27枚目
結果的に言えば、確かに抱きついたのは失敗だった。
抱きしめ返してくれた、のは、いいけど!
いや、心臓がやばいからよくないかもしれない。
じゃなくて。
「……ごめ、ちょっと、カメラ、痛い」
九じょ──那月が。
なつきって……。
あ、喜んでる場合じゃなくて。
そう、首から下げてるカメラ。
あまり人に優しくない形のそれは、容赦なく私の鳩尾に食い込んできて……、あの、それ以上力入れられると、やばい。
「あっ、ごめん」
ぱっと離された両腕。
……寂しい、とかじゃないけど。自分で言ったからね、痛いって。寂しくない。
「えと、あ! あの、写真見せてくれない?」
誤魔化すわけじゃないけど、ついでに思い出したから。しきりに撮ってた私のファッションショーの写真。那月に、撮ってもらった写真、ちゃんとしたのってもしかしてはじめてじゃないかな。ほら、今までのって不意打ちとか不意打ちとか不意打ちとかだったから。
「あー……」
え、なにその微妙な反応。
見上げれば、那月はカメラを複雑な表情で眺めてた。視線が合わない。
「……もしかして、撮れなかった?」
いや、でもめっちゃシャッターきってたよね?
「んや、撮れなかったわけじゃないってか、むしろすごい撮ったけど」
あ、撮れたんだ。
ゆっくりと首からカメラ外して、ボタンを操作すると画面に私が映った。
わあ。
やっぱ……綺麗。
鏡越しの私以上に、写真の中の私は可愛くて、綺麗で、生き生きとしてた。一緒に、私のドレスも、そこで息づいてるみたい。
那月の、短く切られた爪が軽く上下する。その度に、画面の中の私が動く。
……一体何枚撮ったの?もはや動画をコマ送りで見てるみたいなんですけど。
「……シャッターチャンス、逃したんだ」、
……ん?
え、なに突然。
逃したってこれ、どの辺が?逃すもなにも、むしろ撮ってない瞬間の方のが少ないんじゃん?
「カメラ持つ資格ねぇな」
ちょっと、乱暴になった独り言。
ピッ、と止まった那月の指。どこか、悔しそうな表情で眺める画面には、ステージ脇から出て来はじめた私の姿。一番最初に戻ってた。『サナギ』のあとの『蝶々』は、写っていない。
「見惚れてたんだ」
……まさか、あの、無防備な表情?
『蝶々』に変わる前からずっとあの表情をしてたのかな。
「…………今、撮る?」
あまりにぼんやりしてるから、気がつけばそう口にしてた。
失敗した。
今撮ったってどうしようもな──、
「いいの!?」
「わっ」
びっ……くりしたぁ!
なにこの勢い。え、ちょ、そんなに嬉しそうにされるとは思ってなかったわ。
「ま、まあ、その、ここでいいなら……」
「今までで一番最高の撮るって、約束する」
眼レフの中のも凄かったのに、それ以上ってどんなだ。想像できない。
♯
カシャッ
カシャッ
「……どうして顔隠すの」
「だって」
やばい。
想像以上に恥ずかしい。
那月の指示通り、窓を背にして立った瞬間、最大の問題を忘れてたことに気づいた。
──那月の目に、ヤラレタ。
今さら気付いたってもう遅い。
頑張った。
最初はちゃんと気にしないようにしてた。でも、三秒も保たなかった。
「橘さん」
わかってます。
わかってますけど、だって……ムリ。
「ドレスは映る」
「意味ない」
……。
即答嬉しい、け、れど、も……。
なんかもう、目ぇ見れない以前に顔覆ってる両手に、ほっぺたの熱さがめっちゃ伝わってくるから、みっともないくらい赤い気がするもん。
「や、やっぱ──」
「天音」
やめよう、と言いかけた口閉じて、代わりに顔上げてしまった。
カシャッ
そんな、不意打ちの一瞬を、シャッター音と共に納められた。そうして、満足そうに眼レフの画面見下ろして。
「カワイイ」
そんな……、そんな蕩けるような甘い微笑み……っ。
「は、反則……」
膝からへなへなと崩れ落ちてしまった。
もう、私にできることなんて、その場で座って顔覆ってるぐらいだわ。
「ね、ほら、見てよ」
どことなく楽しそうな声なのは、気のせいですか、ガチですか。気配で目の前にしゃがんだらしいことはわかった。
「ねぇ、天音」
「も、もう効きませんっ」
肩跳ねたけど。反応しかけたけど。
理性の方が勝ちました。当然だわ。どんな顔してんのかわかんないのに、見せられるわけない。
くつくつ笑ってる声聞こえてんのに、手なんか外せるわけない。なんか悔しい……!
「ほんと、カワイイ」
「ッッ!?」
ちょ……、も、ガチでやめ──、
「はー、文化祭終わったー。片付けだりぃ」
「あれっ。部室、電気付けっぱだ。誰だよ」
「九条じゃね──、九条だ」
ガラッという音ともに、ニュアンスの変わった「九条」。
最後のそれは、存分に驚きの色が混ざってて。
「女の子、連れ込んでやがる」
しん、と沈黙が落ちた。
中に。
「チッ」
小さな那月の舌打ちが響いた。




