表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/77

1枚目

 


 人気のない学校の裏庭。

 放課後の、みんなが部活やら帰宅やらしている今の時間は特別誰もいない。それを知ってて、あえてそこへ駆け込んでるんだから、その理由なんて察せれるもんなのに。


 カシャッ


「………………なに撮った」

「え? あんたの顔」



 ──なんなんだ、この男は。




 ♯





 高校二年生になってすぐ、イケメンと騒がれてた男子に告白された。そして一ヶ月でフられた。


 今となってはもう覚えてないけど、「一目見て好きになった」だの「俺のタイプにどストライクだった」だの、そんなようなことを言われた気がする。

 まあ、それはいいとして。

 自他共に認める美少女な私と美男美女カップルとして有名になった、今は『元』カレが私をフったその理由が、



「こんな付き合ってんのにやらせねーなんて、マジ期待はずれ」



 っていう。


 一ヶ月!一ヶ月だよ!?冷静に考えて一ヶ月でそんなのする!?

 ありえない。

 私の方がありえないなんて意見、聞かない。

 ……もうあんなヤツの話はやめよう。考えるだけで嫌んなってくる。

 別に好きじゃなかったし!ただ、世界一可愛い私がフられるなんて信じられなくて、だから勝手に涙が出てきちゃっただけだもん。

 それを誰にも知られたくなかったから、ここに来たってゆーのに。


「そんなこと訊いてない!」

「訊いたじゃん」

「う、うるさい! なんで撮ったの!? フツー撮らないでしょ、女の子の泣き顔なんて!」


 信っじらんない!


 しかも、一眼レフで撮りやがったこいつ!

 カメラを肩に担ぎ私を見下ろす見知らぬヤツ。細い目に薄い唇、希薄な存在感となにもかもが印象に残らないような男。

 だけどあの、至近距離でカメラを構えたときの目は真剣な、人を完璧に捕らえるようなそんな目で、だから反応が遅れた。

 見惚れてた、とかではなく。

 いや、ほんとにないから。


「なんでだろ。なんか勝手に撮ってた」


 ………………はぁ?


 人が一番見られたくない顔をカメラなんていう残る物におさめといて、そんな曖昧な理由で撮ったのか!


「なにそれ、ムカつくな!」

「なんで? 俺は撮りたいと思ったモノしか撮んないよ」


 だからなんだってゆーのよ!


「だからつまり、」


 その瞬間、時間が止まったような気がした。

 さっきのようなあの目が今、私を真っ直ぐに射抜いてた。


「あんたを、撮りたいと思ったってことだよ」


 …………ッ!?


 こ、これは、ちょっと、え!?

 今まで何度も何度も、告白も褒め言葉も受けてきたけど、こんなこと言われたのはじめて。やばい、なんかドキドキしてき──、


「この俺が」


 ……なにそのドヤ顔。

 ムカつく。今のなし。




 ♯




「あー、あれでしょ、写真部の九条那月」

「なんで知ってるの」

「なんでって……」


 私が預かってた大量のピアスを両耳に着けたあと、真っ赤な眼鏡をくいっと押し上げた金髪ショートカットの女の子。私の幼馴染みで一番の親友、のんこ。

 ちなみにこの女、頭の先から足の先まで全身校則なに一つ守ってない。

 もう誰もいない剣道部の道場で、一人遅くまで稽古してて、そんなところだけ真面目で、しかもちゃんと強いから顧問が頭抱えてるっていう。


「九条那月がなに?」

「え? あぁ。……いや、別に」


 あの男、九条那月っていうんだ。

 人に興味のないのんこが知ってるなんて思わなかったからちょっと意外だった。しかも、部活まで。


 写真部……。だから一眼レフなんて持ち歩いてたのか。


「……天音、あのキザ男と別れたの」

「ん!?」


 あれ!?かなり確信的な口調じゃない!?


 キザ男っていうのは、私のか……、「元」カレのこと。名前どころか、人物を覚える気のないのんこは、いっつも人のことをこーやって特徴で呼ぶ。私の方が逆に、のんこが誰を指して言ってんのか覚えるのが大変。

 それこそ、さくっと九条那月の名前出してきたのに驚くくらいには、人に興味のないのんこさん。


 じゃなくて!

 涙の跡……、は拭いたから、泣いたのバレないと思ってたのに!いや、とゆーか、泣いたのバレたってフツーはフラれたことまでわかんないって!


「別れたことと九条がなんの関係があるの?」

「いや、いやいや。私まだなにも言ってないし」

「言ってるようなもんでしょー」

「えぇ」


 そんな馬鹿な。

 防具をきちんと片付けたのんこは竹刀だけ持って更衣室へと歩き出した。


「まあ、それはあとで聞くわ。着替えてくんね」


 道場から出てった金髪を微妙な気持ちで見送った。

 あとで聞く……、ってなんも話すことないんだけど。ただ、失礼な態度取られたから正体暴いてやろうと思っただけだし。特に深い意味なんてないんだけど。


「天音」

「えっ、早……、着替えてないじゃん」


 ひょこっと顔を出したのんこはまだ胴着袴姿。

 え、なにしてんだろ。


「そういえばさぁ。天音、ドレス持って帰るって言ってたじゃん?」

「うん。…………うん?」


 ドレス……?


「あっ!!」

「家庭科室に忘れてきたでしょ」

「忘れてきた! 取ってくる!」

「後から行くから」

「うん、ありがとう!!」


 危なっ!のんこマジ感謝!なにやってんのってそれ私だわ!


 で、慌てて道場から出てきたから、うっかりスクバ忘れてきた。


 ……のんこ、持ってきてくれるかな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ