表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

2-1


 明日香が、大学祭に来ると分かって、俺のモチベーションは確実に上がっていた。


 大学祭の準備には積極的に参加をしているし、出し物を考えたりもしている。


 今日も、話が終わって、学校から家に向かっている最中だった。


「やめて……」


 聞き取れないほどの小さな、女の人の声。


 俺は、勘違いかな、なんて思いながらも目をそっちに向けた。


 そこには、四人組の男に囲まれている二十歳を超えたぐらいの女の人がいた。


 周りに目をやると、気づいているけど無視して歩いている人もいるっぽい。


 なんだ、この世の中は。なんて思ったのは、これが初めてでもなかったりする。


 俺も男だ。ここで、この人を放っておけるほど人間終わってはいない。


 一歩ずつ、その集団に近づいていく。


 男四人は、壁に追い込んだ女を囲むようにしているから、俺には気づいていないみたいだ。女の人も、恐怖からか俺が近寄っていることが分かっていないようだ。それは、それで都合がいい。


 とりあえず、一番手前にいる敵から処理するか。


 さすがに、女性は俺が男たちの後ろにぴったりと張り付くと気づいたようだ。肝心の男たちは、女性のその表情を見ても分かっていないみたいだけど。


 手前の男にむかって、背後から、少し力をいれた前蹴りを膝裏に入れる。すると、男はカクンと体勢を崩した。そこへすかさず、男の頭を横に押しやるように、片手で力任せに押した。


 不意を突かれたということもあって、男は地面へと一直線。さすがに、他の男たちも気づいて、俺にガンを飛ばしてきた。


「な、なんだ、テメェはぁ!」


「いや、この人が困ってるように見えたんで……」


 と、女の人を指さす。


「おうおう、カッコイイな兄ちゃん。か弱い女性を助けるために、自分が殴られに来たのかい? ひゅー、こりゃ女の子も惚れちゃうねぇ」


 さっき、ガンを飛ばしてきた男とは違う人が、一歩俺に近づいて笑いながらそう言ってきた。


「お……まえ、なにすんだぁ!」


 最初に倒されていた男が、起き上がって俺に立ちあがりながら拳を振り上げた。そんな、状態からじゃ、ちゃんとした攻撃は出来ないだろうに。


 俺はそいつに目を一瞬向け、そのまま足を上から下に降りおろした。立ちあがろうとした反動と、俺のおろすタイミングがマッチしたのか、その場で男は意気消沈。何もしゃべらなくなった。


「おい、あんまり調子に乗ってんじゃねぇぞ?」


 やっと、四人の中の最後の一人が喋った。こいつが、一番力が弱そうだ。腕も細いし、体つきもよくない。これで、よく喧嘩をしようと思ったものだ。


 その喋った男が、勢いのまま俺に殴りかかってきた。大振りすぎて、目をつむっていてもよけれそう。


 軽々サイドによけると、そいつの腹に一発拳をぶち込む。予想通り、その貧弱な体では、俺のパンチ一発食らっただけで、倒れてしまった。


 残りは二人。


 その二人も、少し俺に危険を感じたのか、構えをとった。


 さっきの男よりかは筋がいい。でも、そんなパンチじゃ当たらない。


 二人同時に攻撃をしてこれば、もしかしたら当たったかもしれないのに。


 俺は、一人のパンチをよけ、あごめがけて拳を振りぬく。頭を揺らされた男は、そのまま足をふらつかせながら、地面へと倒れていく。最後に残った男は、倒れた男に一瞬目を向けた。そんなチャンスを俺が見逃さないわけがない。


 すかさず、蹴りと拳をぶち込む。


「カハァッ……」


 声にならない音を出し、男は膝を地面につけ、ゆっくりと倒れて行った。


 久しぶりに、人を殴った気がする。拳が痛く感じた。


 終わった後、視線を周りに向ければ、唖然としている人たちの顔だらけ。警察呼ばれても面倒だろうし、この場を離れるか。


「大丈夫か、あんた?」


「は、はひっ!」


「そっか、よかった。んじゃ、俺は行くから。帰り、気をつけて帰ってください」


 下に寝ている男たちは、すぐには起きないだろう。それに、起きたとしても、この女性に手を出すことはしなさそうだし。


 俺は背を向け歩き出した。


「あ、あの、お礼がしたいんですけどっ」


 大きな声で、後ろから聞こえてくる。


「あ、別に大丈夫ですよ。それよりも、気をつけて」


「嫌です! 帰らせません!」


 そういう言葉とともに、俺の気が遠くなっていった。


 あぁ、この感覚も久しぶりだな。


 女の人に、手を握られているのがはっきりと感じ取れた。




 風が吹くと共に、目が覚めた。


 目を開けると、そこには一面の青空。あぁ、綺麗だな。


 って、なんか違う気がする。


 体を起こすと、そこは家からも近い公園のベンチの上だった。


 あぁ、そういえば、倒れたんだっけ。女性に触れられて。


 情けないなぁ、っと思っていると、遠くからさっき助けた女の人がこっちに向かって走ってきていた。


「あ、目が覚めたんですね! よかったです。助けようとして、怪我されたんですか?」


「いや、違いますよ。大丈夫」


 女の人が手に持っていた缶を手渡してくれた。無難に、お茶だ。うん、ありがたい。


「本当に、大丈夫です?」


「だ、大丈夫です」


 顔を近寄せながら、女性は俺に問いかけてきた。


 よく見ると、この人かなり美人な気がする。いや、美人というより、可愛い部類か。


「私の名前は、土城(つちしろ) 成美(なるみ)です。先程は、助けていただき、本当にありがとうございました」


「いや、大丈夫ですよ。それよりも、俺も不甲斐ないところを見せてしまって申し訳ないです」


 二人して謝ると、自然に笑いが起きた。


「えっと、お名前、お聞きしてもいいですか?」


「風紀……香坂 風紀です」


 俺が名乗ると、女性は小さく俺の名前を復唱した。


「風紀さん、ありがとうございました。あ、私は今から少し仕事があるのでいかないといけないんですけど、もう歩けますか?」


 少し、頭がくらくらするけど、これぐらいならなんとかなる。


 俺は大きくうなずき、成美が去っていくのを見ていた。


 ちょっとだけベンチの上で休憩してから、その場を立った。


「そういえば、さっきの人……どっかで見たことあるような?」


 でも、向こうは俺のこと知らなかったみたいだし、俺も名前を聞いても何も思い出せなかったし、まぁ……似た人をどこかで見たんだろう。


「ふわぁ、なんか頭すっきりした気がする」


 大きく手を伸ばし、一息ついてから家へ向かって歩き出した。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ