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52枚目

 


 なんか、やたらと雪村家に引き入れたがるのんこと無理矢理ばいばいした。

 さすがに、高校生にもなってそう何度もお邪魔するわけにいかないしね。それに、亜澄兄が戻ってきてんのに私まで行っちゃったら佳代ちゃん大変だし。


 玄関上がってすぐリビングへ。

 誰もいないときは基本部屋には上がらない。リビング最大限に使って、動かなくても生活できるようにしてるから。もはや、リビングも私の部屋みたいになってる。


「今日の夕ご飯はーっと」


 半分一人暮らしの私だけど、残念ながら料理の腕は上達しなかった。わざわざ自分のおいしくないご飯食べたくないから、いつもはお惣菜とか買うんだけど……。


「あった」


 たまぁに、知らないうちにお母さんかお父さんが帰ってきてて、冷蔵庫になんかしら置いてってくれる。


「ビーフシチューだぁ。……ってことは、お父さんかな?」


 手の込んだご飯はいつもお父さん担当。お母さんは基本簡単なのとかお酒のつまみみたいなのしか作んない。おいしいけど。


「ありがとうございまぁす」


 誰もいないリビングに、ぽつんと響いた私の声。

 ──それと。


 ガタンッ


 ひぇっ!?

 な、な、なんかなんか音した!

 えっ。なに?なんなの?そ、外から……?家ん中でしたらマジで怖い。猫とかかな。ノラ猫多いんだよね、この辺。


「あー。びっくりした」


 私、なんでこんな驚いてんだろ。もー。のんこが変なこと言うから。

 ビーフシチュー、早くあっためて食べよう。


「……私、鍵閉めたっけ?」


 いや、閉めた閉めた。チェーンもかけた、はず。

 ……見にいこうか。

 え、どーしよ。でもな。閉めてない方が怖いし。


「よし」


 そぉっと、足音忍ばせてリビングから出て、暗い廊下をゆっくり行く。なんでここ電気つけなかったんだろ。あとで鍵閉めたらつけよう。ついでに、他の部屋もつけとこう。


「あ、かかってた」


 さすが私だわ。あー、よかっ……。


 ガチャンッ


「ひっ」


 えっ。

 ちょっと待ってなんで今ドア鳴ったの!?確実に誰か開けようとしたよ、ね!?

 やだやだやだやだ。ずっとガチャガチャしてる!

 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ……。


「けっ、けーさつ……」


 怖い怖い怖い怖い。

 スマホ。スマホどこやったっけ。バッグだ。バッグどこ?リビング。あった。リビングの入り口んとこ。


 ガタンッ


「わぁ!」


 やっぱ誰かいる!

 どーしよ。早く。早く誰か誰か……。


「あっ、な、那月っ」


 画面に出てたメッセージ。指がパッと触った。瞬時に電話に切り替えられて、慌てて切った。

 じゃなくて!

 ケーサツ!110番しなきゃ……っ。


 ピロリロリンッ


「ふわあぁぁ!」


 がつんって固い音しがた。手ぇ滑り落ちてったスマホ、すぐに拾えない。

 ソファの下に入っちゃったそれはまだ鳴ってる。


「電話。電話だよ。落ち着いて落ち着いて落ち着いて……」


 床に膝ついて、奥いっちゃったのを頭ちょっとソファの下に潜って掴んで。

 画面に見えた『九条 那月』の電子文字。


「あ……」


 思わずぴたっと動き止まったら、電話もぴたりと止まっちゃった。

 けど、すぐにまた浮き出た那月の名前。

 今度は驚かないで、でも震える指で画面をタップできた。


「もっ、もしもし」

『……待って、泣いてるの?』


 開口一番それか。

 確かに声震えてる。でもまだ泣いてない。

 ──けど、那月の声が聞こえた途端、ばあっと決壊した。


「うっ……、な、なつきぃ」


 耳元でさっきから聞こえる布が擦れる音。さっきまでゆっくりだった、一定の短い間隔でしてるローファーの足音。那月、走ってるんだ。


『今どこ?』

「い、家。あの、あのね、なんか音、音がして、それで、ケーサツに電話、し、しようと、おもったんだけどぉ……!」

『ちょっと待ってて。すぐ行くから。鍵閉めた?』

「う、うん」

『よし。大丈夫だから。大丈夫』


 すぐ。那月がすぐ来る。来てくれる。

 走ってる息遣いが聞こえる。大丈夫って言ってくれた。

 ソファの下から動けないまま、制服の袖で涙ぬぐった。




 ♯




『天音! ついたよ』


 電話の向こうから聞こえた声に、焦って動いたせいで頭ぶつけた。


「イタッ」

『天音!?』

「だ、大丈夫……」


 いつの間にか外の音は消えてた。いつからかとか、わかんないけど。

 ムダにガタガタやりながら、玄関まで走ってってふたつの鍵とチェーンを外して。


「っ、天音!」


 開けた瞬間、抱きしめられた。

 ドクドクドクドク、私のじゃない音が聞こえる。頭上の息もめっちゃ荒い。


「だ、いじょうぶ? どーしたの?」


 そんな中から私を気遣う言葉を出してくれて、止まったはずの涙がまた出てきそうになる。


「うぅ、那月ぃ〜〜」


 いや、出た。

 衣替えが終わって、シャツだけになった制服にしがみつく。上がってる熱がダイレクトにきた。


 しばらくそうやって、異変に気づいたのんこが部屋から覗いてくれるまで動けなかった。

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