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異世界大陸幻想譚アルカーティス  作者: 水夜ちはる
8章・黄金の大地
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8章・黄金の大地(1)

 森林と豊穣の穀倉地帯。

 生命の源である緑と水はこの地を多い尽くし、尽きることなくその資源を提供してきた。

 だが、それも無限ではないことを現在が表している。増えすぎた人間達はその大地が供給する恵みを搾取するだけで、何の見返りも与えなかった。


 やがて大陸は乾燥化に向かった。

 土地は痩せ、水は大地の奥底へと姿を消した。わずかなオアシスだけを残し、大地は砂と岩の砂漠へと変わって行った。


 砂漠が広がる速度は想像以上である。

 乾燥の中、暑さと寒さで砕かれた砂は風に乗り、集落を、畑を砂で多い尽くした。そうしていかなる植物すら根を下ろすことが出来ぬ乾燥した不毛の大地は大陸を飲み込まんとばかりに広がっている。

 そして、何時か人々は砂の色からこの不毛の大地を皮肉を込めてこう呼んだのである。「黄金の大地」と――。




 アレルの住む漁師町を出て二十二日目。ようやくセレナとファティマはホーエンツ公国カインに付くことが出来た。

 ずいぶんとのんびりした行程であったが、女性二人だけという事もありなるべく野宿を避けるため、宿場町を経由する時間の調整が慎重なったからだ。そのため特にトラブルに遭う事もなくカイン市に到着していた。


 カイン市を一言で表現するなら、「商都」である。

 陸海の交通の要所であり、古くから市で賑わう街だ。カランダやヴァルハナという賑やかな都を見たことがある二人であったが、質実剛健なその二つの都とはまた別に、自由と奔放に溢れた賑やかさに二人は圧倒されていた。


 二人はまず下町の安宿の一室を取ることが出来、またその宿泊賃の安さに驚いた。

「何、沢山の客がいれば、一人頭の料金が安くとも儲けは出るからね」

 やたら気風の良い中年お女将がそう二人に教えてくれた。

 二人の少女はひとまず食事をとりながら今後を決めることにした。


「ここに来るまで随分かかっちゃったけど、みんなこの街にいるのかな?」

「そうね……私ならこの街には留まらないかな」

 ファティマの問いに、セレナは顎に指を置いて答えた。

「どうして?」

「だって、こんなに人がいるんだもん。それに広いし。定住者を探すならともかく、流れの旅人を捜すのはまず不可能だと思う」

「そっか。そうね……はぐれたときに落ち合う場所を考えておいた方がよかったかな」

 ファティマはため息を付いた。


 しかし陸上ではぐれるならばともかく、海上ではぐれるとは旅慣れたアーディル達でも想像できなかった事である。

 過ぎてしまったことはとにかくどうしようもない。

「とりあえず、アーディルたちと合流しないとね」

「うん、私達があの人達ならどうするか……」

 ファティマはしばらく考え込むと、女将の所へ駆けていった。一言二言、彼女と話すとすぐセレナの席へと戻ってくる。


「どうしたの?」

「えっとね……」


 彼女が説明するまもなく、女将が古ぼけた羊皮紙を持ってきて広げた。地図である。

 カイン市を中心とした、街道と主要な宿場町が書き込んである簡単な地図だった。

「古い地図だけどね、あんたたちのような旅人がおおよその行き先を決めるぐらいならこの地図で十分なはずさ」

 女将が言うとファティマは頷いて言った。

「ここから、アステ・ウォール市に抜けるとしたら?」

「この街道だね。ここの道はまだオアシスが生きてるはずだ。でも、砂漠越えだよ?」

 ファティマは無言のまま、その街道を視線で追った。

 幾つかの小さな街道が別れては交差している。そして彼女の視線が一つの街で止まる。


「ナルシャ……」

「ん? ナルシャの街かい? あそこは中央砂漠の入口のオアシスだよ。砂漠越えの街道でアステ・ウォールを目指すなら、この街には必ず立ち寄るね」

「この街の大きさは?」

「たしか砂漠との境目の小さい街さ」

 女将は答えながらも怪訝そうに少女の顔を見た。


「ありがとうございます。とても参考になりました」

「ん? ああ、気が済んだかい?」

 ファティマは丁寧に羊皮紙を折り畳むと、女将に会釈をして返した。

 女将は変わったことを訊く少女だ、とも言うような正直な表情でそれを受け取り、自分の仕事へと帰っていった。


「いい方法だと思うの、聞いて、セレナ」

「ん、大体解ったと思う」

 セレナは微笑んで片目を愛嬌よく閉じて見せた。

 ファティマが小さく驚いた表情を浮かべる。

「そのナルシャなら必ずみんな通る街だし、小さな街なら、目的の人も捕まえ安いって訳ね?」

 セレナはさらさらとファティマの言おうとしたことを説明した。

 ファティマは視線をセレナに移した。深い紫色の瞳が悪戯っぽく輝いてファティマの顔を映し出している。


「ふふっ」

「考えてることは一緒だね」

 二人は顔を見合わせて笑った。


 実は、ジークは二人がカインに到着したとき、その地に執着するのではないかと、一種の懸念をミナに話していたのだが、

「セレナ達はそんなに頭悪くないよ」

 と、一笑に伏していた。


 一晩の宿を取った後、二人は南を目指して新しい大地へと旅立った。

 進めば進むほど、富ならぬ黄金へと風景を変える大地へと。


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