2泊目 「来訪者」
「いない!!」
朝、町中でそう叫んだのは黄緑色の長い髪の一見女の子の様にも見える少年だった。少年は必死に何かを探していた、「フー子」と探しているペットであろう名を呼んでいると、そこへ1人の女性が声を掛けた。
「あの…ペットがいなくなったのですか?」
「ペットじゃないよ、フー子は友達!」
最近では飼い主に「犬」とか「猫」とか「ペット」なんて言うと怒られる事も多々あるし、この少年もその類いの人なのかな?
なんて思いながら更に尋ねた。
「フー子さんはどんな子ですか?良ければ一緒に探しますよ?」
「ありがとう!お姉さんは優しいね!」
話を聞くと、どうやら「フー子」というのは小さな小鳥らしく、いつもは肩や頭の上に乗っているんだとか。飛ばないけど風に飛ばされるんだと少年は言う。何故飛ばない、てかむしろ飛ばされてるとは一体どんな鳥なんだ!?色々疑問が浮かぶが敢えて聞かなかった。
あれから2人で探してはみたものの結局見つからず、少年とは別れた。少年は少し悲しそうな顔をしていたが、「大丈夫前にもこんな事あったから、きっとまた戻って来るよ!」と言って去っていった……去り際に不思議な事を言い残して。
「お姉さん、今日は寄り道しないで真っ直ぐ家に帰った方が良いよ」
「え?」と振り返った時には、そこに少年の姿はなかった。なんだか不思議な子、と思いながら家路を急いだ。
同時刻、迦具土温泉では小さな来訪者が来ていた。それはまん丸とした小鳥だった。風に飛ばされて来たらしい。「可愛いねー!」とテマリが両手に小鳥を抱えて言い、イマリも小鳥を眺めつつ同感した。そこへ仕入れから帰って来た洋服姿のヒノエと竜御がやって来た。いつもは「迦具土温泉」と名前の入った半纏-はんてん-と股引きを着ているが、買い出しや仕入れで町(現世)に出る時は各々私服を着て行く。
今更だが、ヒノエは真っ赤な長い髪を後ろで2つに結っていて前髪を上に上げて白いピンでクロスに止めている、金色の瞳で普段は伊達眼鏡をかけている。2人は小鳥を見るやいなや、
「ん?こいつぁ…」
「…あぁどおりで!」
何かに納得した2人だったが、テマリとイマリにはさっぱりであった。知らせてあげるべきかな?と悩む竜御に「問題ないさ、直ぐに分かるだろ?」とヒノエはその小鳥を少しの間うちで世話するように言った。するとー
「っ…来た」
突然ヒノエの顔つきが真剣なものに変わった。「来た」とは一体どういう事なのか?遠くに意識を向けるヒノエの瞳は眼鏡越しに僅かに光っているように見えた…。
さて、時は少し遡り少年と別れたあの女性は1人彷徨っていた おかしいわ…あれから家路へ向かっている筈なのに、何十分…いや何時間歩いたか分からないのに一向に辿り着かない。私の家はあの町からさほど遠くない場所なのに…。何だか景色が全然変わってない気がするし、さっきからだんだん霧が濃くなって辺りがよく見えなくなってきた。どうしよう…このままでは帰れなくなってしまう!
途方に暮れ暫くその場に立ち尽くしてしまった女性の目の前を突然明かりが灯った、これはー「火」かしら?まるで、道標の様に一定の間隔で灯った火はずっと先まで続いていた。すると、どこからともなく声が聞こえてきた…
「その明かりの方へ歩きなさい」
きっと誰かが助けに来てくれたんだわ!今はただポジティブに考える事にした。あまり深く考えたくなかったし、なんだか頭がぼーっとする。これで帰れると安堵した女性が明かりの方へ歩き出そうとしたその瞬間、後ろから何かに腕を掴まれた!びっくりして振り向くとそこには赤い髪の1人の青年が立っていた。「迦」と書かれた提灯を持ったその青年は着物を着ていて、よく見ると「迦具土温泉」と書いてある。青年はにこっと笑うと私にこう言った。
「行ってはなりません」
「周りを良く見てご覧なさい」と言われて辺りを見渡すと、一体どういう事だろうか!いつの間にか霧は晴れていて、知らない山奥に立っていたのだ!朝だったのに…今はすっかり夜になっているではないか!そんなに歩いた覚えは全くない!混乱する女性に
「突然すみません、この山奥に女性が1人で入って行ったと連絡がありまして、ここは知らぬ者が足を踏入れるには少しばかり危険でしてね心配になって探しに来ました。」
「私、さっきまで町にいて…家に帰ろうとしていたのですが、何故だろう…気付けばこんな所に」女性は事の次第を青年に話した。青年は「フム…」と真剣に受け止めてくれた、私は少し嬉しかった…信じて貰える自信がなかったからだ。
「さて、取り敢えず帰らねば…なのですが、どうでしょう?貴女の言う町はここから結構遠いのですよ…なので今晩はうちに泊まっていきませんか?実はこの近くに私が営む旅館がありまして」と親切に言ってくれたのだが、生憎私には持ち合わせがなかった…困った顔を読み取られたのか「お代は結構ですよ、これも何かの縁ですから遠慮なく」私はお言葉に甘えて泊めて貰うことにした。
「ではご案内します!あぁ、申し遅れました私ヒノエと申します以後良しなに。さてお客様、しっかりと私に着いて来て下さいね、危ないので決して振り返らずに前だけを向いて歩いて下さい。」
また迷子にでもなったら大変だ、私は青年の言う通りに着いて行った。
…そう言えば、最初に私に声を掛けたのは一体誰だったのだろう?少し疑問になったが、考えない事にした。今日はもう疲れた…
「今日は小鳥とはぐれた男の子と会いましてね」と無言なのが少し気まずくてヒノエに話し掛けた。
「その男の子が帰りは寄り道しない方が良いって言ってくれていたんですよ、今思えば不思議ですよね?まるで私に起こる事が分かっていたみたい…。」そう言うとヒノエがくすくすと笑い出した。私、なにか変な事言いました?と尋ねると…
「男の子…ですか、フフまぁ確かに」ヒノエは女性に背を向けたまま話を続けた。
「見た目と中身というのは、お客様が思うより違っているものです…外見だけに捕らわれていると、大切なものが見えなくなりますよ?今日のお客様の様にね。」ま、それが出来れば苦労しないかと呟きながら歩を進める。
少し哲学じみていて難しいな…なんて心の中で思いつつ、後ろを着いて歩く女性
「そう言えば、まだお客様の名前を聞いていませんでしたね。」唐突にそう尋ねられた。
「そうでしたね!すみません、私は神崎 桜と言います。」
「神崎…とても良いお名前ですね!」と突然私の方に振り返った。
「ようこそ、我が迦具土温泉へ!神崎様に最高のおもてなしをさせて頂きます。どうぞごゆっくりなさいませ」と深々とお辞儀をした
全然気付かなかったが、いつの間にか辿り着いていたようだ…
辺りに建物は何もなく自然に囲まれていて、どこか神聖な空気の流れている温泉旅館…
ここが、迦具土温泉ー…
2泊目、終わりでございます!!
ここまで朗読ありがとうございました(*´∀`)ノ
今回、初のお客様「神崎 桜」が登場致しました!
人間でしたね(笑)
さて次回はヒノエに勧められ宿泊した桜、彼女は無事に帰れるのか?
狐火、今から考えます(笑)