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2-2


「あーっ! いたいた、探したんですよ!」


 亮平と道端を歩いていると、大声が聞こえてきた。もちろん、俺も亮平も音の発信音であろう、後ろにいる女の人に目を向けた。


 その女性は、周りの目も気にせずに俺たちに近寄ってくる。


 ちょっと考えたけど、なんとなく見覚えがあったので名前を呟いてみた。


「えっと、土城さんだっけ?」


「そうです! でもでも、風紀さんは、成美って呼んでください!」


 隣で俺たちのやり取りを見ている亮平。しかし、不思議なことに、その女は「あれ、亮平君じゃん」と呟いた。


「知り合いなの?」


 俺の質問に、二人して驚いた表情。え、何かしたっけ、俺。


「いやいや、お前こそ何でそんな普通に成美さんと喋ってるの?」


 なんでも知ってそうな亮平の、そういう質問は結構希少価値だったりする。


「道端であったから……」


 まぁ、間違ってはない。自分で、この人が絡まれているのを助けた、なんて恥ずかしいことを言えないし。


「違うでしょっ! 私が男の人達に襲われそうなところを助けてもらったの! 風紀君、とっても強かったんだから!」


「お、襲われそうって……話しかけられてただけじゃないっすか」


「私としたことが、風紀さんが倒れたことでパニくちゃって、お礼もあまり出来ずに帰っちゃったから、ここで待ってたんです。今日も来るかなって思ったんで!」


 あぁ、そういえば、この辺で成美さんと一週間前に会った気がする。


「……とりあえず、お礼がしたかったんです! 私が奢りますんで、その辺でお茶でもしませんか? もちろん、亮平君も一緒に」


 ニッコリ笑った成美さんに、女好きの亮平が断れるわけもなく、流れるように喫茶店へと連れて行かれた。


 その途中、亮平が「お前、倒れたって……もしかして」と言ってきて、俺は何も言わずにうなずいた。亮平の予想通りだろう。


 それから、喫茶店に着くまで、亮平の耐えきれない笑い声を聞く羽目になった。




「で、これが私のアドレスです!」


 急に差し出された、名刺サイズの紙。周りにはピンクの花がちょくちょく手書きで書かれていて、成美さんらしいな。


「あ、どうも……」


 なんとなく受け取る。別に、彼女がいるわけでもないから、こういう事をするのは悪いことじゃないんだろうけど、なんとなく気が引ける。


「まさか、亮平君が風紀君の知り合いだとは思わなかった!」


「俺もだよ。風紀が成美さんと……知り合いだったなんて」


 二人して話が盛り上がっているみたいだ。そもそも、どうして亮平と成美さんは顔見知りっぽいんだ? 大学の知り合いなら、俺もちょっとは見たことあるだろうし。もしかして仕事関係?


 俺の表情を読んだからか、亮平が口を開いた。


「お前、成美さん知らないの? 今、結構有名だぞ。ほら、○○○っていうドラマにも出てるし、モデルとも活動中だぞ。」


「あぁ、一人のときは、出来るだけテレビ見ないようにしてるし……」


 だから、結構芸能関係には疎いのだけど。


 でも、俺も聞いたことがあるドラマ名だった。きっと、話からすると、亮平と成美さんは俺の予想通り仕事場で出会ったのだろう。


「やっぱり、風紀君私のこと知らなかったんだ。そうだろうとは思っていたけど……なんかショック」


「え、いや。ごめん、その……あまり、ね。うん」


「いやいや、そんな慌てなくても大丈夫ですよっ! って、風紀君は亮平君と同級生ですよね?」


「は、はぁ」


「じゃあ、タメ語でオッケー感じ? 私も、同じ年だし気にしないでタメ語使ってね」


「う、うん……」


 なんだ、この人。喋るペースが半端ない。ついていくので精いっぱいだ。


「と・こ・ろ・で!」


 飲み物をストローですすりながら、俺は成美さんの声に耳を傾けていた。


「本当は内緒なんだけどね、亮平君の大学にお邪魔することになりましたっ!」


「え?」


「ブフッ」


 飲んでいたジュースが若干口からこぼれた。うえ、きたね。


「だ、大丈夫? あ、もしかして、風紀君も同じ学校なの? それは、ラッキーじゃん私! でね、お邪魔するのは来週なんだけど」


「え、待って。来週って……大学祭?」


「そうそう、大学祭! うちの事務所の、何人かが大学祭に出没するから楽しみにしてね♪」


 もしかして、成美さんって明日香と同じ事務所の人なのか?


 視線で、お前知ってた? という風に亮平に送ったところ、軽く首を横に振られた。


「まぁ、最近決まったことだし知らないのも当たり前だよね。なんだか、学校の理事長さんが、どうしても来てほしいとか言っててさぁ。社長も、かなり頑張って断っていたらしいんだけど、何かとあの学校には恩があるみたいで、断り切れなかったみたい。これは、噂だからよくわかんないんだけどね」


 そうか。そりゃそうだよな。あの社長が、自主的に明日香を俺のそばに寄らせるようなことはしないはず。必死に断っている、社長の顔が思い浮かんでくるよ。


「ところでね、今思いついたんだけど!」


 成美さんは、そっと俺に手を伸ばしてきた。それを避けるように、俺は手を机の下に入れる。なんか、だいぶ不満そうな顔をしてきたけど、知らんぷり決定だ。


「む。まぁ、その……風紀君、私のボディーガードしてくれない?」


「え? ボディーガード?」


「そうそう、ボディーガード。私のことを守ってくれる人のことを言うのよ」


「それは知ってるよ! でも、なんで俺? マネージャーとかいるんじゃないの?」


 別に、俺じゃなくてもいいだろうに。事務所にでも頼んで、金で雇えるだろうし。


「私のマネージャー女の人なんだ。……お願い、だめ? 亮平君は、何かと人気だから頼めないだろうし」


 今にも泣きそうな声で成美さんは頼んできた。


「……分かったよ」


「ありがとうっ!」


この一瞬で、さっきまでの声とは打って変わって、元気な声に変っていた。恐るべし、タレント。


「そして、私のボディーガードには大きな特典がついてきます!」


 ニシシ、と悪だくみのような笑顔を見せ、最後にこう言った。


「あの、秋本 明日香ちゃんと共に行動できるよ! さすがに、明日香ちゃんは知っているよね?」


 俺も、亮平も口を開いたままだった。


「あれ、知らない? 亮平君も知っているでしょ?」


「あ、うん。し、知っているよ」


 珍しく、動揺を隠せていない亮平。かくいう俺も、言葉が出ないほど思考が停止していた。


 その時、成美さんのほうから着信音が聞こえてくる。


「マネージャーだ。ちょっと、ごめんね」


 席をたって、成美さんは電話をしにいった。


「お前……なんだ、その、大丈夫か?」


 亮平の声に反応するのに、少し時間がかかった。


 戻ってきた成美さんは、急遽仕事に呼ばれたらしい。俺たちは、成美さんと店を出た。


「絶対、メールしてね!」


「分かった」


 冷静を取り戻せていない俺は、適当に返事をしてタクシーに乗っていく成美さんを見送った。


 大変な大学祭になりそうだ。
















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