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5枚目

 


 校門出てすぐ、黒いファミリーカーを見つけた。見慣れたのんこん家の車。維澄兄のはもう少し小さいから、あれは──のんこパパのかな。

 維澄兄、マネキンのためにわざわざ借りてきてくれたんだ!


「あーまねちゃーん」


 この声、久しぶりに聞いた!

 車の脇でこっちに手振ってる人影発見!維澄兄だ!

 背高くてすらっとしてて、整った顔立ちは変わってない。イケメンオーラも変わってない。髪が真っ青になってるってこと以外、全部そのまんま!

 髪色似合ってるわー。のんこもだけど、やっぱ顔がイイとどんなのでも似合うんだよね。


「いーずみにぃ!」

「おー、相変わらず可愛いなぁ」

「態度が? 顔が?」

「両方!」

「あはっ! 嬉し〜い!」


 なんて、きゃいきゃいやってたら。


「ねえ。早く。お腹すいた。帰りたい。お腹すいた」


 めっっちゃくちゃ低い声。

 バンッ、と車の窓叩く効果音付き。


「すいません」


 即座に謝ったけど、すでにのんこは車の中で突っ伏してて聞いてない。


「腹減るとすぐこーなんだから」


 さすがお兄さん。

 ハイパー不機嫌乃々子様に全く動じない。どころか、笑いながら私の持ってるマネキンひょいと持って、なにか言う暇もなく車に積んでくれた。イケメン。


「じゃ、帰るか」


 って、助手席開けてくれた。

 ちなみに、のんこは後ろで三人分の席全部使って寝てる。爆睡。どこでもいつでもすぐに寝れるから、のんこって。


「今日、おじさんも小夜子さんもいないんだって?」


 運転席に乗り込んで、アクセル踏んだ維澄兄がちらっとこっち見た。

 車運転する維澄兄、最高にカッコいい。

 あ、小夜子さんっていうのは私のお母さん。おばさんって言われるのが嫌で、維澄兄たちにそう呼ばせてるんだって。恥ずかしい。おばさんだろって。


「うん。お父さんは月曜日帰ってくるけど、お母さんは来週だって」


 弁護士のお父さんと、ファッションブランドオーナーのお母さん。二人とも仕事が忙しくて、家でお留守番なんてことはしょっちゅうだった。

 そんなくせに、どうやって職種の全く違う同士が出会ったんだとか、そーゆう話は置いといて。いやほんと、よく結婚しようとか思ったよね。

 ……ってぐらい、忙しいって話!私は!お母さんもお父さんも、大好きだよ!

 ま、まあだから、子供の頃はよく隣の雪村家にお邪魔して、一緒にご飯を食べさせてもらったり、下手すりゃ泊まらせてもらってたりしてた。

 勝手に第二の我が家とか思ってるのは秘密。


「母さんに言っといたから、夕飯食ってけよ」

「えっ。いいよ、悪いし」

「なに遠慮してんの。つーか、たぶんもう用意してっから、遠慮も無駄じゃね?」


 なんて、カラカラ笑って受け入れてくれるから、ほんと雪村家優しい。


「佳代ちゃんのご飯、楽しみ!」

「……おばさんのくせに名前で呼ばせてるとか、マジ恥ずかしい」


 ぼそっとつぶやいた維澄兄に全力で同意。


「……そうだね。ほんと、私のお母さんがご迷惑を」

「いや、小夜子さんはおばさんじゃないから。ウチの母親の話だから」

「え? いやいや、佳代ちゃん若いし。美人だし」

「天音ちゃん洗脳されすぎ。天音ちゃんのが可愛い」

「それ、そのまんま維澄兄に返す。私が可愛いのはもらっとく」


 こんなやり取りも久しぶり。

 維澄兄、最近忙しいみたいで、大学生と高校生じゃ時間も全然違ったから、のんこん家に行っても会えてなかった。

 あ、会えてなかったと言えば。


「亜澄兄、元気?」

「……」

「維澄兄?」

「……あれ。のんから聞いてねぇ?」


 ん?なにを?

 心当たりのない私に、維澄兄は沈黙をたっぷり挟んで。


「あー……、うん。行きゃわかる」


 前を見つめて運転する、その横顔は気まずそうな呆れてるような、微妙な感じ。

 行けばわかるってことは、それまで維澄兄は言わないってことだよね。えー、なんだろ。気になる。


「……まさか、病気!?」

「あの馬鹿に限ってそれはない」

「そっかー」




 ♯




 二つ並ぶ一軒家の内の、私の家じゃない方に停められた車。

 降りて、決死の覚悟でのんこ起こして、寝起きで不機嫌マックスな乃々子様の、道着とかでぱんぱんなエナメルを持ち、いざ雪村家へ。


 その間にマネキン二台とも持っていってくれた維澄兄の後を追うように玄関のドア開けた瞬間。


「あんた、亜澄! どのツラ下げて戻ってきた!!」


 佳代ちゃん独特の少しハスキーな声が飛んできた。維澄兄と亜澄兄もその遺伝子受け継いでんだけど、マジでイケメンボイス。

 じゃなくて。


「え、母さんマジか。俺、維澄だって!」

「はぁ? あんたら産んだあたしを騙せると思ってんの?」

「いや、冗談だよな!?」

「あ、天音ちゃーん」


 綺麗な眉を釣り上げて、切れ長の目を光らせてた佳代ちゃんが、維澄兄の後ろで唖然としてた私見てにっこり笑った。

 そうして浮かんでくる笑い皺すら美しい。


「いらっしゃい。今日はオムライスなんだけど、いい?」

「え? あ、うん! 佳代ちゃんのオムライス好き〜」

「あたしも天音ちゃん好き〜! って、のん! 天音ちゃんにエナメル持たせてんの!?」

「お腹すいた」


 まだ夢の中にいるのんこは、それでもしっかり自分のお腹事情を主張する。さすがです。


「しょうがないんだから。ほら、なに突っ立ってんの、亜澄! 手伝いなさいよ」


「……え、うん。え? マジで? それはさすがにねーよな?」


 ぶつぶつ言いながら奥へ入ってく維澄兄に、声かけるの忘れた。マネキン、持ってかせちゃった。


「……佳代ちゃん? 維澄兄だよ?」


 代わりに、維澄兄のフォローしてみたら、佳代ちゃんがきょとんとした顔で見下ろしてきた。


「知ってるよ?」


 あ、佳代ちゃん変わってない。

 騙される維澄兄も相変わらず可愛いな。

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