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66枚目

 


 玄関開けて靴を脱いだら、那月の手を取って歩き出す。


「あ、ちょっと……」


 たぶん靴脱いでる途中だろう那月を無視して階段へ。ここまで一切会話してない。那月はごめんね、とか言ってたけど、なんとなく返事しなかった。

 何に対しての謝罪だよ。いやわかるけど。でも別に私怒ってないし。

 そう、怒ってない。

 だから那月が、私に手を引かれながらどーしようかと焦る必要も、顔面蒼白にさせる必要もない。


 ないけど。


 ガチャッと開けた先は私の部屋。戸惑ってんのが背中でわかる。


「あ、天音?」


 ぱっと手を離したら、那月の指先が追いすがるように私の手の甲を掠めた。

 冷たい。


「なに?」


 振り返ってはじめて声を発した。那月は安堵してるような不安がってるような、よくわからない顔してる。


「えっと、あの、……ご飯、は?」

「お腹空いてる?」

「んや……」


 だよね。

 お昼食べてから今まで、移動時間分しか経ってない。これでお腹空いてるって言われたら、本気で那月の胃袋を心配するとこだった。

 ふう、とひと息つくと、ドサッと肩のスクバ落とした。今日は補習だったから、珍しくペンケースとノートが入ってる。


「ね、座って」

「え? あ、あぁ、うん」


 わけわかんない、って顔しつつも、その場に膝をついた那月に続いて私も座った。

 怒るなんてことはない。

 だって、過去の話だし、私だって何人かカレシいたし。那月の場合、カノジョじゃなくてセフレだったってゆー違いだけで、大した問題じゃない。


 ただ、問題なのは──。


 手を伸ばして、その首から下がってた眼レフを慎重に取った。疑問を浮かべてるけどなにも言わない那月の前で、横のテーブルにタオルを置いて、その上にそっと乗せた。


「これでいい?」

「……うん」


 とりあえずって感じで返事した那月にひとつ頷いて──、制服のリボンに手をかけた。


「えっ、ちょ……っ」


 さっさとリボンを捨てると、プチプチプチ、とシャツのボタンも外してく。だけど、よっつ目まで取ったところで、慌てた那月に止められた。


「え、え? 待って、なにして──」

「私じゃ、」


 キンキンと甲高い女の声が聞こえる。まだ、耳に残ってた。


「私とじゃ、デキないの?」

「……っ!?」


 頭上で息を呑む音がした。

 シャツを握った私の手首を掴んでる、那月の大きな手を見つめる。

 付き合って、二ヶ月たった。

 あの女の口ぶりからしたら、那月は絶対手が早かったはず。二ヶ月もなにもないなんてこと、なかったんだろう。

 でも、じゃあ、これってどーゆーこと?


「やっぱ、私とじゃする気が起きないって、ことなの?」

「ち、違う! あっ、や、違うってか、いや、違くはないんだけど、」


 なんか勝手に焦ってるみたいな様子に思わず見上げれば、ばちりと目が合った。

 ふっと一瞬、沈黙が挟まる。

 そうして、那月が小さく息を吐いた。


「天音、ごめんね」

「っ!」

「あ、そ、そーじゃなくて! あの、俺が昔、その、遊びまくってたから、そのせいで天音に嫌な思いさせちゃって。ほんと……、ごめん」


 なにに謝られたのか一瞬わかんなくて、たぶん無意識の内に傷ついた顔したんだと思う。

 手を両手で包まれた。やっぱり冷たくて、緊張してんのか、少し汗かいてた。


「他にもたくさん、そーゆー後腐れない関係のがいて、」


 百合華、とかって言ってたね、あの女。

 たぶんその人も『セフレ』の内のひとりだったんだろうな。


「それこそ毎日のように、その、」

「シてた?」

「…………うん」


 すっごい気まずそうな顔。

 でも、目だけはそらさないでいてくれたから、私も視線を落とさないでいられた。


「天音のことが、本気で好きなんだ」

「……ぅえ!?」


 待ってなにその突然の告白は!

 そんな流れだった?あれ?


「好きだから、大事にしたくて。手ぇ出したら、今までのと同じにしてるみたいで、それが嫌で。……ごめん、俺の勝手な我儘で、不安にさせて」


 あ。

 どーしよ。


 って悩んだのは一瞬だけで、次の瞬間にはもう行動に移してた。

 握られてない手を那月の肩に置いて、止められない内にさっさと顔寄せて。

 真っ赤な耳に、かぶりついた。


「〜〜〜ッッ!?」


 両肩掴まれて、思いっきり身を離された。トン、と背中にベッドが当たる。軽い衝撃にちょっと目を閉じてから開けると、目の前には。


「──っ、あ、まね、ほんと、お願いだから、やめて」


 その耳よりも真っ赤な顔した那月が、どんどん距離取っていくとこだった。


「……イヤだった?」

「ちがっ……。…………ほんと、もう、理性が、保たないから」


 部屋にふたりっきりってだけでもヤバいのに。

 そう、呟いた那月をどーしようもなく可愛いって思っちゃったから、しょうがない。


「誘ってんだよ。気づけ」

「!?」


 首取れんじゃないかってぐらいの勢いでこっちに顔向けてきたから、可愛く笑って両手広げてやった。


「ほら、私の後ろ、ベッド」


 そう言った瞬間、甘くてすっきりした大好きな香りに思いっきり包まれた。私もその背中にぎゅーっと抱きついて。


「ねぇ、那月。私も、那月のことが好きだから、だから、私にも全部見せて」


 囁いたら、甘く柔らかくキスされた。

 私が知らない那月を、他の女が知ってるなんて、そんなこと許せないから。


 怒ってたわけじゃないんだよ。


 ただ、ちょっと、嫉妬しちゃっただけだもん。

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