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17枚目

 


 油絵……って、さぁ。

 思ってたよりも難しい。

 なんだこれ。うまい具合に色が濡れないんだけど。これはみんなこうなの?それとも、私が不器用なだけ?


「天音ちゃーん! いる!?」


 ガラガラッ

 ピシャーンッ

 と、やかましい音を立てて美術室のドアを開けたのは、おそろしくキラキラした目をしたタキ先輩。つい最近、見たことあんだけど、こんな顔。


「うるさい、滝太郎!」


 私に絵を教えてくれてたリッカ先輩が、傍の絵の具を投げた。鋭く飛んでったそれは、見事にタキ先輩に当たらなかった。

 ……リッカ先輩、私の同志だから。仲間だから。


「って、ちょっとそれ! その足元! 明日出展するやつなんだから気をつけて!」


 悲鳴のような声を出して、タキ先輩の元にリッカ先輩が飛んでった。

 すっごい上手な油絵が一枚と、芸術センスがない私にはわからない素晴らしいんであろう不思議な形の彫刻。リッカ先輩はもう何度も賞取ってるから、素晴らしいのは間違いない。

 全て抱きかかえて移動させはじめた先輩を尻目に、入れ替わりでタキ先輩が私に近づいて来て、ナイショ話するみたいに身をかがめてくる。

 え、なんですか?私今、絵描いてる途中なんですけど。


「ねぇほら、あのさ、金髪の、天音ちゃんの幼馴染みのさ……」

「のんこですか?」

「そう! のんこちゃん!」


 やだー。

 耳元で叫ばないでくださいー。


「その子がさ、二年A組に乗り込んだんだって!」


 乗り……こん、だ……?

 誰が?のんこが?

 A組に……!?


 さあっと血の気が引いてく。


「やばい!」

「えっ。なにが?」


 驚いてるタキ先輩押しのけて、超特急で廊下に出た。

 どうしよう!

 つーか、あんなに違うって言ったのに!なんにも伝わってなかったってこと!?お願いだから、無事でいてー!

 あー、もう!

 なんでこんなときに限って、A組に一番遠い美術室なんかにいたんだろ!そりゃ部活だったからだけど!

 渡り廊下走り去って、驚いてこっち見た男子の横すり抜けて、先生の声無視して階段を三階まで駆け上がっていって。


「あれ、天音。部活いいの?」


 登りきってすぐの階段脇。

 そんなとこで見つけるとは思ってなかった。しかも、フツーな様子。


「……のんこ、九条くんに殴り込み行ったんじゃないの?」

「なんで」


 え、だって、昨日の今日だし、のんこだし、その……。


「早、とちり……?」

「そのようだね」


 くいっと眼鏡を押し上げて、呆れたような目で見られた。

 え、いやでも。


「A組に乗り込んだ……って、」

「ウワサって、おそろしい広がりをみせるくせに、とんでもなくいい加減よね」


 ハッと笑われた。

 そうですね。反省してます。


「ま、してほしいならしてあげるけど」

「望んでませんっ」


 真顔で怖いこと言わないで!それ、本気じゃないだろうな!?冗談なら冗談の顔しろや!わかんない!


「雪村さん、待たせてごめ──、橘さん?」


 唐突に、九条くんがひょい、と顔をのぞかせた。

 待って。

 なんも考えてなかったけど、やばい。私、九条くんと会う心の準備してないっ!


「謝んのか『橘さん』なのか、どっちかにしてくれない?」

「雪村さん、ごめん。それで、橘さんは──」

「ちょっと、テキトー過ぎない? ていうか、頼んだものは?」


 のんこの方を見ない九条くんを、いささか乱暴に自分の方へ向かせた。すごい勢いで反転させられてるけど、九条くん腕、痛くないんだろうか。痛いんだろうな。のんこ怪力だし。

 その腕には、文化祭で使われてる暗幕があった。重いはずのそれを、九条くんは軽々と抱えてる。


「これ。暗幕二枚でいんだよね?」


 しかも、二枚も。

 力あんのかな。そんな風には見えないから、なんか意外。運動神経なさそうなのに。

 文化部だからとかじゃなくて、見た目的に。体育のときも、参加しないで写真撮ってそう。


「……いいけど。どぉも」


 なんであたしがお使いなの? って。

 相変わらずサボって、それがバレてクラスメイトにこき使われてるらしい。

 ……って、待って待って。のんこ行っちゃうの?「じゃあね、天音」って言わないで。残んなきゃいけなくなっちゃうじゃん!


「それで、橘さんはどうしたの?」


 どうしたんでしょうね。

 九条くんが殴られると勘違いして、それを止めようとしに来たなんて言えない。つーか、それ以前に九条くんの目ぇ見れない。

 話すとか、ムリじゃね。


「橘さん?」


 訝しげな声に思わず一歩、後退した。

 なんも考えないで。


 ──後がないって、足が浮いてから気づいた。


 やばい。

 伸ばした手は空を切った。

 階段の真ん中にいた私の身体は、手すりを掴むこともできずに宙に浮いた。


「橘さんッ!!」


 本気で焦った顔。

 それも、すぐに視界から消えた。


 ガシャンッ


 と、激しい音が聞こえた。

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