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9枚目 雪村乃々子side


「礼っ!」


 鋭い部長の声でいつも通り終わった部活。

 ありがとーございましたぁ。

 お腹すいた。今日の夕ご飯なんだろう。

 あぁ、天音がいるからあの子の大好物のミートスパかシチューどっちかかな。どっちにしろ腹持ちしないな。

 ……しょうがない、コンビニ寄って帰ろう。


「雪村ぁ、鍵当番ー」


 ……。


「その顔。まったく、じゃあそんな不機嫌雪村ちゃんにこの先輩がアーモンドチョコをあげよう」

「先輩、あたしナッツアレルギーなんです」

「え、そうだっけ」

「なになに、雪村に餌付け? チョコクッキーあげよっか」

「お、じゃああたしはメロンパンやるよ。作ってきたんだ」

「ガチで? え、私も欲しいそれ」

「はいはい、その前に着替えて。雪村の帰り遅くなるでしょ。はい、雪村マシュマロと鍵ね」

「……ありがとーございまぁす」


 両手、食べ物でいっぱい。どうしようか。食べればいいか。




 ♯




「じゃ、これ鍵です」


 じゃらっ、とドルオタ先生の顔の前で揺らせば、鍵じゃなくてあたしの全身をゆっくりと見てきた。


「なんですか。セクハラですか」

「こんな可愛くない反応する生徒にセクハラなんかするかっつーの」


 つまり、可愛い反応する生徒にはするんだ。知らないけどね。コレが訴えられようと。


「道場のな。夜遅くまでごくろーさん」

「どーもぉ。じゃ、失礼しまぁす」

「金髪ー」

「はぁい」


 やる気ない生徒指導。

 あー、そういえば、先生の中でこの人だけがあたしのことうるさく言わなかったなぁ。

 そっか。じゃあ名前くらいは覚えておこうかな。


「先生」

「あ?」


 ガラ悪い。本当に教師?


「名前、なんでしたっけ」

「担任の名前知らねーの、お前くらいだ」

「名前」

「湯島だよ、湯島」


 湯島。

 なんだっけ、なんか聞いたことあるような。


「あ、『ゆまりん』?」

「橘だろ。あいつ、どうにかなんねーのか幼馴染みさんよ」

「彼女なりの愛情表現ですよ、受け取ってあげてください」

「マジか」

「さあ」

「おい」



 テキトーな返事にテキトーな返答が返ってくる。興味あるのかないのか。そろそろ帰りたいんだけど。早く解放してくれないかなぁ。

 あ、別に待ってる必要ないか。帰ろ。


「さよなら」

「あぁ。気をつけろよー」


 職員室のドアを閉めてふと思う。あれ。名前なんだっけ。

 いいや、あとで天音に聞こう。

 天音と言えば、ケータイ見れば夕ご飯なにかわかるじゃない。うっかり。

 そんなタイミングでピカピカ光る画面には、案の定ちょっと興奮気味な天音からのメッセージが届いていた。

 あぁ、ほら。ミートスパ。お腹にたまらない。やっぱコンビニ寄ろうかなぁ。喋ってたらお腹すいてきた。



「あ、雪村さん」

「あ、ストーカー」

「……」


 こっちは思い出せる。

 九条那月。最近、天音が気になりはじめてる男。


「……雪村さん。ちょっと、話があるんだけどさ」


 胡散臭い笑顔。

 天音はこの男のなにがいいんだろうか。

 ま、キザ男よりはいいと思うけど。

 とゆうか、アレと付き合ってたことにもあたしは疑問だったけど。一体どのあたりが兄貴たちに似てたのか是非聞きたい。精々、馬鹿さ加減ぐらいじゃないの、似てるの。

 あぁ、もしかして、天音って男見る目ないのかな。


「コンビニでなんか奢るよ」

「早く部室の鍵返してきて」


 写真部の部室の鍵が、彼の指にぶら下げられていた。




 ♯




 のんこ、今日遅いなぁ。

 部活、長引いてんのか?帰ってきたときの不機嫌さがどれほどか……。

 うん、よし。針は全部あるね。散らかしてた布は全部片付けたし、ドレスも隅に置いたし、もうやることなくなっちゃったなぁ。


「天音ちゃん?」


 あ、維澄兄。


「はぁい。どうしたの?」

「のん、帰ってきてないよね?」


 私の頭越しに部屋を見渡して、のんこがいないことを確認する。


「迎えに行くかぁ」

「のんこ?」

「うん。必要ないかもしれないけど」


 ああ、うん……。

 のんこ襲うような人には本気で同情する。

 剣道部っていうのもあるんだけどね。

 それ以前に、のんこ、喧嘩も強いから。殴り合いの。原因は維澄兄と亜澄兄だってのんこは言うけど、ふたりがただの好青年だったとしても不良道突っ走ってたんじゃないかな。

 そう。維澄兄と亜澄兄も中、高と荒れてたんだよね。なんか、暴走族にも入ってたとかいないとか。


「あ、じゃあ私が行くよ」

「いやいやいや。駄目だから、夜にひとりでとか」

「えー? まだ七時だよ?」


 フツーにこのぐらいの時間出歩いてるし。

 ……ん?


「あれ。なんか聞こえない?」

「え?」


 ほら、話し声。

 聞き覚えある……、あ、ほらほら。


「のんこ、帰ってきたんじゃない?

「え、マジで? 俺なんも聞こえねー……」


 衰えとか嘘だろ?となにやらボヤいてる維澄兄をよそにシャッとカーテン開けて下見ると、やっぱりのんこが──、


 ……あら。


「男の子? と、いる?」


 誰だろ。

 あの人と会ってたから遅かったの?

 え。

 まさか、のんこに限ってふ、二股?いや、いやいやそんなはずは……。


「男の子? 男の人じゃなく?」


 そう。

 のんこのカレシは男の人。

 でも、あれは明らかに男の子。制服着てるしってか、あれウチの制服じゃん。

 えー、誰?随分背の高い……、


「んっ?!」


 ちょっと待て。

 上からじゃちょっとよくわかんないけど、あの丸いシルエットとさらさらな感じの髪の毛。

 あ。

 今、のんこに振った手!の指!あの細い感じ、まさかまさか、


「九条、くん?」


 えー!

 のんこの浮気相手って九条くん!?マジかマジでか!

 ああ、でも、だからのんこ九条くんの名前も部活も知ってたのか。納得。


 はっ!


 九条くんのこと、どう思ってるのか聞いてきたのって、もしかして、私が九条くんのこと取っちゃうと思ってたんか!?

 これは、誤解解いとかないと!


「のんこー!」


 思いのまま、目の前の窓開けて下に向かって叫んだ。


「げ」


 おい?

 なにその、あからさまに嫌そうな顔。こんな美少女見た瞬間だってのに、それはなくないか?


「ちょっと、のんこ! あんたまさか──」

「勘違い馬鹿! 黙れ!」

「…………ん?」


 な、なにが?

 え?なんか今、ヒドくなかった?

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