狼は吼える。
ある男はヒカリを感じるために先へ進んだ。
そんな時、狼達もまた吼える。
吼える声を聴きた魔法使いも大地に立ち寄り手をかざす。
大地の先にある大海原では一匹の海蛇が顔を出していることだろう。
嗚呼……いつしか種族に関わらず長い列が出来上がっていた。
狼は吼える。
世界と歴史を廻り回避するために――
狼は吼える。
死から逃れるために――
狼は吼える。
生への問いを繰り返すために――
魔法使いは力をかざす。
窮地を防ぐために――
魔法使いは力をかざす。
次の生への可能性を信じるために――
狼は吼える。
眼前に見える黒きモノへ立ち向かうために――
狼は吼える。
楽園への路を進むために――
狼は吼える。
楽園の真実を閉じるために――
海蛇は空を見る。
大地に寄り添う事を夢見るために――
狼は吼える。
大切なあの子に報いるために――
狼は吼える。
居場所があると信じるために――
狼は吼える
自身の胸にある痛みを無駄にしないために――
砂に塗れながら彼らは歌う。
砂の先にある光にたどり着くために――
狼は吼える、
奪われたモノへの想いを貫くために――
狼は吼える。
森の奥にある頁の先を探すために――
狼は吼える。
森の奥で見つけた頁の暖かなヒカリを眺めるために――
赤ん坊の声が世界に響く中……
記憶を無くした旅人は、歩く。
大切な誰へたどり着くために――
黒い翼を持つ鴉は、壁の外の空を旋回しながら時折地上へ降りる。
壁の中の生き物へ大切な事を教えるために――
長く歩き続けた男は、
大地に座り込み考える。
路を進むたびに色々な事があった。
楽しい事も、辛い事も、明るい事も、暗い事も。
幾度と無く繰り返したその先に思うようになったのは――
こんな人生に暖かいヒカリなど降り注ぎはしない。
そう思い続けた。
そういえば、何時の頃だったか……
あまり覚えてはいないがヒカリを感じた時もあった気がする。
けれど最後に感じたのは、
黒い闇だった。
だからせめて――
コレを見ている君には安らかな眠りと共に優しげな一言を――
「――――。」
【切ない気持ちを抱えて彼は空を見る】