家の設計
第3章
その日、3人はグリーク工房のドアを叩いた。工房長のグリークさんはインテリ風で、陽だまりの工房室で立ったまま何かを飲んでいた。
「こんにちは、商業キルトから紹介されたホーリー・ペーターです」
「あぁ、話は聞いていますよ、どうぞ、お入りください」
グリークさんの工房は緑や家具が多く、素敵なセンスの持ち主みたいだと少し期待を持って席に着く。
「西側の随分遠い土地を買ったのですね。理由をお聞きしてもよろしいですか?」
3人は顔を見合わせて、カイルとドットは答える。
「僕たちが薦めました」
「‥‥‥」
少しの沈黙の後に、グリークさんはカップを置き
「1大金貨の予算では、距離があり過ぎて予算内には収まらないとは思わなかったのですか?」
二人の見習い文官は真っ青な顔をしているが、ホーリーは、
「大丈夫です、そう、思っていました。設計図を見て、予算を見積もって頂きたく、今日は来ました」
今度は、グリークさんと見習い文官二人は、ホーリーをじっと見つめる。
「この通りまだ子供で、住むまでには時間もありますから、あの村は、ゆっくり開発して行く予定です」
「え?開発‥‥?」
「では、どのような家を希望されるのか見せて下さい」
ここで設計図と言わなかったのは、子供のお絵かき程度だと思っていたからだろう。
ホーリーは10枚以上の設計図やパース、概要などを大きめの紙に書いて来た。見かけはログハウスのようで、入り口までは高さがある。地面から2m上に玄関があり、階段とスロープが入り口まで続いて、ウッドデッキに囲まれている。
地面から2mの基礎は、実質1階で、石が積み上げられた基礎に小さなドアも付いている。基礎の石積みから上は、木の壁で、切妻の大きな屋根が目立つ、1階はホーリーが生活する場所、2階は客室なっていて、全体は宿屋の大きさだ。
その上、敷地内に登り窯の建設をすると書かれていた。
3人はいつの間にかホーリーの説明に聞き入り、予算の事などどこかに飛んで行ったようだ。
「ど、どうして、このような大きさを‥‥?」
「なぜ、このように窯がいっぱい?」
「入口までの高さは必要ですか?大雪は降りませんよ」
地下は掘れないので、丈夫な基礎を物置にすると答えると、次々と色々な事を聞かれた。それから、陶芸に興味がある事、母親が亡くなった場合は、ここで宿屋を開業したいと告げると、やっと、3人は頷いてくれた。
「そうか、この場所に宿屋があれば商人たちは有難いだろうな‥‥」
「今は、奉納と代筆屋で暮らしているようだが、大人になったらここで暮らすのかい?」
「はい、その為の家ですから」
「そうだな、その通りだ。ただ結界のある広い土地を持ちたいだけで、最近は、建物に、興味がない注文がおおくてね、時には、なんでもいいから建物を建ててくれとか言うものもある」
「そんな、勿体ないですね」
「そうだよ、勿体ないのさ、家は住んでないと悲しむからね」
「しかし、これだと値が張る。そこはどうするつもりですか?」
「母に頼んで、3大金貨までは出せる様にします。それ以上は出せないので、ドアノブや窓枠の飾りなどは、この町に通って、安物い物を選びます」
「ホーリーさんは、こだわりのある方ですか?」
「多少はあります。長持ちしそうな物を選びたいですし、母は、布にこだわっていて、タペストリーやテーブルクロスなども作りたいと言ってました」
「では、弟子のシママをつけます。彼に案内させましょう。それで建物と窯の建築費用は合計で2大金貨です。どうですか?」
「はい、後、建築で残った資材は持ち帰らずに、残す事は可能ですか?」
「あぁ、窯に必要なのですね?その他、釘や石、固まる砂も残しますか?」
「お願いします。あのぅ、木材は、少し多めに運搬して頂けると有難いです」
ドットは不思議な顔をして
「森もありますし、薪には困らないのでは?」と言う。
ホーリーは赤い顔で、
「家具がないから‥‥」と答えた。
グリークさんはホーリーの考えを見抜いて、誤魔化してくれていたのに、ドット‥‥鈍い!
◇◇◇◇◇◇
その後、何度も話し合い、ホーリーは、グリークさんや弟子のシママとも打ち解けていき、3か月後、初めての移動日を迎えた。
この町の魔法陣広場に魔力が充填され30人の人足と大量の資材、カイルとドット、グリークさんとシママ、そしてホーリーと箱馬車は、大きな魔法陣の上に乗り、初めてホーリータウンに向かう。
出発直前、魔力持ちが所有する土地は、名前があった方が良いらしく、急遽、決めたホーリータウンと言う村の名前だが、この世界の人たちはタウンが多雨に聞こえて、あまり良い反応ではないが、ホーリーは気に入っている。
2歳年上のシママは、しつこく聞いて来る。
「ホーリー、本当にホーリータウでいいの?」
「シママ、タウではなく、タウンよ、ホーリータウンで私を探してね!!」
「はぁ‥‥ホーリー、たまに君がわからいよ」
グリークさんの弟子のシママはグリークさんの甥っ子で、生まれも育ちもこの町らしく、10歳ながら、細かい金物などをすぐに探しだす天才だ!
夏に、ホーリーは8歳の誕生日を迎えた。10歳になったら、貴族学校に行かなければならない為、後2年で、この世界に慣れながら、自由を謳歌したいと考えている。
「ホーリー、馬車が見えるけど、馬には乗れるの?」
「乗れるようになって、馬車も少しなら引けるようになったの」
「君はすごいな!」
「アレクサンダーは平民の馬ではなくて、魔馬だから、なんとなく言う事をきくのよ」
魔馬は、魔力持ちしか騎乗できない。そして、荒い魔馬は下級貴族でも乗り越せないらしいが、ホーリー位の魔力があれば意思の疎通ができて、安心安全に進んでくれる。乗り手の魔力が多ければ自動運転も行けそうだと、ホーリーは考えていた。
「魔馬って、高いのだろう?」
「ええ、でも、ペーター家の魔馬で、他の貴族が引き取らなかった為に、一応、同じ家名だからって、こちらに回って来たの。縁起が悪いからね‥‥廃嫡、没落、死刑‥」
「それに魔馬の額には、その家の刻印がされているのよ。奴隷印のようなものね、その印を書き換えるにもお金がかかるし、私の魔馬はお年寄りで、引き取り手がなければ、殺処分すると言われたのよ!酷いよね」
「あんなに、立派で、強そうなのに?」
「うん、あの青くて美しい馬、一番の友達よ!」
「??1番の友達は、僕かと思ったよ‥‥」
「あっ、1番の友達はシママだったわ、次にアレクサンダーにしましょうね。フフフフ」
2人で仲良くおしゃべりしていると、グリークさんに呼ばれた。
「さぁ、出発だ。1週間分の食料とテント、着替えは持ったか?」
「はい、持ちました」
この世界には珍しい姿のホーリーは、ズボンに大きなリュックを背負い、リュックには金属製の大小のシェラカップがぶら下がっている。
帽子は大きめの手製、首からかけている水筒も、鍛冶屋で作ってもらっていた。
「いで立ちは、準備万端だけど、食べ物は持ったか?1週間分だぞ?」
「はい、食べ物は箱馬車の中にあります」
「箱馬車って、‥‥荷馬車じゃないのか?」
「荷物も運べますけど、私が寝れるようにしました。自分でテントを建てる事が出来そうもないので、箱馬車の中で寝ます」
「まぁ、そうだな、それが安心だ。夜は、僕たちもあの箱馬車の近くにテントを張るよ」
「はい、ありがとうございます。助かります」
注文主がいなくなると、仕事が無くなる事は、人足たちもわかっていると思うが、小金持ちの子供を気にくわない人間もいるかも知れないし、安全は重要だ。危険が迫るとアレキサンダーが対応してくれるとは思っているが、なんせ年寄りだし彼の体が心配だ。
「アレキサンダー、夜はお願いね。魔力はたっぷりあげるから‥‥」
ホーリーの言葉に「ヒヒ~~」と答えるアレキサンダーは何とも頼もしく思い、思いっきり撫でてると、呼び声が聞こえた。
「ホーリー、グリークさん!出発です。急いでください」と文官たちに呼ばれた。
「さぁ、行こう!ホーリータウンへ!」




