8枚目
朝早ーくに準備するのんこに合わせて、休日なのに五時半という時間に起床。
部活、七時からとか異常でしょ。なんなの、剣道部。
あぁ、だめだ。私、朝ほんと苦手なの。座ってはいるけど、お布団にくるまってぼーっとしてる私の前で、五分とかからず制服に着替えてピアスを装着したのんこは、三分でご飯食べて「じゃ」と、竹刀を持って出て行った。
相変わらず早いな。
時計は五時三十七分を指してる。のんこ今日、新記録更新じゃね?
それからしばらくして、やっと起きる気になったから、のそのそ布団から這い出した。
着替えて髪の毛テキトーに纏めて、私用に出してくれた布団をだらだらと畳み終わった頃には、六時半なんてとっくに過ぎてた。
うーん。
ま、私にしては早い方でしょ。
そろそろ、雪村家も起きだす頃かな。悠くんが部活だろうから。
悠くんも剣道部で、というか、維澄兄も亜澄兄も剣道やってた。なんか、お祖父ちゃんの影響だとか。
ちなみに、息子であるおじさんは全然やったことないんだって。けどフェンシングって聞いて納得した。日本から飛び出しちゃったわけね。イメージぴったりだからいいと思います。
そろそろ下行って、朝の支度のお手伝いでもしよう。
料理はできないけど。なにかしら、手伝えることあるでしょ。……たぶん。
って、ドア開けた瞬間。
ゴンッ!という凄い音と凄い衝撃。
「い"ッッ〜〜!!」
……あと、悶絶。
「えっ!? ……あっ、悠くん!?」
うわっ。どーしよ!
廊下で顔を抑えてうずくまってる様子を見るに、まあ、つまりそういうことで。
「ご、ごめん! ごめんね! 大丈夫? 痛い? 痛いよね!!」
「〜〜ッ、へ、へーき……」
顔を上げた悠くんの目は潤んで煌めいてて、片手で押さえた鼻は赤くなってる。
やばいやばいヤバイ。
「鼻血とかは? も、もしかして、折れ、折れた!?」
「え、いや、」
「どーしよ! ほんとにごめんね! 私が不注意だったばっかりに……!」
「ちょ、天音ちゃん、」
「病院……、救急車!? あれ、こういう場合って呼んでいいんだっけ!?」
「天音ちゃん、大丈夫! 大丈夫だからっ」
「うるっせーぞ、悠馬ぁ」
寝起きで低い声が聞こえて、目の前の悠くんの頭がぐんっと下がった。で、その後頭部は大きな手に鷲掴みされてて。
「維澄兄!」
「天音ちゃん、おはよー」
「ど、ど、ど、どうしよう!」
「あン?」
くあ、って欠伸してる場合じゃないんだって!てゆか、悠くんの頭、離したげて!!
「兄貴! 離せよっ!」
「朝っぱらからなに騒いでんだよ、おめーは。天音ちゃんに迷惑だろが」
「ち、違くて、私が悠くんに怪我させちゃって、それで……。あ、起こしちゃってごめんね、維澄兄!」
やばい、ちょっと待て。
私なんか余計なことしかしてない!
「怪我ぁ? 天音ちゃん、コイツはちょっと殴ったくらいじゃ、んなのしねーからへーきへーき」
「……癪に触る、けど! 今は兄貴に同意する」
微妙な表情した悠くんの鼻はまだ赤い。私がやっといてアレだけど、い、痛そう……。
「ほ、ほんとに? 鼻は痛いでしょ、絶対」
「痛くな……、いや痛かったけど、今はだいじょーぶだから! 目覚めたし、丁度よかった」
ニカッて笑う、悠くんの甘くて爽やかなスマイル。そのお顔にドア思い切りクリーンヒットさせた私、マジで罪深い。
「天音ちゃんも気にしねーで、ほら、朝メシ食いに行こ」
まだ掴んでた悠くんの頭わしゃわしゃして、「やめろっ」と鬱陶しがられた維澄兄は、笑って下に降りてっちゃった。
「悠くん、ごめんね」
「いいって、もう。天音ちゃん悪くねーし」
ほんと悠くん優しい。
雪村家は神様の集まる家か。
「悠ー? 時間ないけどいーのー!?」
下から佳代ちゃんの声が聞こえた。
「あ、ヤッベ! よくないよくない!」
反射的に端によったら、その空いた所を慌てた悠くんが通り過ぎてった。
ロクなことしないな、私……。
……って、あ!
床に落ちてるこれ、剣道の手拭いじゃない?「いってきます!」って悠くんの声。
「あっ、悠くん悠くん、待って!!」
落ちてんのひったくって、階段駆け下りたら靴履いて振り返ってる悠くんが。
「これ! 手拭い」
「え? あ! ありがと!」
「いってらっしゃい!」
「……っ、い、いってきます」
照れてる悠くんめっちゃ可愛い。
やばいな、どーしよ。私変態みたくなってきてる。
「なぁ、見た? 見た? あいつの顔」
「見た見た。長いねー。いつから?」
「知らね。気付いたときには〜、とかじゃね?」
「いーねー、青春だねー」
維澄兄と佳代ちゃんが笑いながら話してる。なんの話?
「佳代ちゃん、おはよう。維澄兄も。起こしちゃってごめんね」
「おはよう、天音ちゃん」
「起きようと思ってたから、気にすんな」
佳代ちゃんも維澄兄も悠くんもニカッて笑う。あ、あと亜澄兄も。この笑顔、私凄い好き。
「そーいや、昨日のドレス、文化祭のだよな?」
維澄兄は違う学校だったんだけど、ウチの異常な美術部のことを知ってるの。ちなみに、双子の亜澄兄は私らと同じ高校だった。いわく、『双子で一緒にいるのは高校で飽きた』らしい。私は、単にのんこと同じとこ行きたかっただけなんじゃないかと思ってるけど。
「そう! 去年は一年生だから、お手伝いだったんだけど、今年は私が着て出るんだー」
やっぱ美術部だから、被服やってるのは先輩二人と私だけ。これでも多い方なんだって。
で、先輩たちはファッションショーには代理の人に着て出てもらうらしいんだけど、自分の作品だし、はじめてだし、私は自分で着るんだぁ。
「マジでか。え、じゃあ俺見にいこっかな」
「ほんと!?」
はじめてで、楽しみで楽しみで仕方ない。その上、維澄兄まで見に来てくれるなんて!
「じゃ、じゃあ、最高のドレス完成させてみせる!」
「おう。天音ちゃんの可愛い姿、楽しみにしてっから!」
「うん!」
めっちゃ嬉しい!テンション上がった!もう、ほんと頑張るー!
……あぁ、亜澄兄も見に来てくれればいいのに。
「あの馬鹿にも連絡しといてやっから」
「……! 維澄兄、大好き!」
やっばい、維澄兄マジイケメン。
……やっぱ、「元」カレとなんて比べるのもおこがましいわ。