71枚目
だってだってだって、こんなに早く那月と顔合わせるとは思ってなかったし、心の準備なんてもちろんなかったし。
……ってゆー言い訳すら口から出てこない。
しん、といやな静まり方する中、周囲の楽しそうな声と波の音だけ聞こえる。
「ええっと、えっと、あのね! 綺杏が──」
「あ、天音……」
まっすぐ私だけを見て那月が呻くように呟いた。
ぱく、と口を閉じた綺杏は、唐突に隣の長谷川くんの背中をバシッと叩いた。
おそらく無意味なのだろう暴力を、長谷川くんは無表情で許容してる。絶対今の痛かっただろーに……。
「……」
「……」
そして、それ以上言葉を続けられないらしい那月と、同じく固まるしかない私。
どぉしよ……。何言えばいいの?だって、那月が……、あっ待って、ちゃんとパーカーのファスナー、閉まってる!?閉まってた!
まさか、本人前にしてあんな跡さらすわけにはいかない。
「ねえ、のん! だから上着てって!」
「おっと、タイミング悪かったかな」
と、そこに騒ぎながらやってきたのんこと彼氏さん。
「の、のんこ!」
「なぁに」
ぽいっとスマホを後ろに放り投げ、黎さんにキャッチさせて黙らせたのんこは、ニヤニヤしながら寄ってきた。
ほんとにもうこの顔。
「那月が、那月がいるんだけど!」
声を押さえて叫べば、当ののんこは全くもっていい笑顔。こいつめ……!
「呼んだからね。だって天音、アレと会うときあたしに隣にいろって言ったじゃん」
言ったけれども……!
こんなすぐに、しかもサプライズ的なのは予想も期待もしてなかった!
「天音」
はぅ!?
ちょっと待って。いつの間にか那月が近くまで来てた!どんな顔してればいいの?視線なんか恥ずかしすぎて合わせらんないし!
「天音、あの、その、ごめん」
ガバッと、唐突に頭下げられた。
はっ!?
え、今なんで私謝られたの?つか、なにを謝ってんの?
「俺は、天音を偽ってばっかで、ほんとに、謝っても謝っても足んないくらいだけど、でも──」
「ちょ、ちょっと待って待って!」
謝る?偽ってばっか?
なにそれどーゆーこと?てゆーかそれって……。
「か、カラダだけの、関係だったってこと……?」
「えっ!? な、なん……、じゃねぇ! 違ぇから!」
一瞬顔を赤くして、動揺してるのか口調が崩れまくってる。
「えっ、天音ちゃん遊ばれてたの!?」
「黎は黙ってて。話ややこしくなる」
後ろで黎さんの小さくうめき声が聞こえた。
暴力カノジョ、私の周りに多くないか?
そんな関係ないことを思いながら、私の足先は勝手にくるりと向きを変えた。
「あ、天音!?」
「……」
名前を呼ばれる程に、進むスピードは速くなる。あぁ、うん。聞きたくないなぁ。
なんだろう、那月にセフレがいたってわかったときよりも、なんか、こう、傷ついてる。かも。
「今のは那月が悪い」
「ほんとほんとー。綺杏だったら、遊びだなんてわかった途端、問答無用で殴って帰るー」
「それな。俺も」
後ろでこそこそと、いや、結構おっき目の声で好き勝手言ってるカップルは、那月に盛大な追い打ちをかけた。ぐっさりダメージ受けたらしい那月は、私の後を追ってこない。
あぁ、私も帰りたいわ。いや、さすがに姫杏が言うように殴りはしないけれども。
……あぁ、泣きたい。




