ホーリータウン②
第5章
家と言う物は、少しでも形になると便利なもので、屋根がなくとも基礎の上に床板が張られると、人足たちは床で寝起きを始めた。グリークさんは入念に養生してあるから大丈夫だと言っていたが、少し心がモヤモヤした。
「ホーリーも寝て見れば、すごく気持ちいいよ」とシママに言われ寝転ぶと、星空が広がっていて確かに快適だ。見習い文官たちも、3日目からは床で眠っている。
「ホーリーは、明日の水汲みは終わっているでしょ?明日はどうするの?」
「明日は、アレクサンダーと敷地内を走る予定よ。色々な点検もあるしね」
「1人で大丈夫?」
「アレクサンダーに乗っていれば大丈夫よ。文官さんと結界の確認をしなければならないから‥」
「そっか、それは、馬がなければできない仕事だよね」
「明日、シママも乗せられそうなら、一緒に来る?」
「行きたいけど、ホーリーの後ろは嫌だよ」
「なぜ?」
「初めて馬に乗るの‥‥女の子に乗せてもらうのは、ちょっとね‥‥」
「じゃあ、彼らに頼んでみる?」
翌日、シママはカイルの馬に乗せてもらって、ホーリーと一緒に、敷地内の確認をしながら説明を聞く。
現在のホーリータウンは、外部から侵入する事が出来ない状態になっていて、今までここを通っていた商人たちは、これからは通行不可能になる。
「人もそうですが、魔獣も入れません」
「もしも、魔獣が先に入っていた場合は?」
「心配ありません、前回の整地の時、魔術師たちが調べていますので、それはないですね。そうでなければ、我々も、無防備に雑魚寝などできませんよ」
「‥‥夜の見張りは、人の見張りです」
カイルとドットは交代で夜勤をして、土地の調査も行い、報告の書類も作成しているらしい、貴族学校を出て、初めての仕事にしては大変な仕事だと思う。
「森の方に行ってみましょう。森に近づくと、結界がよくわかります」
森は不可侵の為、出る事も入る事も出来ないと説明された。
「シママ、あの実を取って来てください」
シママは半信半疑で枇杷の木に向かうが、途中で見えない壁に当たり枇杷の木にはたどり着けない。
「すごい、本当に行けないや」
シママの後を残りの3人で向かうとやはり壁にぶち当たる。
「本当だ。すごい、これが反対側の状態ですか?」
「そうです。しかし、先程の場所では、結界はわかりませんでしたよね?」
「ええ、そうですね。ホーリーさんにお渡したブレスレットを覚えていますか?」
「はい、覚えています」
「え、どれ?」
「ホーリーさん、表に出す事が出来ますか?」
ホーリーはわずかに魔力を動かしブレスレットを表す。
「すごい、どうして出てくるの?」
「このブレスレットに魔術が組み込まれていて、魔力持ちは、持ち主の体内に吸収できます」
「平民は常に携帯する事になるのですが、持ち主と一緒ならば出入りが可能になるのです」
「では、今度は南方面に向かいましょう」
「あっ、ちょっと待って下さい、あの枇杷の木、家の木ですよね?」
「まぁ、そうなりますけど、欲しいのですか?」
「ええ、皆さん、あの食欲ですよ。もうすぐ食料危機を迎えると思いませんか?」
ドットが、
「取りましょう、食料はいくらあっても大丈夫です。残ったらアレクサンダーに食べてもらいましょう」
ドットにゴミ処理機のように言われたアレキサンダーは、思いっきり鼻を鳴らしたが、1つ試しに食べさせると、シママを背に乗せて協力してくれた。
「食べ物は、持てるだけ持ち帰りましょうか?」
「その方がいいですね。おふたりは、人足達が、どうしてあんなに水を汲んでるか知ってますか?」
「いいえ‥‥」
「魚の為ですよ。町では魚は殆ど食べられませんからね。貴重な食料みたいですよ」
「ええ!知らなかった。だから、休み時間もみんなで川に行っていたわ。汗を流し魚を取っていたのね」
「昨日から仕掛けも設置しましたよ」
すごい!なんてたくましい大人たちでしょう。
「考えもしませんでした。ひょっとして、今日は魚料理がでたりしてね‥‥」
◇◇◇◇◇◇
南方面も点検が終わって帰って来ると、既に棟上げが終わっていて、ホーリーの帰りを待っていた。
グリークさんが
「ホーリー、キッチンはここでいいのかい?」と確認する。
「はい、ここで大丈夫です」
「じゃあ、はじめるか!」
彼らにとって屋根の次に大切なのは台所らしい。私が注文したカウンター付きアイランドキッチンは、ビックリする程に大きく作られた。
おばさんが4、5人余裕で作業できる。まぁ、ちょっと、違う気もするが、これはこれで良しとしよう。
「あの、これ、途中で見つけて来ました。枇杷とラズベリーと、シママが山芋だと言っていた物ですが、料理に使えますか?」
「嬢ちゃん、上出来だ!今日は魚料理だからね、これでソースを作れるよ。ありがとう」
「食べれますか?」
「ああ、食べれるよ。明日も頼むよ」
2、3人のおばさん達から、良くやったと言われたが、その後の期待の方が大きいように思える。
「‥‥‥」
一斉に台所作りが始まり、昼寝から起きると、既にそこは食堂になっていて、いつの間にか、大きなテーブルと椅子までも用意されていて、本当に宿屋のようだと感心した。
隙間だらけの屋根と柱しかないホーリーホテルは、いくつか魔石ランプが灯っていて、それは楽しそうに見えた。
5日目、水運搬が終わると、敷地内の点検と食料調達に行く事になっている。
「さぁ、行きましょう。昼までに帰らないと夕食に響きますからね」
シママは、すっかり大人たちに言い聞かせられたのか、食料の事しか考えていない。
「ねぇ、シママ、目的は、敷地内の点検だからね」
「‥‥‥」
「今日は北側の点検ですが、北側は、どうしますか?魔術師を雇って整地しますか?」
「岩が多い為に、草や木もそんなに生えていませんけど、我々は少し調べる予定です」
「地質調査でもするのですか?」
「はい、我々には宅地や農地以外も調べる義務があるのです」
「本当に、稀ですが魔石が発掘される事があるので‥‥」
「魔石って、この辺にあるのですか?」
「まさか、一般的には魔獣からとりますが、国内には採掘場もあるのですよ」
「じゃあ、この岩たちも魔石なのでしょうか?」
「この魔術具で検知できるのですが、ああ、ただの岩ですね。残念です、魔石なら大金持ちでしたね。国内でも一部の場所にしか存在しないのですが、この領土で発見できればすごい事になるので、今は、どこでも調べます。規則ですから‥」
ホーリーとシママは、学校の郊外学習に来ているようにドットの説明に聞き入っていた。
ハッとした、シママが、
「ホーリー、ウサギがいるよ。どうする?」
「???なんで、どうする?ウサギは可愛いよね?」
次の瞬間、カイルは魔法の縄を出し、シュッとウサギを生け捕りにする。岩場はウサギの生活拠点なのか、ドットもカイルと一緒に、5匹も捕まえた。
「え!どうするの?」
「ホーリー、ウサギは美味しいよ。おばさん達が大喜びだ」
真っ青なホーリーは、しばらく固まっていた。3人は少し笑いながら、ホーリーにアレクサンダーに乗るように誘導して、その場を去った。
シママのウサギ入りの麻袋を見ていると、アレキサンダーがゆっくりと動き出した。
(ウサギは食料なのね。ここでも食料なのね。美味しいわよね、知ってる‥‥はぁ~~)
急に無口になったホーリーに、シママが
「ホーリーは、ソーセージ以外の肉って食べたことないの?」と聞く
「そうでもないわよ。露店で色々な物を買って帰るから、まさか!あのお肉って、ウサギなの?」
「どこの露店にもよるけど、大抵、ウサギや豚、鶏肉だと思うよ」
「そうなんだ、知らなかった。勉強になったわ。ここに来て、本当に良かった、料理も色々教えてもらったし、調味料もたくさん存在するって知れたし、良い事ばかりだわ」
「ホーリー‥‥」
◇◇◇◇◇◇
ウサギは大変喜ばれて、その日のうちに2階への階段が完成し、2階の床も半分まで貼られた。
さぁ、残りは2日、彼らはどこまで仕上げるのだろうか?




