まだ、部屋にいる
最初に感じたのは、音だった。
畳が、きしむ。
誰も歩いていないのに。
「……今、聞こえましたか?」
私の問いに、駐在は首を振った。
「何も」
部屋は六畳。
古い仏間で、中央に布団が敷かれている。
そこで、老婆は死んでいた。
死因は窒息。
だが首に痕はなく、布団も乱れていない。
「自分で息を止めた、なんてことは……」
「ありえません」
私は畳に目を落とした。
一枚だけ、色が違う。
畳を上げると、下は空洞だった。
その夜、私はその家に泊まった。
理由は単純だ。
夜に何が起きるのかを知りたかった。
午前二時。
音で目が覚めた。
――すぅ……すぅ……
呼吸音。
布団の横。
何かが、息をしている。
体が動かない。
視線だけを動かす。
畳が、わずかに沈んでいた。
そこには――
何も、見えない。
だが、重さだけが、確かにあった。
翌朝、駐在にすべてを話した。
彼は青ざめ、口を開いた。
「……やっぱり、聞こえたんですね」
「やっぱり?」
「この家では、昔から言われてるんです」
「“一人で死んだ人は、減らない”って」
集落では、同じ部屋で
三人が、同じ死に方をしていた。
全員、布団の中で、静かに。
私はもう一度、畳下を調べた。
空洞の奥。
土の壁に、無数の爪痕があった。
外へ出ようとした跡。
助けを呼ぼうとした跡。
だが、外からは
何も聞こえなかった。
理由は簡単だ。
この部屋では、
息をしているものが一つ多い。
報告書を書き終えた夜、
私は自宅で布団に入った。
静かだ。
完璧に。
……いや。
――すぅ……すぅ……
耳元で、呼吸音がする。
布団が、沈んだ。
私は確信した。
あの部屋から、出てきたのだ。
鍵なんて、最初から必要なかった。




