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3-4


 あぁ、なんて馬鹿なことをしたんだろう。


「明日香、久しぶりだな! 元気にしていたか?」


「う、うん。そういう亮平君は、なんだか頑張っているみたいだね」


 少し考えれば分かったはずなのに。ずっと風紀のことで頭がいっぱいだった。


「ねぇねぇ、風紀の好きな食べ物は何なの?」


「え、あ~……たまごかな……」


「可愛いね! 私はねぇトマトだよ! 嫌いな人いっぱいいるらしいけど、私は信じられないなぁ」


 そうだった。そうだったんだ。成美と風紀は知り合いで……それで、私が来る前まで一緒に行動してたんだった。


「明日香、大丈夫だよ。風紀君、とっても強いんだから! 今日は、私のボディーガードとして大学祭案内してくれるんだ! ついでだから、亮平君も呼んじゃった」


「ついでってひどいなぁ、成美さんは」


 亮平君の昔と変わらない爽やか笑顔。


 優華さんは、この後も仕事ですぐに移動しなくちゃいけないらしく、ここには居ない。


 風紀の方を見ると、目が合った。すぐそらす。はぁ、だめだなぁ。なんで、こんなところにいるんだろう。


「それじゃ、進もうっ! 今日は夜まで遊んじゃうぞー!」


 ノリノリの成美が歩き出す。それにつられて、私たち三人も歩き始めた。


前方では、風紀と成美が楽しそうに喋っている。……見ている限り、成美が一方的に話しているみたいだけど。


「なぁ、明日香。どうだ、最近」


 急に、亮平君が話しかけてきた。


「え、あ、うん。大変だよ」


「売れている女優さんだから、当たり前だよなぁ」


「そんなことないって!」


「そっか。で、久しぶりに会った感想はどうですか?」


 顔で風紀のほうを指し、意地悪な笑みを浮かべて言ってきた。


「どうって……戸惑っちゃうよ、そりゃ」


「そりゃ、そうだよなぁ。俺もびっくりしたよ。今日の大学祭に明日香が来るって聞いて」


「私は、知らなかったけどね。風紀がいるってこと」


 前に目を向けると、風紀の姿があった。こんなことは、今まで夢の中でしか存在しなかった出来事なのに。


「ごめんな」


「え、どうしたの? 急に」


「色々とな。黙っていたこともそうだけど、二人が別れるのを止められなかったっていうか」


「ううん。風紀が決めたことって……分かっているから」


 風紀がつらい思いをして決めたのは知っている。優華さんから聞いたから。


「……そっか」


 今度は優しく微笑んで、私の頭をポンポンと撫ででくれた。


 しばらく歩くと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「キャッツカフェどうですかにゃん?……って、あれ、亮平センパイじゃないですか! あと、風紀野郎センパイも」


 にゃん? それよりも、この声ってまさか……


「神子ちゃん……?」


「あ、すかセンパイですか!?」


 神子ちゃんだ。後輩のとっても可愛い子。人形みたいで……つい。


 ぎゅっ。


「ひゃぁ、やめ……やめてください!」


「神子ちゃんは相変わらず可愛いねぇ」


 神子ちゃんを抱きしめて、私より少し身長の低い神子ちゃんの頭に頬をすりすりする。この感触、何も変わってなくて安心した!


「しかも、さっきの何? もう一回言って!」


 私の要望に、神子ちゃんは困惑しながらも「キャッツカフェはどうですかにゃん?」と答えてくれた。


 うー!


「行きます! 行きましょう、キャッツカフェ!」


 神子ちゃんをギュッと抱きしめながら、お店へと向かった。


 なんたる不覚。昔の感覚で、神子ちゃんを抱きしめてしまった。


「ごめんね、神子ちゃん……」


「い、いいんです。なんだか、久しぶりすぎて私も緊張しちゃって。えへへ」


 可愛い猫のコスプレをしている神子ちゃんがそう言った。


「で、何頼みますか?」


「あれ、神子ちゃん……にゃんが抜けてるよ?」


 私が意地悪顔でそう言ってみると、小さな声で「風紀センパイと同じこと言わないで下さいよ」って聞こえてきた。


「え?」


「い、いや、さっきも風紀センパイに同じこと言われたんで」


 思わず、成美の隣に座っている、目線が風紀の方に行く。


「とりあえず、飲み物は何にしますか……にゃぁ」


 神子ちゃんの恥ずかしがっている顔が可愛くて見とれていたいところだけど、私はオレンジジュースを頼んだ。風紀もオレンジジュース。成美は野菜ジュースで、亮平君はコーラを頼んだ。


「ところで、三人とも部活一緒だったんだよね? なんか、ビックな人が多いんだね。明日香も亮平君も、今や超がつくほどの有名人。優華さんと龍さんなんて、日本の代表クラスでしょ? すごいなぁ。私もその学校行きたかったなぁ」


 その言葉で、私たちの空気が少し重くなったのに気づいた。もちろん、風紀も昔のことには触れてほしくないみたい。あまり、いい思い出じゃなかったかもしれないし。


「ねぁねぁ、風紀。明日香って、昔はどんな子だったの? 高校時代から可愛かったんでしょ?」


 成美に質問されて、風紀は少し困り顔で「人気者だったよ」とだけ答えた。


「そっかぁ、さすが明日香だね。うん、分かる! これじゃ、モテまくって大変だったでしょ? ね?」


 今度は私に振ってくるか。


「い、いや……別に、あまりモテてなかったし」


「嘘だぁ! 明日香がモテないわけがない!」


 成美のその言葉に、全員が苦笑いを浮かべた時、思いがけない言葉が聞こえてきた。


「だって、明日香センパイのこと、風紀センパイが守っていましたからね。誰も手が出せなかったんですよ」


 目の前にジュースが置かれた。


「神子、お前、何言って……」


 風紀の言葉をさえぎるように、神子ちゃんの言葉が続く。


「そうですよね? だって、風紀センパイの彼女だったんですから」


 神子ちゃん?


「……そうなの?」


 成美の目が私に向いている。


「うん。その……そうだよ」


「……そうなんだ」


 えへへ、と成美は笑った。でも、その笑顔は、少しぎこちなかった気がした。


 少ししてから、亮平君が店を出ようって言いだした。私も、その方がいいと思う。なんだか、周りのみんなもざわざわしだしたし。私も、もう有名人ということを自覚しなくてはいけない。それに、今や人気急上昇中のモデル亮平君もいるし、成美もいる。


 風紀をちらっと見ると、とても居づらそうにしてたし。


 みんな、お会計を終わらせて、店を少し出たところで、後ろから声が聞こえてきた。


「ちょっと待ってください!」


 振り向くと、そこにはさっきとは別の私服を着ている神子ちゃんがいた。


「私も、一緒に行って……いいですか?」


 少し下を向きながら、上目遣いでそう喋る神子ちゃんを見て、抱きしめたい衝動を抑えた。さすがに、人前すぎる。あまり、派手な行動を取ると、社長に怒られそうだし……。


「いいよ。一緒に回ろうぜ」


 いいよな? と成美に確認を取る風紀。成美も嫌がるそぶりを見せなかったし、亮平君と私はもちろん大丈夫だ。


 今度は少し陣形が変わり、私たち女三人が前を歩いて、後ろでは風紀たちが歩く形になった。


「ねぇねぇ、その服装って、私が今月号で着ていた服に似ているよね?」


「は、はい! 私、服のセンスあまりないんで、いつもお世話になっています!」


「ありがと! 神子ちゃん、すっごく似合ってるよ! 可愛いねっ!」


 神子ちゃんが照れていると、成美は優しくほほ笑んだ。


「ねぇ、明日香」


「何?」


「……やっぱり、なんでもない! お腹すいた!」


 へ? お腹?


「さっき、キャッツカフェで何か食べればよかったじゃない」


「ん~、今の気分はアメリカンドッグなり!」


 確かに、あれは美味しいけれど。


「お、こっちから……匂いが!」


 成美は犬ですか……?


 歩くままについて行くと、本当にアメリカンドッグが売っている場所に行きついた。その隣では、たこ焼きが売っていた。風紀と亮平君は二人でそのたこ焼きを買って、食べようとしていた。私もたこ焼き……食べたいな。


 そう思っていると、神子ちゃんがおもむろに風紀に近づき、ひとつたこ焼きを奪っていた。仲良さそうに、二人で喋っている。いつの間に、こんなに仲良くなったのだろう。高校の時から、神子ちゃんと風紀は、兄弟みたいに仲が良かったのは覚えているけど……。あんな雰囲気だったっけ?


「明日香も食うか?」


 亮平君が、私にたこ焼きを一つ差し出してきた。頷いて、それを口に含む。


「美味しい」


「だろ?」


 亮平君は変わらない。それが、なんだか嬉しかった。


 そして、時間は過ぎ、外は少し暗くなり始めていた。


「風紀、私もう帰らないと駄目かも」


 成美が確認を取るように風紀に話しかけた。なんだか、とっても仲が良くなっているこの二人。お互い、名前を呼び合っているし……。


「そっか。んじゃ、送ってくよ」


 大きく頷く成美。風紀のことが大好きっていうのが伝わってくる。こんな成美を見るのも初めてで、とても嬉しいんだけど……なんでだろう。胸が苦しい。


 特に、何を喋るでもなく、五人で裏門へと歩いて行く。私も、そろそろ渡利さんに電話して、迎えに来てもらわなくちゃ。


「明日香も乗って行く?」


 携帯を取り出したところで、私が連絡することに気付いたのか、成美が話かけてきた。本当はその気遣いは嬉しい。でも、今日は早く家に帰ってゆっくりしたかった。


「ううん、大丈夫。渡利さん、たぶんすぐ来るだろうし」


「そっか」


 裏門に着くと、成美のマネージャーが運転する車が見えた。


「じゃあね、風紀。今日はボディーガードありがとう!」


「いや、大丈夫だよ。特に危ないことなかったし。気をつけて帰れよ」


「はーい」


 成美は楽しそうにそう言って、車に乗り込んだ。彼女の純粋さが悲しい。


 成美の乗った車を見送ると、私は携帯を取って電話をかけた。渡利さんはすぐに出て、あと十分ぐらいで着くらしい。


「もう、大丈夫だから。……今日は、ありがとね」


 亮平君と風紀にそう言って、手を振った。風紀は、何か言いたそうだったけど、そのまま、背中を向けて去って行ってしまった。


 はぁ、何やってんだろ。


 久しぶりに会えて、嬉しくないわけがなかった。


 風紀に会えて、気持ちが高まったのも確か。


 でも、風紀はそうでもなかったのかな。ずっと辛そうな顔してたし。


「明日香センパイ」


 声が聞こえ、顔をあげた。


「神子ちゃん?」


「教えてください」


「どうしたの?」


 神子ちゃんの真剣な顔。そして、予想外の言葉が聞こえてきた。


「風紀センパイのこと、今でも……好きですか?」














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