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45枚目

 


 タンタンタンッ


 階段上ってすぐのドア。

 すでに離された手で押し開けて、「どうぞ」と目配せしてくれた。


「お、お邪魔しまぁす」


 いつお店から家に入ったのかわかんなくて言い損ねた言葉、那月の部屋で使ってみる。

 部屋、すごいシンプル。

 ベッドに勉強机、テーブルと棚がひとつずつ。物がないからか、綺麗も汚いもなく全体的にスッキリしてる。写真とか、貼ってあんのかと思ってたけど一切ない。棚に眼レフがいくつか並んでるだけで、カメラ関係は終わり。勉強机には参考書とか教科書がずらり。うわぁ。


「テキトーに座って」


 トレーをテーブルに置いた那月は、スクバをどさりと勉強机に置いた。重そ……。

 テーブルの前に座って、私も肩からずるりと下ろした。とさりとも音がしない。当然か。メイクポーチとスマホ以外、なんも入ってないもんな。


「あぁ……。ほんとやかましい」


 本気で疲れた声で、机脇に屈み込んだ。そうして開いたのはちっちゃな冷蔵庫。そんなとこにあったんだ。って、うわ。水が大量に……二リットル!?


「ごめんね、なんか」

「いやいや、全然! ……真琴さん、ステキだった。お姉さんいたんだね」


 那月がテーブル挟んで向かいに座った。床にドンとペットボトル置きながら顔しかめてる。


「あぁ、うん。アレはもうどーでもいい。ケーキ、食べていいよ」


 えぇー。

 食べるけど。

 スマホでカシャッと撮って、その手にフォークを持ち替えて、いざ。

 そぉっと切り込む。わ、下がタルト生地になってんだ。崩さないように力入れて、ひと口大にしたそれを、ぱくり。


「んん〜っ!!」

「おいし?」


 こくこく頷いた。

 めっっちゃおいしい!

 上のぐるぐるは想像通り、甘酸っぱくて苺の香りが凄いして、だけど予想外はその中身。なんと、レアチーズケーキになってたの!こんなモンブランはじめてやばい真琴さん神……!


「…………」


 はたと前を見れば、一瞬目があってものすごい勢いで逸らされた。

 えっ……。

 と思ったら、ペットボトルのキャップ開けて、首そらして飲みはじめた。あ、喉乾いてたのか。びっくり。嫌がられたのかと思っちゃった。

 てか、片手で持ってる!二リットルでしょ五百とかとはわけ違うでしょーに、マジか。

 ぽかん、と見てるうちに半分くらい消費してやっと口離した。マジか……。


「はぁ」


 微かに息吐き出した那月の唇に、ほんのちょっと雫が付いてる。キラッと光るそれに、少しずつドキドキしてくる。

 ……なんだろ。なんか、いけないもの、見てる気分。

 しん、とする部屋の中。さっきの沈黙と違ってBGMなんかないからほんとの無音。

 気まずい、ともちょっと違う。なんていうんだろ。……恥ずかしい?


 私、那月の部屋にいるんだ。


 いや、いまさら感満載だし唐突すぎるけど、意識しちゃったんだからしょうがない。

 ケーキも、もう一度食べる気しなくて、なんとなく手の中でフォークくるくるさせちゃう。


「……姉さんはさ」


 ぴたっと止める。

 そっと那月を伺うけど、向こうはペットボトル凝視してて、こっちと目が合わない。


「七歳離れてんだ。ケーキ屋継ぐって言ってフランスに修行しに行って、去年帰ってきたばっか」


 真琴さんの話……?


「歳離れすぎて話全く合わないのに、なにかとかまってくれて。やたら水飲む俺に、集中してりゃ気になんねぇって教えてくれたり」


 ……集中ってまさか、喉乾かないようにずっと勉強してた、とか?


「丸一日勉強してたとき、はじめて水飲まなくてすんで嬉しかった」


 ま、丸一日……。

 え、やばい。そんなことしたら私、死んじゃうんだけど。


「カメラ買ってくれたのも姉ちゃんで、」


 ぽつぽつ話す那月は、懐かしそうに遠い目してる。真琴さんのこと、大好きなんだなぁ。さっきまでは全然そんな素振り見せてなかったけど。


「俺が自分でつくった『俺』はほとんどなくて……、姉ちゃんが、今の俺をつくってくれたんだ」


 そのときやっと目が合った。那月は、どことなく緊張してるようだった。

 なにがなんだかわかんなくて、黙ってるしかない私。

 真剣な目は、いつもより引力が弱い気がして、だけどやっぱり真っ直ぐすぎるから、なんとなく視線下にずらしてみる。


「俺……、天音が好きだよ」


 ………………えっ?


 えっ、ちょ、なんで突然……えっ!?

 な、な、な、なに!?


「…………わ、私も……、私も那月のこと──、」

「ちょっと待って」


 えぇぇ!?


 思わずばっと顔上げたら、那月は、微笑んでた。それは、はじめて会ったときと同じような、憎たらしいほどの笑顔で。


「ねぇ、天音。俺、天音のことストーカーしてたんだ」


 ……………う、うえぇ?

 言い切った。言い切ったよ、この人。なんだその清々しさ。


「去年の冬から、部活のときも、教室にいるときも、さすがに家までは行かなかったけど、放課後帰ってく姿とかずっと見てた。……雪村さんにはバレてたみたいだったけど」


 のんこ知ってたの!?そんな素振り見せなかったじゃん!いつもそうだけど!

 え、全ッッ然気がつかなかった……。


「天音のことが好きなんだ。本当に、心から、偽りなく」


 そこで、那月は息を吸った。

 私には理解できないんだけど、「好き」より勇気いる言葉って、あんの?なに、言われんの私……?


「天音」


 覚悟決めた目。

 強い目だった。


「これで嫌われても、仕方ない、と、思う」


 そんな苦しそうに。

 ストーカー以上に嫌う要素、ある?

 いや別にストーカーだったって聞かされても那月のこと嫌いになるなんてありえないけど。むしろ、そんなに見ててくれて嬉しかっ──、


「俺、今まで女はいたけど、彼女はいたことないんだ」


「……………………ん?」



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