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まだ、部屋にいる

作者: あお〜い
掲載日:2025/12/18

最初に感じたのは、音だった。

畳が、きしむ。

誰も歩いていないのに。

「……今、聞こえましたか?」

私の問いに、駐在は首を振った。

「何も」

部屋は六畳。

古い仏間で、中央に布団が敷かれている。

そこで、老婆は死んでいた。

死因は窒息。

だが首に痕はなく、布団も乱れていない。

「自分で息を止めた、なんてことは……」

「ありえません」

私は畳に目を落とした。

一枚だけ、色が違う。

畳を上げると、下は空洞だった。

その夜、私はその家に泊まった。

理由は単純だ。

夜に何が起きるのかを知りたかった。

午前二時。

音で目が覚めた。

――すぅ……すぅ……

呼吸音。

布団の横。

何かが、息をしている。

体が動かない。

視線だけを動かす。

畳が、わずかに沈んでいた。

そこには――

何も、見えない。

だが、重さだけが、確かにあった。

翌朝、駐在にすべてを話した。

彼は青ざめ、口を開いた。

「……やっぱり、聞こえたんですね」

「やっぱり?」

「この家では、昔から言われてるんです」

「“一人で死んだ人は、減らない”って」

集落では、同じ部屋で

三人が、同じ死に方をしていた。

全員、布団の中で、静かに。

私はもう一度、畳下を調べた。

空洞の奥。

土の壁に、無数の爪痕があった。

外へ出ようとした跡。

助けを呼ぼうとした跡。

だが、外からは

何も聞こえなかった。

理由は簡単だ。

この部屋では、

息をしているものが一つ多い。

報告書を書き終えた夜、

私は自宅で布団に入った。

静かだ。

完璧に。


……いや。


――すぅ……すぅ……


耳元で、呼吸音がする。


布団が、沈んだ。


私は確信した。


あの部屋から、出てきたのだ。


鍵なんて、最初から必要なかった。

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