土地の購入
第2章
二人の文官はカイルとドットと言って、見習期間中、まったく空気を読まない素直な青年たちに、ホーリーは少しだけ好感を抱いた。
二人が選んだ土地は、街を囲んでいる石壁の外、郊外の最も西の広大な土地だ。村の規模と言っていい程の広さになる。
小さい子供相手に、地図を広げ、この土地について彼らは、一生懸命に説明してくれる。
「現在の予算は10大金貨(1000万くらい)ですよね?しかし、10大金貨は僕ら下級貴族でも大金ですが、商業ギルトはこの土地を9大金貨まで値下げしてくれるようで、残った1大金貨で、家も建てられます。近くには魔物の住む森はありますが、川も流れていて、水汲みの心配はありません」
「どうでしょうか?」
冷静なホーリーは、
「もしかして、土地を買った後に、建物を建てる事がこの土地の購入の条件なのですか?」
「ーーはい、森からこの土地を守る為に、実は、家が必要になります」
「家があると、魔物に襲われないのでしょうか?」
ここで、商業ギルトのサッシュ副官が説明に入る。
「この広さなら、どこかに魔法陣が存在しているはずだ。魔法陣があれば人足や資材が簡単に運べるし、領主様は、この地に結界を張って下さる。まぁ、実際は集められた魔力で、役人が行うのですが、結界を張る為に、村の起点と建物が必要になるのだ。言い換えれば、誰も住まい家でもあれば、結界が張られ魔獣への対策にもなります」
「しかし‥‥近くの森の向こうは他領のようですが?」
「ここに川が流れているだろう?この川は、森の中を通って交易が行われている。川は国の水利権で守られているので安全だ。森は二つの領土で不可侵が結ばれている。ここに家が建ち結界が張られると我が領土も安心できるのだが‥‥、一度、持ち帰って相談になると思うが、ホーリーはどうしたい?」
「この場所でいいと思います。魔法陣があれば母もここに住めるのですよね?」
「移動魔法陣の使用は貴族学校で習う、ホーリーは貴族学校に行きたいか?」
「‥‥行きたくありません」
「え??そうなの?中級貴族くらいの魔力があるのに?」
「はい、貴族学校は全寮制ですし、貴族でもありませんから‥‥」
「今は魔力不足で、平民でも貴族学校の入学が簡単に認めてられるが、それでも行きたくないか?」
「母が一人になってしまいますので‥‥」
「まぁ、入学にはまだ3年もある。お母様が回復されるかも知れない、この話はここまでで、家の購入に向けて動き出そう。領主様に報告をして、承諾がもらえたら連絡する。今日は商業ギルドカードを発行後、解散としよう」
ホーリーは、見習い文官のカイルに、アパートまで送ってもらって、部屋に戻った。
「ただいま戻りました」
「遅かったね、どうしたの?」とミルサーチが聞いたので、今日の出来事を報告した。
「家は、ホーリーが欲しいの?」
「はい、いつまでも居候できませんし‥‥」
「そうね。今後、私の仕事も忙しくなるし、いい考えよ。でも、あなたの仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫です。ミルサーチさんは、アパートからこの土地までの移動魔法陣の設定は可能ですか?」
「もちろん、貴族学校を卒業しているからね」
「‥‥‥」(それって、いつの時代の貴族学校ですか?とは聞けない)
「‥‥着替えてきます」
身なりは清潔で、この世界に相応しいドレスで、決してスエット上下とかではなく、所作もマナー美しく、しかし、食器類は粗雑で木製が多い。
二人はその後、ホーリーが市場で仕入れた新鮮な野菜、牛乳、鶏肉等をホーリーが料理して、食事を始めた。
「家を買ったら、窯を作りたいです。食器が欲しいので‥‥」
「いいわね、綺麗なカップやソーサーも揃えてくれる?」
(お貴族様のカップ&ソーサーは素人にはつくれませんが‥‥、それこそ、どこかで調達すれば、いいのでは?)
「陶芸は初めての挑戦で、時間がかかりますが、お皿とマグカップは欲しいですね」
「いいわね、大きめに作ったマグカップの中に、果物と蜂蜜を入れて薪ストーブの上に置きたいわね」
「ええ、一人用にスープも作り置きできますし、それに土鍋も欲しいですね」
「お鍋もいいわよね。この前買って来てくれた腸詰を入れて‥‥後、お酒も必要ね?未成年は駄目だけど、私は大人だし‥‥温かいお酒‥‥」
「それから、あれと、あれも欲しいわね?」
「‥‥挑戦してみます」
二人は、まだ、成功していない食器の話で盛り上がり、この日の報告会は終了した。
◇◇◇◇◇◇
1か月後に正式に土地購入の許可が下りて、商業ギルトで手続きをした。今回は、見習い二人とサッシュ副ギルド長、ホーリーが集まり調印とサインを同時に行い、魔法契約が成立した。
魔術契約は魔力持ちにしかできない契約で、破る事は国王陛下でも出来ない。魔術契約だ!
ドットはホーリーに尋ねる。
「家の設計はどうしますか?どこかの工房に伝手はありますか?」
「私の造る家は変わっているので、これから探す予定です。それとも商業ギルドに登録している所にしか依頼できないのでしょうか?」
「そうではありませんが‥‥、一応、報告の義務がありますので‥‥汗」
見習い文官の微妙な立場を理解したくはないが、中身が大人なので理解できてしまう為、
「商業ギルドが紹介して下さった所に、お願いしましょうか?」
「ありがとうございます。助かります」
7歳の子供に頭を下げていて、これから社会の荒波に耐えられるのか少し心配になるが、
「では、早速、その工房に向かいましょう。要望を箇条書きにしてありますし、設計図も書いてきました」
二人の見習いは、ホーリーの後姿を見ながら、自分たちよりも大人だと感じてドットが、
「ホーリーさんは人生2周目ですか?」なんて、おどけて聞いた。
「まさか、でも、普通の子供より色々体験していると思ってます」(本当は何週目かわからないけど)
「すいません、‥‥僕、その‥‥」
「大丈夫ですよ。生まれてから遊んだ事がないので、常に、色々な事を考えていた結果です。だから、設計図を見ても驚かないでくださいね。代筆屋には設計図の代筆の仕事もきますからね。勉強済みです」
「そうなのですか?それは楽しみですね」
20分くらい歩いて、グリーク工房と言う所にやって来た。ここら辺一帯は、工房や木材など建築資材等が集められている建築の町で、広場には魔法陣が備わっている。大きな建物を建築する場合は、一つの工房が受注するが、そこからこの町全体に仕事が振り分けられて、一斉に搬入などを行う。
「なんて、素敵な町なのでしょう。ドアノブや屋根の材料も自由に選べるのですね?」
「ホーリーさんの予算は1大金貨ですよね?予算は十分ですから多少の無理は聞いてもらえます」
「別に、1大金貨に納めなくてもいいのですよね?」ホーリーは聞く
「ええ、それは、そうですが、空き家に、お金をかける必要はありますか?」
「調べたら、馬車で1日くらいで行けそうなのです。これから騎乗も習って、馬車も購入する予定なので、空き家にはなりませんよ。母も月に1泊くらいならいいと言ってくれましたから」
「では、あの土地で暮らすのですか?」
「あの土地でしたい事があるので、2拠点生活ですかね。本当は母が移動出来たら良かったのですが、あまり無理はさせたくないので‥‥」
「はぁ‥‥」
貴族学校は16歳で卒業、上級貴族は他国へ留学したりして国家の中枢に就職するらしいが、彼らのように下級貴族は16歳から見習いに入り、18歳で本採用になる。18~20歳くらいで結婚を決めて、その後、成人として扱われるので、ホーリーの生活プランが理解できなくて当たり前だ。
前例がないのだ。
前例がない事は、ホーリーに関われば多くなる。そこの所を早く理解して欲しい。
しかし、ドット、あなたは感がいい!私を転生者だと見抜いたのはあなただけだ。フフフ、なんだか少し楽しくなってきた。
ホーリーは久しぶりに機嫌がいい




