39枚目
「んじゃあ、次はケーキ食べたい!」
抱きつかれた長谷川くんは、いいよいいよーと終始笑顔。こんな振り回されてくれる男子、この世の中にいたんだ。
私のせいでビミョーな空気が流れた間を、綺杏が突撃してきてくれたおかげで、なんとか切り替えることができた。
けど、きっと那月、変に思ったよね……。今もたまに視線感じるし。そんな、大した理由じゃないんだ。けど、ネックレス、かぁ。
「橘さんも、それでいい?」
長谷川くん、なんで私だけに訊くんだろ?
とりあえず頷くけど、思わずちらっと那月を見上げた。
「あぁ、ほら。どーせ、なっちゃんは橘さんがうんって言えば、それでいーんだろ」
疑問ってか、わかりきったことみたいに言ってて、でも那月はうん、ともううん、とも言わない。ただ顔しかめてる。
「なんで不機嫌なの? なっちゃん!」
「お前のせい」
「なんで!? 理不尽!」
「ほんともういつも──」
「アミちゃん! 行こう!」
なにかを言いかけた那月だけど、痺れを切らしたらしい姫杏によって遮られちゃった。
再び腕にくっついてきた綺杏の、両方の髪にはさっきの青いリボンが。
あ、綺杏にリボン返さないと。
「買ったんだね。似合ってる」
リボン見ながら言えば、ちょっとほっぺたピンク色にして「えへへ〜」と笑った。うん。なんだろか。見てて癒される。
「可愛いアミちゃんに言われると、綺杏、すっごい嬉しい!」
綺杏、ほんといい子だわー。
どっかののんこの胡散臭い「可愛い」と違って、心からの言葉。
……って、なんか照れる。
言われ慣れてるはずの、この私が。綺杏に可愛いって言われると私まで釣られて赤くなりそう。
「え、えーっと、はい! リボン返すね!」
「あ! ずっと持っててもらっちゃってごめんね! ありがとう!」
誤魔化しは満面の笑みで返されて、なんかもう意味なくなった。なんだこのイキモノ。私が今まで会ってきた女の子で、鏡の中の私の次に可愛い。
「あのねぇ、このリボン、カズくんが買ってくれたんだぁ! カズくんもね、似合う可愛いって言ってくれたの!」
とんでもなく幸せそうな顔で、平気でのろけ話ぶち込んでくるけど。うん。なんかもう、ご馳走様です。
「その袋、アミちゃんもなっちゃんに買ってもらったの?」
なぜ当てる。
カサっと音がする私の手元。軽いけど、ちょっと重いそれはちゃんと中身が入ってるってわかる。いや、まあ当たり前なんだけど。
「中身、なに?」
無邪気に訊いてくる綺杏に、若干反応が遅れた。けど、綺杏は気にしてないようで、目ぇキラキラさせて見上げてきてる。
「えっと、ネックレス」
「ネックレス! わぁ、あとで見せて! なっちゃんが選んだの? アミちゃんに似合ってた? どんなネックレス?」
一気に興奮しはじめた綺杏がぐいぐい迫ってきた。迫ってきたってか、腕引っ張られて迫ってこさせられた。
ちょっと力!力加減もうちょっとどーにかして!
「綺杏! 橘さんの腕もげるもげる!」
「あっ、ごめん!」
長谷川くんの声に反応がいいのはいいけど、急に離さないで!前に引っ張られてた私は、反動で後ろによろけて、使えない私の脚はバランス崩してそのまま後ろに──!
「嬉しいのはわかるけど、危ないから気をつけて」
倒れなかった。
とんっと頭がなにかに当たって、両肩に大きな手が添えられた。すぐ頭上で声がして、一瞬私に言われてんのかと思ったら、顔は前に向けられてた。
「ご、ごめんねごめんね! なっちゃんもごめんねぇぇぇ!」
「やめて来ないで橘さんが潰れる」
両手広げて走ってこようとした綺杏から隠すように、後ろから手ぇ回されて抱き込まれた。
……ハッ!
予期せずめっちゃ密着されてる!いい匂いする!
「……橘さんって、香水付けてんだっけ?」
「へっ!? あ、あぁうん! 練り香水ね!」
「ふーん……」
それっきり黙っちゃった。
えっ?待って訊いといて!?
「えぇっとぉ。この匂い、好きじゃない?」
腕回されて動けないから、仕方なく視線は前に固定されてるわけだけど、長谷川くんがツインテ弄りはじめて、それには反応しなかった綺杏がほっぺたぷにぷにされたときは赤くなって抗議してる。そんないちゃいちゃ見せつけられて。
完全に人の流れがあの子ら避けてる。なんだあのイチャつき方。可愛すぎか。
「家にたくさん練り香水あるから、もしそうなら全然変えるよ?」
「んや、いいよ。好きだし」
「あ、そ──」
……は!?
いや、いやいや落ち着け私!匂い!匂いの話だから!いやだけど、すすす好きって!そんなサラッと!
「橘さんの匂い。落ち着く」
トドメ……っ!




