35枚目
ちょっと待ってて。
そう言って走ってった那月は、ほんとに二、三分で戻ってきた。ペットボトル二本掴んで。
「結局一リットルじゃん!」
その間に復活したらしい長谷川くん、元のハイテンションがそこにあった。
「水で金飛んでくって相当だよな」
「ほんとは二リットルの買った方が安いんだけど」
「持ち歩けねーじゃん」
「知ってる」
家じゃそれ、って。家でも常に持ってるんだ。常に持ってるって言えば、その首にいつもあるはずの眼レフの姿がない。
「今日はカメラ持ってないの?」
「……」
え、なんで沈黙?あれ。なんか今、変な質問した?してないよね?
「……カメラ持ってたら、そっちに夢中になっちゃうから」
…………あぁ。
なんだっけこないだ思ったの。そうだ、カメラ馬鹿。
「俺放ってカメラばっか弄ってたなっちゃんが、成長した……!」
うっ、と長谷川くんが泣くフリしはじめた。
まじでか。なんて愛想悪いんだ。なんとなくそうかなとは思ってたけど。
「それでも絡んできてたのはなんだったんだよ」
「そりゃ、なっちゃんが好きだから」
「気持ち悪い」
ばっさり。
長谷川くんはそれすらも楽しんでる節があるから、これはこれで一番いい組み合わせなんだな。親友、とか言ったら那月が眉潜めそう。
長谷川くんがいると、那月のいろんな表情が見れる。私も、いつかたくさん感情引き出せるようになりたい。
「ねーえー、行こうよー」
掴んだ長谷川くんの腕を、いささか乱暴に振り回すエンジェル。
腕だよね?なんで長谷川くん頭まで揺れてんの?てか左半身が捻れる勢い。綺杏て時々、のんこみたい……。
のんこ、今頃は楽しんでんだろうか。それともまだ寝てる?それはないか。デートのこと、今日は話してくれるかなぁ。
……下手な期待は持たないでおこう。
「あー、はいはい悪かったって。んじゃまとりあえず、腹ごしらえでもしますかー」
「長谷川くん、もう車酔いは平気なの?」
「おう! あの鉄の塊から降りちまえばこっちのもんだ」
鉄の塊……。
「ったくさぁ、もっと他にやりようがあったって思わない? なんで人間は鉄の塊に乗って移動するしかないわけ? 頑張れよ人間! いや、そもそもなんで鉄の塊が動いてんだ。飛んだり浮いたりわけわかんねぇ。鉄は鉄らしく溶かされてろってんだ。──あ、まあスマホには感謝してるけどな! これあるおかげで綺杏といつでもどこでも話せるもんな!」
「うん!」
長谷川くんの終着点はいつでも綺杏らしい。
綺杏も綺杏で、長谷川くんの言葉に対する反応がおそろしく早い。いきなり振られて、なんであんないい返事できんの?
「橘さん、なに食べたい?」
こっちはこっちでもはや聞いてない。
なんだこの自由すぎる人たち。
「うーん……、なんか、甘いもの」
まあ私も答えるけど。お腹すいてきた。
「それは昼飯?」
ちょっと笑いながら言ってるけど、甘いものナメちゃいけない。あいつらは、おやつにももちろんなるけど、ちゃんとご飯としての役割を果たす素晴らしい物なんだから。
「ドーナツとか食べたい」
「あー、ナルホド」
「あっ、綺杏も! なっちゃん、綺杏もドーナツ食べたい!」
「わかった。わかったから突進やめろ。彼氏にやれ」
ばっとこっち向いた綺杏は、その勢いのまま走ってきた。けどひょい、と身をかわされたせいで、ちょっと行きすぎちゃった。振り返るその不満そうな顔。
「なっちゃん、中学のときから一度だって綺杏を受け止めてくれたことないよねー」
「見るからに痛そうなのに、進んで腕広げんのはアンタの隣の男ぐらいだよ」
「そーだよ、そんな目つき悪いヤツんとこ行かないで、俺んとこ来いよ綺杏!」
……待って。
ちょっと今なんか衝撃的な言葉拾った気がすんだけど。
「え、三人とも同じ中学なの? 長谷川くんだけじゃなく?」
「そぉだよー」
いとも簡単に解決した。
いや、解決っていうほど深刻に悩んでたわけじゃないけど。あれ、私悩んでたっけ。
私ちょっとさっきからおかしい。
……まさか、嫉──、いやいやいや、なんでだそんなわけないでしょ。
「だからー、中学のときのなっちゃんの話とかしてあげられるよ!」
「えっ!!」
なにそれ聞きたい!
「ねえ。それで橘さんと仲良くなろうって魂胆でしょ」
「うん。お願い手伝って」
「自分で頑張りなよ」
「アミちゃん聞きたがってるよ? ほら、こんな可愛い目して」
「……」
ちらっと私見て黙り込んだ那月に、にやぁっと笑った綺杏に驚きすぎて、私も黙る。とんでもなく悪い笑顔なのに、なんでそんな可愛いの。信じらんない。
「…………そんな、話すことなんてないと思うけど」
無言の了承に、ぱっと綺杏と顔合わせる。
キラキラした顔。たぶん私も同じ顔してんだろう。
「いっぱいあるよ! はい、行こう!」
きゅっと手ぇ握られて、おそらくフードコートに向かって走り出した。
「……手綱しっかり持っとけよ」
「繋いでない」
「……」
「俺も橘さんと仲良くなるためになっちゃんの話を──」
「その口開かなくしてやろうか」
そんな会話が後ろから聞こえた。仲良いね……。これこそ嫉妬しそう。




