68枚目
ピンポーン、と家のベルが鳴ったとき、ベッドの中にいた私を責められる人なんていないと思う。それがたとえもうすぐ十二時になろうってときだったとしても、ベルが十回以上鳴ったあとだったとしても。
むしろ。
「は? いつまで寝てんの? 早く起きて。待たせるな」
不法進入してきた不良と小動物を訴えるべきなんじゃないかな。
「わぁ、アミちゃんのお部屋、ちょーオシャレだね!」
「珍しく片付いてるね」
「あ! これ、こないだ遊び行ったときになっちゃんに買ってもらったネックレスだね!」
「──ッ!?」
ドタンッ、と鈍いした。私が床に落ちる音。
「……なにしてんの?」
めっちゃ呆れた視線を上から注がれた。その手に光るのはウチの合鍵。お母さんが、なんかのときのためにって、佳代ちゃんに渡してたやつ。
「痛い」
手が滑った。
『なっちゃん』という単語に動揺したからとかでは決してない。
「アミちゃん、大丈夫!? どっかぶつけちゃっ──」
おそらく私を起こそうとしてくれてた手を、綺杏は空中でぴたりと止めた。
え、どしたの?いや、まあ、自分で起きれるから起きますけど。
うぅ、膝と肩痛い……。
「……天音」
「なーに……、なに?」
見上げた先ののんこは、私と目があった途端、真っ赤なリップを塗った唇をニヤリと釣り上げた。
「楽しい話が聞けそうだね」
急に上機嫌になって、自分の首元をトントンと指先で叩いた。
え、なんな──、
「〜〜〜ッッ!?」
バッとパジャマの襟を掻き合わせた。けど、もう遅い。綺杏にものんこにも、ばっちり見られた赤い痕。
「そういえば、昨日はなっちゃんの誕生日だったね……」
「ほう?」
綺杏の余計なひとことで、のんこの尋問は決定した。
♯
はじまりは、綺杏がのんこん家に来たこと。
私とのんこが幼馴染って最近知ったらしい綺杏が、夏休み中に三人で遊びたいと計画を立てに来たらしい。
「はーい、おまちどぉ!」
私のエプロンを着けた綺杏が、キッチンからお皿を三枚同時に持って出てきた。
「アミちゃん家のキッチン、使いやすいし道具いっぱいだし調味料のバリエーション凄いし、いいねー! お母さん、お料理好きなの?」
コトンコトン、と置かれたお皿には、湯気のたったチャーハン。めっちゃおいしそうな匂いする。ワカメスープと、今日のために作ってくれたってゆーババロアもテーブルに並んでる。
お父さんがいないのにこんなちゃんとした食事できるなんて。
「お父さんが全部揃えてんだ」
「そっかぁ!」
「お腹空いた」
あ、はい。
女王様のひとことで、「いただきます」が重なった。
「で、よかったわけ?」
「ゲホッ!」
「わー! アミちゃん、あ、えーっと、はい、お水!」
は、はぁ!?
なにその急に、しかも直球!
綺杏、水ありがと。
「ま、セフレとかなんとか言っててヘタだったら逆にウケるけど」
一切顔上げないでパクパクとチャーハン平らげてるくせに、喋る口に全くの支障が出ないってどーゆーことなの。
「ハジメテ同士じゃなくて幸せだったんじゃん? 痛くなかったんでしょ?」
「んな……ッ」
こっちはこっちで、チャーハンに手ぇつけらんないどころか、言葉も出ない。
「そんなステキな処女卒業で、しかも愛なんて囁いてもらっちゃったら──」
あの、骨ばった指で撫でられて、サラサラな髪が汗で張り付いてたり。思ってたよりも筋肉がついたカラダとか、大きくて激しい心音とか。
『俺、こんなに大事に思ったモンなんて、はじめてなんだよ』
悩ましげな声であんなこと言われて──。
「わー!! もうやめてぇぇぇ!!」
顔覆って、それだけじゃ足んなくて目の前のテーブルに突っ伏した。心臓、心臓口から吐く。
頭上でケラケラ笑い声。久しぶりにのんこが声あげて笑うの聞いた。原因が別のことならもっと感動できたのに……!
「私もう那月と顔合わせらんない」
「あははウケる。あたしどこで見てようそれ」
「見なくていい! ……いや、やっぱそんときは隣いて!」
ふたりっきりとか絶っっ対もたない!私が!
「アミちゃんかーわいーい!」
耳が真っ赤!ってちょんちょんすんのやめて。綺杏の指が冷たく感じるほど熱いって認識させられんでしょ!
「あ、じゃあ遊びに行くのはプールにしよっかぁ!」
なにが『じゃあ』なの?
「あたし、水着持ってない」
「買いに行こっ! いつにするー?」
「……」
なんだろう、この放っておかれ感。
話題逸れてよかったはずなのに、なんか……。
「来週以降がいい」
「ババロアおいしい」
「わ、のんのんホント? よかったぁ!」
「聞けよ」
ヤダもうなにこのマイペース集団。




