻立ちはやや小振りながら、バランスよく配置されていた。万人が認める美しさだ。


「緑の髪だ……ガイアの一族?」

 ファティマを追ったセレナは、その少女を見つめ思わず声を上げて驚愕を表現した。

 そして自らも思わずフードを取ってその髪を顕にする。




「それじゃ、行って来るね!」

 そう言って元気よく飛び出して行ったのはミナだ。

 ジークは手振りだけで挨拶し、部屋でごろごろとくつろいでいる。


 彼らはセレナたちよりも十日も早くこの街へ着いていた。目的はばらばらになってしまった仲間たちとの合流である。つまりセレナたちが予測を立てたように、彼らも同じ意図で、街道の選択肢がなくなるこの街で落ち合うこと可能性を信じていたのである。


 この規模の街では宿は数件しかない。

 その宿にセレナたちやアーディルの容姿を伝えて、似た旅人が現れたら伝えて欲しいと依頼していた。

 経験豊かなジークの提案であった。

 ミナもその提案自体に文句のつけようもなかったが、それは行動派であるミナには耐えられぬ方法であった。そんな彼女はセレナ達を捜す、という口実で街のバザーなどを見に行くのだ。特に誰かに狙われているわけでもない彼女だから、ジークもそれを黙認していた。


 ミナはほぼ日課のようになったルートでバザーを覗いていく。

 ナルシャは小さな街なので楽しみなどこれくらいしかないのだ。ただ、交易の街なので小規模なバザーであっても日に日にその商品は変化していく。彼女の好奇心を満足させる魅力は十分にあった。

 ミナは特に表通りに陳列されているものより、少し奥まった路地などでひっそりと売られている品物を好んだ。知的好奇心の豊かさが見たことのないようなモノを求めているのだ。


 買うつもりもない品物の品定めをしているとき、彼女は緑の風を感じたような気がした。


 ――セレナ?


 彼女は慌てて辺りを見渡した。最大限に間隔を広げる。しばらく使っていなかった感覚だったが、錆び付く程時は経っていない。その鋭敏な感覚器に緑の影は捕らえられた。


「セレナッ!」

 その姿をセレナと確信した彼女は、健康的な足を鹿のように踊らせて駆けた。

「セレナ!」

 路地を曲がるなりミナは彼女の名を呼んだ。

 そこには二人の緑の髪を持つ少女がいた。


「え? ミナ? ミナなの?」

 セレナとファティマは立て続けに驚愕させられていた。

 ファティマが見つけた緑の髪の少女に出会ったと思ったら、思わぬタイミングでミナとの再会である。


 一方でミナも相当に驚かされていた。

 セレナと緑の髪の少女はうりふたつと言うわけではなかった。

 確かに背格好は同じような体格だし、どちらも端正な顔立ちだが、並んで見比べればやはり違って見える。それでも二人は良く似ているとミナはおもったし、セレナ自身も纏っている空気か、自身に似ていると感じていた。少なくともあのシンシアよりは。

「ええと……セレナが二人になった?」

 ミナは半笑いで言った。

「ミナ……感動の再会が台無しだよ」

 セレナは肩をすくめ、苦笑いをして言った。

 ミナもセレナの反応に苦笑しながら、懐かしそうに目を細めた。実のところ、一ヶ月ほどの間を置いただけだが、二人の間には長い時間があったような感覚があった。

「えーと……なんだか、感動的な場面ぽいですけど、ボクってなんで追いかけられたんでしょう?」

 ファティマが見つけた緑の髪の少女もつられるように苦笑して呟いた。


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