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34枚目

 


「カーズーくーん」

「ウッ……」


 これは、大丈夫なんだろうか。


 真っ青な顔してうずくまる長谷川くん。その隣に座って、しきりに背中をさすってあげてる綺杏。バスの一番後ろに座ったの、やっぱりマズかったんじゃないの?

 前に座ろうか、という提案を断ったのは笑顔の綺杏。「どこ座っても一緒だから、四人で並んで座ろっ」と。

 バスを目の前にしたときから、すでに顔色が悪かった長谷川くんは、一切しゃべらなくなってたから、綺杏の言葉に賛成も反対もしなかった。


「気持ち、悪……」

「下向かないでー、上向くんだよカズくん」


 それで改善されんの?

 窓にもたれかかるようにして俯いてるのを、綺杏が無理矢理顎に手を当てて上げさせる。無抵抗な長谷川くんは、だけど突然、今までからは信じられないくらいの勢いでこっち向いた。

 うわっ。なに!?


「那月それ! 飲まないで!」


 悲鳴のような声。

 もはや「なっちゃん」と呼ぶ余裕もないらしい。

 釣られて振り返ったそこには、那月がペットボトルに口つけて止まってた。あれ。ちっちゃいやつだ。五百ミリリットルの、もう飲み終わったの?早くない?てか、いつ飲んでた?


「はぁ? なんで」


 器用に眉を片方だけ上げて訊く那月を、長谷川くんはもう見てなかった。


「……見てる、だけで……キモチワルイ」


 口元押さえてる。

 え、大丈夫なの?酔い止め効いてないんじゃないの?


「そんなカズくんに、じゃーん! はい、酔い止め!」


 今かよっ!!

 得意げに錠剤開けてるけど、えっ?飲んでなかったの?なんで!?そりゃフツーに酔うわ!


「カズくん、あーんっ」

「んあ……」

「はい、噛んで!」

「ん……」

「仕上げにぃ、綺杏がカズくんのこと撫でてあげるからね!」


 キラキラの目ぇしてる姫杏さん。酔い止め出さなかったのが故意なのか、単純に忘れてたかによって、その目の受け取り方が変わってくるんだけど、大丈夫?


「カズくーん、好きだよー!」

「治った」

「んなわけあるかっ!」


 思わず叫んじゃったじゃん!乗客のみなさん失礼いたしました見ないでください。


「橘さん、付き合ってるだけムダだから」


 グシャグシャッ、と音がした。那月がペットボトルを片手で潰した音だった。あ、結局飲んだんだ。


 …………。


 ……全部飲んだの?まだ一滴も飲んでなかったやつだよね!?酔ったことないけど、そんなに液体飲んだらさすがに私も気持ち悪くなりそう……。

 お腹、タプタプしない?


「あっ、あとちょっとだよー!」


 なんかいろいろありすぎて、まだ目的地に着いてないのが信じらんない。

 このメンバー、濃いな。私の可愛さが埋もれないか心配。どんな場面でも輝く私を、こんな気持ちにさせるなんて、なんてヤツらだ……。


「アミちゃんはまずどこ行きたい?」


 どこ……。

 おっきいショッピングセンター、だよね?てことは大抵なんでもあるかんじ?もうすぐお昼の時間だし、ご飯とか?いやいや、でも長谷川くん車酔いしてんだからもうちょっと待たないとだよね。じゃあ、買い物とか……?


「綺杏、綺杏」

「あっ、なにカズくん? また気持ち悪くなっちゃった? 撫でようか?」

「違うけど。いや、撫でて欲しいけど。じゃなくてだね、橘さん、はじめてなんだからわからんでしょうが」


 ほんと大丈夫かな。

 よく気づいてくれてありがたいけど。途中欲望が顔のぞかせたけど。顔色悪いのは変わんないから、気持ち悪いんじゃないの?


「あ、そっかぁ! じゃあ、綺杏が案内してあげるね! その前に、コンビニ寄る?」


 えっ、コンビニ?


「寄る」


 返事は後ろから。

 え、なんで?なんか買うのかな。


「なっちゃん、水なくなっちゃったから」


 クエスチョンマークの私に、綺杏がにこにこと補足説明加えてくれた。

 あー、なるほどー……。

 ……綺杏と那月って、いつからの付き合いなんだろ?長谷川くんとは中学からって言ってたけど、綺杏ともなんか親しい感じだし。

 あれ。

 なんだこれ。なんか──。


「橘さん?」


 さらっと髪の毛が払われた。

 耳の端っこを、ペットボトルの水滴で濡れたんだろう指先が掠めて、無意識にびくってしちゃった。


「えっ、な、な、なに!?」


 あっぶなかったー!

 危うく変な声まで出すとこだった。「ふおぁっ」とか「わきゅっ」とかそーゆう類の。

 最近私の口が可愛くない。ちょっともういい加減に慎まないと。

 ……って、なんで那月ちょっと心配そうな顔してんの?


「大丈夫?」

「え、なにが……?」

「なんか、沈んでたっぽかったから。酔っちゃった?」


 沈んでた……だと……?

 なんてこった。到着前から私ってば、楽しそうな顔できてなかったって?


「気分悪かったらすぐ言ってね?」

「あ、うん! でも、別にそーゆうわけじゃないから、大丈夫」


 ありがと、って言えばほっとした表情をしてくれた。

 ……なんか、こうやって気遣ってもらえるの、嬉しいかも。


「酔った」

「えっ、カズくんどうしたのっ」

「……言っとくけど、長谷川だって同じようなもんだからな」


 ……なんの話?

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