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33枚目

 


 唐突に腕を引っ張られた。

 見れば、うんざりした顔の那月が完全にバカップ──もとい、綺杏たちから視線を逸らしていた。


「……橘さん。あのバカ共と一緒くたにされない内に、ふたりで行こうか」

「えっ。待って! ダメだよなっちゃん! 綺杏も行くよ!」


 まさかの聞こえてた。

 長谷川くんの腕をすり抜けて、赤いリボンに飾られたツインテールを揺らしながら慌てて寄ってきた。

 ……って。

 ちょっと待て。

 リボンも着てるワンピも、ピンクベージュのニーハイも赤いおでこ靴もうさぎのバッグも、なにもかもが見覚えあるんですけど。


「……綺杏、可愛いね。洋服、めっちゃ綺杏のイメージ通り」

「えっ。あ、ありがとう! これ、綺杏の大好きなブランドで、《Ange De Roue》っていうんだぁ」


 よく知ってます。だってそれ、お母さんのブランドだもん……。

 うわぁ。

 なんだこの子、素晴らしいな。胸焼けするような服、こんなにも着こなせる子なんて、綺杏ぐらいのもんじゃないか?お母さんですら──いや、あれは年齢の問題があるからな。


「アミちゃんは意外だなぁ。もっと可愛い系かと思ったけど、お姉さん系なんだね! すっごく綺麗! 大人っぽい! カッコいいねぇ!」


 カッコいい……。

 なんか、はじめて言われたけど、悪いもんじゃないかも。いや、綺杏だからかな。


「ねっ! なっちゃん?」

「え? あぁ……、うん」


 えっ……。

 待ってなにその反応。こっち見ないし。やばい、間違えた?もうわかんなくて、いつも着てる服から選んできた。つまり、那月の好みを考えても答えが出なかったから完全自分好みを着てきたわけで。

 それでも、男ウケがいいと言われてる白のニットワンピにニーハイブーツをチョイスしてみた。髪も、めっちゃ練習して、いつもは真っ直ぐストレートなところをふわふわにしてみた。けど。

 やっぱ、那月も可愛い系をイメージしてた、とか?


「もぉぉぉ! なっちゃん反応うっすい!」

「照れてんだよ、綺杏」

「あっ、そっかぁ! なーるほど!」

「お前らほんとうるさい」

「つか、綺杏今日は早いな!」

「だってぇ、今日はアミちゃんがいるし」

「お前なぁ、普段から来いよ」


 今度は長谷川くんに無視された那月が、ため息吐いて、私と目があった。

 揺らして、外された。

 まーじかぁ……。


「…………こーゆうの、好きじゃなかった?」


 ぱっとこっちに顔向けたから見上げれば、すぐさま背けられた。


「や、そういうわけじゃ、ないけど……」


 それ、目ぇ逸らされたまま言われてもぉ。

 もういっそのこと、直接聞いてしまおうか。んで、ショッピングモールで全身揃えてしまおうか。……うん?我ながらいい考えじゃない?


「なつ──」

「……その、カワイイ、と思う」


 ──なんだって?


「……」

「……」

「……えっ?」

「もう一度なんて言わせんな」


 あっ、口調。

 なにハッとした顔してんの?え、別に取り繕わなくてもいんだけど。むしろ嬉しいんだけど。そんなことより、耳赤いの気付いてる?

 それもまた、言葉より嬉しいんだけどどうしよう。いや、言葉も嬉しかったけど!


「えーっと、だからその……」

「那月もカッコいいよね。めっちゃ似合ってるし、私、こーゆうの好き」

「ッ!?」


 遂には顔も赤くなっちゃった。こないだから思ってたけど、那月って赤面症だったりするのかな?すごいわかりやすい。


「なっちゃーん。イチャついてるとこ悪いけどー、そろそろ行こうぜぇ」


 のしっと後ろから長谷川くんが覆いかぶさってきた。それが結構な勢いだったみたいで、那月は危うく私の方に倒れそうになった。踏ん張ったけど。


「おっまえ……!」

「あははー。そんな顔で怒られても、痛くもかゆくもねぇな!」


 ……思わず出しちゃったこの両手、どうしよ。


「アミちゃん、アミちゃん」

「あっ。な、なに?」


 綺杏が自分の腕を私に絡めてきて、ぴったりとくっついてくる。

 私、背ぇ低いから、こうやって誰かを見下ろすなんてことしたことないかも。あ、待ってあるわ。成長期来るまえの悠くん。可愛かったなぁ。今じゃ、見上げないとそのイケメンフェイスは目に入んない。中三になって急に伸びちゃって……。


「ここからね、バス乗って行くの! 車酔いとか、大丈夫?」


 車酔い?


「うん。したことないから大丈夫」

「そっか! あのねぇ、カズくんはほんとに車酔いヒドくて大変なんだ!」


 めっちゃ笑顔で言ってるけど、それはどんだけ大変なの?

 じゃじゃーん、と言って出してきた大量の酔い止め。常に持ってるらしい。長谷川くんは自分で持ってこないの?


「おふたりさーん、行こー」

「あ、はーい!」


 で、そのまま歩き出す。

 つまり、腕に綺杏をくっつけたまま。


「うふふー。嬉しいなぁ、楽しみ!」


 幸せそうな顔されちゃ、敵わない。


「……綺杏、かわいいなぁ」

「俺に言うな」

「なっちゃんだって、言わないだけで思ってんだろ!」

「お前の彼女はお前が可愛がってればいいだろ」

「そうじゃなくて。なんでだよ。頭いいくせに、なんでそんな頭悪いんだよ」


 ……。

 那月って、天然なのかな。

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