44枚目
紫アッシュのベリーショート。もみ上げんとこ刈り上げ入ってて、長谷川くんより短いんじゃないかっていう。
茶色いダブルボタンが付いたクリーム色のシャツと、それと同じ色のコック帽、黒のエプロンにパンツでパティシエさんの格好。
すっと鼻筋の通った、一重まぶたのイケメン──な女の人。
特別美人ってわけじゃない。
ただ、髪型とか顔立ちが特徴的で、体型がなかったら完全に男だと誤解してたと思う。
スラリと長い手足と細い腰。それなのに、服の上からでもはっきりとわかる膨らみ。
羨ましい……。
「ウソでしょ!? ホントか!」
私の方を見た瞬間、ガッと那月の両肩を掴んだお姉さん。あ、指長くて綺麗。那月とそっくり。
「あんたが彼女連れて来るなんて……!」
那月より頭半分低いくらいしか差がない。
身長いくつくらいなんだろ。舞台立ったら映えるだろうなぁ。
「……橘さん、このうるさいのが姉」
「そんな紹介の仕方ないでしょ!?」
ぞんざいに那月を解放したお姉さんは、そこでやっと私の方を見て、その細い目を大きく見開いた。
那月ママは二重っぽかったし、背も小さかったから、この姉弟はお父さんよりなのかな。
「なにこの子」
ドキッとした。
挨拶しなきゃと立って、中途半端な状態で思わず固まる。待ってどうしよ。こんな女じゃ相応しくない、とかって思われた……!?
「…………こんなに可愛い子が、あんたの彼女? なんか間違ってんじゃない?」
「間違ってない」
完全に無表情な那月。お姉さんと、視線が合ってない。どこ見てるの?那月。
「ほぉ? やけにキッパリ言うね」
対照的に、にやぁっとおもしろいものを見つけたみたいに笑う真琴さん。
「天音ちゃん、天音ちゃん」
「あっ、は、はい!」
いつの間にか側にいた那月ママが、トレーに乗ったまんまだったポットを手にしてた。
「紅茶、注いでしまってもいいかしら〜?」
「大丈夫です……、あ、私やります!」
「いいのよぉ。さぁ、座って。あら、それとも那月の部屋の方がいいかしらぁ?」
「待ってお母さん。私まだ自己紹介してない」
そうだ。
私もお姉さんに挨拶してない。
「あの、はじめまして。橘天音です」
「コレの姉で、九条真琴です。ほんとにこんな愚弟の彼女におさまってていいの?」
「いい加減にしてくんない」
真琴さん。めっちゃサバサバした話し方。それに那月はうんざりした顔してる。
「あぁ、ごめん。やっとあんたにちゃんとした彼女ができたのが嬉しくて」
ちゃんとした……。
よかった。変な風ではなかったみたい。
「どうか末長く、このどーしようもない男の彼女でいてやってください」
「あ、いえ、あの、こちらこそ」
なにがこちらこそだ?私。
「じゃあまぁ座って! ……あ! 天音ちゃん、モンブラン好きなの?」
椅子を引いてくれた真琴さんが、テーブルの上の苺モンブラン見て、嬉しそうに覗き込んできた。
「はい。でも、苺のモンブランなんてはじめてで、凄い可愛いしおいしそうで」
「それねぇ! 私が考えて作ったの!」
「えっ、そうなんですか!?」
すとん、と座ったら、向かいの席に真琴さんも座った。
「私もモンブランが大好きで──って、そんなことはどーでもいいね! 食べて食べて」
笑うとえくぼができるんだ。
フツーは可愛いって思うのかもだけど、真琴さんのってなんか、可愛いってかステキ。
「写真撮ってもいいですか?」
「おっ。いいよー」
「……真琴さんも一緒に、いいですか?」
「「えっ」」
思わず、といった風で横からも響いた驚きの声。我関せずを貫きはじめてた那月の。
だって、真琴さんすごくカッコいいんだもん。写真一枚欲しい。
「……よし。じゃあ那月に撮ってもらうか!」
「え、やだ」
「天音ちゃんも一緒に写ろう」
「…………」
にやっと笑った真琴さんと、急に黙り込んじゃった那月。真琴さんは、勝ち誇ったような顔して立ち上がると、私の横まで来てくれた。
「はい、天音ちゃんモンブラン持ってー」
お皿ごと渡されて持ったら、真琴さんがすぐにきゅっとくっ付いてきた。
「天音ちゃん、イイ匂いするねぇ。やっぱ可愛い女の子はいいねぇ」
「変態オヤジ、こっち向け」
釣られてみれば、那月が首から下げてた眼レフ持ってるとこだった。あ、撮ってくれるんだ。
「お? 今日は乗り気じゃないか」
「早く撮って早く離れて欲しいだけ」
普段は乗り気じゃないのかな。
そういえば、那月って人撮るの嫌いって言ってたよね。めっちゃ撮られまくってたから忘れてたわ。
「那月って、『はいチーズ』とか言ってくれないんだ。人間撮り慣れてないから」
ぼそり、と耳元で囁かれてびくっとしちゃった。
思った以上に近い。
イイ匂いって言うけど、真琴さんだって甘くて甘くて、だけどなんかちょっとピリッとした香り──。って、やばいなんか顔熱い。赤くなってるかもしんない……!
「ふふ。天音ちゃん、かーわいー」
う、わぁ……!
なんですかその低い声。なんか、なんかなんかすごくエロい……!
「近い」
「あっ。……ちょぉっとー?」
「行こう橘さん。俺の部屋」
あれっ。今シャッター音した?
真琴さんに気ぃ取られてて聞こえなかった!?
「撮ってないだろ那月ぃ」
えっ、撮ってないの?
あ。いつの間にかお皿がない。
と思ったら、那月が右手に持ったトレーに乗っけてた。その手とは逆で手首取られて、ショーケースの隣にあるドアに向かって連れてかれる。
「姉ちゃんに嫉妬か。意外と余裕ねーな」
「うるさい」
「あらあらぁ」
……あとで、真琴さんの写真撮らせてもらってもいいかな。




