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50枚目

 


 ──うたた寝中の横顔。なんだか今日は疲れてるみたい。



 ──不意打ちのショット! ギリ気づかれずにすんだ。やぁった!



 ──写真撮ってるのを写真撮った。真剣な目。カメラに沿う指。頬にかかる黒髪。ムリな体勢で曲がる背中。ちらりと見える手首。


 全部好き。どうしよう。




 ♯




 あーれ。写真保存できなくなってる。そろそろ整理しないとかなぁ。撮りすぎた?


「天音!」


 あ、待って。

 でもフォルダの写真、消せるのないかも。だって全部大切な思い出だし……。


「『天音!』だってぇ」

「うわっ」

「お姉様を前に、なんだねその顔は」

「なんでいんのここ俺の部屋」


 そう。

 那月の部屋再びやって参りました。文化祭んときの写真、渡し忘れたからって。ついでに、私が壊しちゃったカメラが直ったってゆーから、その写真ももらいに。

 で、取ってくるって出てった那月と入れ替わりに入ってきたのは真琴さんだった。


「新作のチーズケーキ、作ったから天音ちゃんに味見してもらおうと思って」


 テーブルの上には、白いお皿と金色のフォーク。

 なんか、ヨーグルトを生地に練り込んだとかで、おんなじようにヨーグルト混ぜ込んだ生クリームを付けて食べた。


「めっちゃ美味しかったです」

「ホント? 嬉しいなぁ!」


 そう言って、キュッと手を握られた。

 うわぁ。めっちゃすべすべ。真琴さんの肌、凄い綺麗なんだよね。化粧水とか、何使ってんだろ。


「マジな話、天音ちゃん本当に可愛いね。那月の彼女にしとくのが勿体無いくらいだよ」

「ま、真琴さん……」


 その壮絶な色気、私に使う方が勿体無いです……!


「もう出てってくんない。母さんが呼んでたし」

「えー。もぉー。じゃー、天音ちゃん、またね!」


 私が食べ終わったケーキのお皿を持って、軽やかに出てっちゃった真琴さん。ああ、今日もステキだった。


「あぁ……っと、あ、天音」

「なぁに、那月?」


 わあ。

 なんだか珍しく慌ててる那月、可愛い。顔ちょっと赤いし。なぜ?

 てか、写真撮りたいなぁ。でもこれはさすがに無理。バレるわ。


「い、いつ撮ったの俺の写真」


 ん?

 手元の画面にはちょうど私のコレクションがずらり、いっぱいに映ってて。あー。すでにバレてた疑惑。


「いつって言われても……。んー、ほぼ毎日?」

「ま……っ」


 なんでそんなに衝撃受けてんだろ。

 というか、どうしてバレた?

 私が持ってるのは誰にも見せないやつだし、晒してるとしたら、写真投稿サイトしかない──からのんこか。


「あっ、安心して! ちゃんと鍵かけてるし、フォローはのんこだけしかしてない! つまり、のんこと私だけが見れる仕組みになってるから」

「そういう問題──、なんで投稿すんのそれ」


 唐突に、心底不思議そうな顔した那月に、画面を閉じてふふん、と上目遣い。


「そんなの、惚気に決まってるじゃん」


 のんこにはさんざん惚気られてきたからね。しかも全部無意識で。だから、今度は私の番だなって。


「っていうのも理由だけど、せっかく撮ったのに、私だけのものにしとくの勿体無いじゃん?」


 よく撮れてんだなー、これが。

 私、もしかしたら写真の才能あるかもしれない。なんて調子のってるけど、実際はカメラ機能だけで選んだスマホの力のお陰。

 ちなみに、ウチの子はカメラ以外の機能は全てポンコツ。


「あ。もちろん、那月が嫌ならアカウント消すし、のんこにももう見せないよ。写真は消さないけど」


 さっきから黙っちゃって、どうしたの?あれ、なんかまた顔赤くない?顔どころか、耳とか首とかまで赤くない?


「ご、ごめん。えと、どうしたの?」

「……なんでもない」


 えっ。

 なんでもないって顔じゃなくない?

 って、あ!


「待って! 私のスマホ、どーするつもり!?」


 正確に言えば、私のコレクション!!


「フォルダ整理してあげるよ」


 それ笑顔で言ってるけどつまりそーゆうことだよね!?


「駄目待って私の癒し!!」

「そんなの」


 あー!!

 マジでやりやがったオール削除……!

 いや、「はい」ってフツーに返してくんな!どうすんだこれ。那月が入ってないスマホなんてもういらな──、


「ホンモノいんだから、それで癒されてりゃいいでしょ」


 …………え。

 いや、まあ、あのその、そりゃそうなんだけど、確かに正しいんだけど、そんなこと、那月が言ってくれるなんて。

 てか、ちょ、待った。近い近い近い!


「ね、天音。カワイイんだけど、キスしていい?」

「うえぇぇ!?」


 ぽかんとしてるんだろう私のほっぺた包み込んで、ふと笑いながら「カワイイ」って囁くの。

 お願いだから、やめてくれませんか。




 ♯




 常に撮る側だった。


 写真なんて、はじめて撮ってもらった。それも、いちばん好きなコに、いちばん好きな笑顔を見せてきながら。


「そんなの、反則すぎんだろーが」


 顔覆いながら、天音が帰った後の部屋で座り込む俺は、たぶんはたから見りゃ相当情けないんだろーな……。

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