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1-3


「風紀君、次はこれ持ってもらえるかな? そうそう、そんな感じ! じゃあ、始めるよぉ」


 お兄さんの声に従い、俺は銀色の眩しい板を持っていた。


 カシャッ、カシャッとリズム良く鳴り響く。周りの風景は、実に自然的で素晴らしい。この風景が日本中に広がっていれば、きっと地球は一日中安定を保ったままだろう。


「って、なんで俺こんなことやってんだ」


 レフ版を持ちながら、俺は一人呟いた。


 どういうわけか、俺は亮平の撮影に付き合っている。撮影といったら、10人ぐらい大勢のスタッフで何かをこなしているのかと思っていたらそうでもなかった。亮平に聞いたら、今日は少ないんだよとか言っていたけど。


「風紀君、もう少し上向けてもらってもいいかな」


「はい」


 給料が出るのかさえ分からないこの仕事を続けて1時間。そろそろレフ板というらしい板を持って立っているのも疲れてきた。どうやら、光を反射させるものらしい。亮平はある程度撮ったら、カメラマンの人と相談したりしているけど、俺はその時は蚊帳の外だ。専門用語とかちらほら聞こえてくるが、全くもって意味分からない。


「はい、おつかれさん! じゃあ、次はあそこで撮影してみようか」


 スタッフ2、3人がぞろぞろと歩く。どうして、俺は今日呼ばれたのかが謎だ。別に俺はいらないんじゃないか? 人が足りていない様子も無いし。


「風紀、水ぅ」


「ほいよ」


 亮平に呼ばれ、こき使われる俺。なんだかむなしいな。


 はぁ、とため息つくと、亮平がじっと俺を見てきた。


「な、なんだよ?」


「今、どうして俺なんかが呼ばれたんだろうって考えてなかったか?」


「そりゃそうさ。今日だって、人手が足りていない様子も無いし」


「ん~、撮影が終わったら呼んだ意味を教えるよ」


 亮平はそれだけ言い残すと、再びカメラの前に立った。


 結局、撮影には1時間半ほどかかり、終わった後はみんなでご飯を食べに行くという話になった。部外者の俺も誘われ、撮影所の近くにある定食屋にて食べることになった。


「そういえば、僕の自己紹介がまだったよね?」


 席につくなり、カメラマンがそう呟き始めた。亮平にトコトコついていたところにレフ板を持つという係りを回されたから、自己紹介をしあう暇なんて無かった。俺が一方的に名前を教えただけだったのだ。


「僕は島野 幸宏。今日は手伝いに来てくれてありがとう。お礼にこのご飯はおごるよ」


「あ、ありがとうございます。島野さん」


「うん。素直でいい子だ。島野さんって言いにくいだろ? みんなからはシマさんって呼ばれているんだ。よければ、そう呼んでほしい」


「シマ……さん?」


 名前を聞いてぼんやりと、どこか引っかかった気がした。亮平のほうを見ても、亮平は視線に気付いているはずなのに知らん振り。


「そういえば、風紀君も亮平君同様僕の後輩なんだってね」


「え、同じ学校だったんですか?」


 俺の驚きの声に、亮平は言葉を挟んだ。


「しかも、同じ部活だったんだぜ」


 その言葉でびびっと来た。シマってどこかで聞いたことあるとは思ったが……


「もしかして……」


「そうだよ。優華の同級生だ。昔から彼女は美人だったんだよ」


 やっぱりだ。優華さんから聞いた……優華さんの元彼氏。島野幸宏さんだ。


「まぁ、昔の話はさておき、風紀君の代にも有名人が出ちゃったって話だよね。亮平君も、有名人だけれども」


「まぁ、そうですね」


「うちの高校は有名人を出す運命でも背負っていたのかな?」


 シマさんが爽やかに笑う。昔の話はあまりしたくないはずだろう。だって、俺もしたくない。明日香の話は……特に。


 そんな話をしていると、店員さんがやってきて俺達が頼んで食事を置いていった。


「さて、ご飯も揃った。食べようか」


 カメラマンのシマさんがそういうと、みんなが一斉に食べはじめた。




 撮影も無事終わり、亮平と俺は帰路についた。


「シマさんに会わせたかったんだ」


 二人きりになって最初の言葉がこれだ。


 やっぱりか。


「で、どうだった?」


「どうだったって……わかんねぇよ」


 どうして亮平は俺をシマさんに会わせようと思ったのかさえ分からない。


「けど、シマさんは……昔のこと忘れてるみたいだよな」


 俺がそう言うと、亮平は否定した。


「シマさんは、忘れてなんかいないよ。どうしてカメラマンになったと思う?」


「それは、カメラが好きだからだろ?」


 今日のご飯のときにも言っていた。この仕事は楽しいって。


「それもあると思う。でも、シマさんがカメラマンになった本当の理由は、優華さんにあると思うんだ」


「優華さん?」


「カメラマンをしていれば、いつかは優華さんと会えるかもしれないだろ?」


「いや、それは無理だろ……だって、優華さんの所属している社長が別れろっていったんだぜ? 今更、同じ仕事場で仕事できるわけ無いじゃん」


「そんなことシマさんだって百も承知さ。でも、諦め切れなかったんじゃないかなって俺は思うんだ」


「そんな、わけねぇよ」


 言葉に詰まった。俺だって、明日香に会ってもいいっていわれたら今すぐにでも会いに行く。明日香の迷惑にならなかったら会いに行きたいさ。でも、諦めなきゃ駄目なんだってあの時分かったんだよ。


「まぁ、細かいことは分からない。でも、俺は……」


 そのまま亮平は言葉を詰まらせて喋らなくなった。俺もそれを問い詰めることもせず、自宅に着いた。


 もやもやとした気持ちを抱えながら。




















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