楽しい、村生活④
第11章
「お尻を拭くから‥‥」
一瞬の沈黙の後、プレジーが「洗えよ!」と叫んだ。
そう、この世界の人々は、トイレに設置してある水差しで洗い、布で拭くらしいが、ホーリーは紙で拭きたい、鼻もかみたいし、ティッシュ代わりにハンカチを使う事に抵抗がある。
魔術を覚えると、クリーンが使えるらしいが、ミルサーチはトイレットペーパー作りトイレに置いている。羨ましい‥‥‥
「紙って高いんだろう?」
「でも、これはタダだよ。燃やすより再生した方が良くない?」
「ちなみに、この紙クズは何て言ってもらったの?」とケルフが聞く。
「布団にする‥‥」
そんな話をしながらでも、二人は手伝ってくれて、最初の一枚が出来上がった。
「板から剥がす時に気をつけて剥がしてみるね」
「やり方がわかったから、もっといい葉っぱを探してみるよ」
「虫とか芋とかの方がいいのでは?」と二人は話し合っているが、心の中で、虫はアウトだと思っている。言えないけどね‥‥虫の紙でお尻を拭く事に抵抗がある。
◇◇◇◇◇◇
次の日も二人はやって来て、再生紙作りを手伝うと言う。
「どうして?暇なの」と思っていると、貴族学校では必要なのではと、家族に言われたらしい。
「否、必要ないよ。多分、最初は生活魔術を教えてもらうから、そうしないと、寮で生活できないでしょ?」
「でも、両親が手伝った方がいいって、俺たち、街にはあまり行かないから‥‥」
「助かるけど、虫とかも入れるんだよね?」
「ああ、今日は、色々と試すものを用意して来た」
二人は、朝から大荷物で、女の子たちも作業部屋に入りたそうだったが、仕事があるのか、外からたまに覗いたりしている。
「昨日のが乾いたから剥がしてみたけど、これでもいい感じだね?薄くて柔らかい」
二人は、手で触ってみて、「う~~ん」と唸ってる。ホーリーはこれでいいのだけど、二人は研究が楽しいらしく、妥協しないで研究を続けるようだ。
暇になったホーリーは、粘土を取り出し、建築の町で作った轆轤に、乗せて見た。水で柔らかくしながら粘土でお皿を作っていると、いつの間にかケルフとプレジーが立っていた。
「そうやって、皿って作るんだ」
「お皿に見える?」
「いや、平たい何かに見える」
「‥‥‥」
お昼は遂に3人で食べる。この家で誰かと食べるのは初めてだけど、リリーさんのスープに小麦粉で作ったすいとんを入れただけの料理だ。
「栗はまだ駄目だよね?」
「まだ、落ちてなかった」
「そっか、残念だ。この辺に熊はでる?」
「いや、結界があるから、出ないけど、魔獣が湧き出ると、家の牛たちは食われる」
「そんな事あるの?」
「何十年にあるか、無いかだけど、一応、結界が張られてるから、騎士団が森に入って退治してくれれば被害は出ない」
「カーズさん邸は、ウチより大きいけど、全員の避難所なの?」
「そうだ。家に結界が張ってあるから‥‥」
「ケルフが貴族学校で魔術を習えば、強力な結界が張れるんじゃない?」
「そんなに簡単ではない。カーズ村は親父の村で、家の結界は叔父さんが張ったんだ」
「へー、叔父さんは魔力持ちだったんだ」
「うん、だから、色々な期待もあったみたいで、複雑なんだ。相談してくても、相談できないし‥‥」
「それでも、トイレの紙は必要ないと思うよ‥‥」
3人で研究をする毎日が終わって、多彩なトイレットペーパーと共にこの1週間が終わる。
◇◇◇◇◇◇
次の月も紙クズが頂けたので、馬車に詰め込み、ホーリータウンを目指す。カーズ村では誰もがホーリーが、認識されたようで、カーズ邸で、夕食を頂くついでに、用意されてた食材も、馬車に運び込まれた。
翌日、ケルフとプレジーが待ちきれないようで、目覚める前からドアを叩く。
「まだ、起きてないよ」
「そっか、おはよう」と言って、作業部屋に入って行く。ムムムと思うが眠さには勝てずにベットに向かおうとすると、今度は、カーズ村長が、ノックする。
「おはようございます。今日から芋と葉物などはすべて収穫しますね。芋は、日持ちしますので、ホーリーさん家の食料庫にも運び込みます」
「ありがとうございます。ケルフはどうしたのですか?」
「来週、神殿での検査が決まって、少し、焦っているのか、落ち着かない様子ですいません」
「そうですか、そうなると、この冬から入学ですね」
「ええ、嬉しいやら、悲しいやら、複雑です」
「来週なら、私も神殿に通ってますので、後で、日にちと時間を教えて下さい」
「そうですか?助かります。初めての事で、色々とわからない事だらけで、助かります」
初日からカーズ村の皆さんは大忙しで、ケルフとプレジーも収穫を手伝いながら、再生紙も作る。色々な物で固めた中、芋虫らしき物は優秀で厚手の紙に変身した。
「いいね、これ、絵がかけそうだね。もらっていい?」
「良いけど、何に使うの?」
「お皿に描く模様を考えるのに使うつもり」
「??皿も出来てないのに‥‥」とプレジーは小声でつぶやく。
二人が出で行った後に、紙に向かって色々考えていると、今度は、女の子3人組がやって来た。
「お兄ちゃん、帰った?」
「帰ったよ」
「なんだか、最近、怖い顔してるから、近づけなくて、だから、ここにも来れなかった‥‥」
「そういうお年頃なのね‥‥」
「何していたの?」
「お皿に絵を描くならどんな絵がいいかな~~って、考えてたの」
3人はホーリーの書いてる絵を覗き込んで、自分たちも書いてみたいと言う。子供の発想は素晴らしいので、一緒に考えてもらう事にした。
3人は真剣に考え始め、ホーリーはミルクとクッキーの準備を始める。色のついた絵の具に感激して、4人で盛り上がっていると、リリーさんが夕食を持ってやって来た。
「サボってるとお父さんに叱られるわよ」と優しく話すと、3人は渋々、腰を上げて、農作業に戻っていった。
「叱られますか?」
「いいえ、ホーリー邸は知識の宝庫ですから、ご一緒できる事を咎めたりしません。ただ、本当に豊作で、収穫が大変なのは確かです」
「芋は、また、売るのですよね?」
「ええ、半分は売って、半分は冬の食料に回します。それで、こちらの食料庫を見せて頂いていいですか?」
「いいですよ、この床の下全部です。作業室は粘土と紙クズが入ってますけど、すべての床下は収納になってます。ああ、キッチンの下には薪も入ってます。食堂の下は外からのドアが側面についてます」
リリーは驚き、
「今週、ぶどうを収穫する予定で、ワインを作ろうと男衆が盛り上がってまして、でも、ホーリーさんはまだ小さくてどうしたものかと‥‥」
「母が良くなれば飲めますし、馬車で持ち帰る事が出来れば、お世話になっている方に、お渡しも出来ますので、お願いします」
「そうね、こんなに広いなら大丈夫ね。後で、芋を運び入れて、それから、大根、ニンジン、ワイン、栗も保存できそうね。わかりました。明日から、少し、運び込みますね」
「助かります」
次の日は、頂いた卵で大きなオムレツを作って食べていると、床下のドアから入った男の人達が、あーでもない、こーでもないと、話し声が聞こえて来た。そして、予想通り、カーズ村長がやって来て、
「床下の食料庫に棚を作っていいだろうか?」と聞いて来たので、残っている資材を使って下さいと、了承した。
午後には、立派な食料庫が完成して、ついでに木の箱がいくつもつくられていた。
「来月になれば涼しくなりますし、本当にいいワインセラーで、驚きました。後、木箱に芋や人参を入れて置けば春まで持ちそうですし、チーズも大丈夫そうですね。さすがですホーリーさん」
「え?いつ、ワインセラーになったの?今日?今?」
急いで見に行くと、びっくり、本当にワインセラーのようだ。今日、ぶどうを収穫して、来月までに樽に入れて、ここに運び込むつもりらしい。我が家が、我が家でなくなって行く‥‥
しかし、来年まで飲めないのは残念だと、男衆は嘆いている。
収穫で忙しい毎日が終わり、神殿での再会を約束して、今月の滞在は終了した。
「疲れたよ。アレクサンダー」




