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水が呼ぶ

作者: きだおさむ

水が呼ぶ…


──そんなふうに言うのだろうか。


昔から、私は水のそばにいると、不思議と心が落ち着いた。


静かに波打つ湖面

きらめく川の流れ

潮の香り漂う海辺


――なぜか懐かしく感じて、吸い寄せられるように足が向いた。


まるで、そこが本当の自分の居場所だとさえ思うほどに…


海はすべての命の始まりだと、なにかで聞いた。


水の音に耳を澄ませていると、心のざわつきが、ゆるやかに静まっていくのを感じる。


気が高ぶるとき、私は自然と水の近くへと向かった。

そうすることで、自分を取り戻せる気がしていた。


けれど、あの出来事の後は違った。


姉が死んだ。

それも、水の中で…


誰よりも仲の良かった姉だった。

子どもの頃から一緒に遊び、秘密を共有し、笑い合ってきた。

ときには口喧嘩もしたけれど、すぐに笑って仲直りできる関係だった。


その姉が、池で死んだ…


「事故だった」と誰もが言った。

遊泳禁止の池に、誤って足を滑らせたのだろう、と。

けれど、私は知っている。

姉はあんなところで遊ぶような人ではない。

そもそも泳ぐのが得意ではなかったし、だから水を怖がってさえいたのだ。


その姉が、なぜ…


葬儀の後も、私は信じることができなかった。

あまりにも突然で、理解が追いつかなかった。

ただ、ぼんやりと心に霧がかかったような日々が続いた。


それからだ。

水のそばに行っても、心は晴れなくなった。

むしろ、逆だった。心はざわつき、得体の知れない何かが、胸にかかる。


風もないのに、池の水面がさざ波を立てる。


池に映る自分の顔が、どこか他人のように思える。


夜、そばを通ると、聞こえるのだ…

――池の中から、何かが呼ぶ声が。


最初は、気のせいだと思った。

疲れているのだ、と自分に言い聞かせた。

でも、それはだんだんと強くなっていった。

まるで私を、水の中へ引き込もうとするかのように…


足を止めて池を見ると、ふと…


入ってしまえば、姉に会えるかもしれない


…などという考えが頭をよぎる。


水に入ったひんやりとした肌の感触…

水に入ったときに聞こえるあの音…


…そのすべてが恋しい。


――そんな感覚に、包まれる。


最近では夢に見る。

濡れた髪で、じっとこちらを見つめる姉の姿を…

声はない。


だが、目が語っている。


「早くおいでよ…」

「ここは静かで心地いいよ…」

「なにも怖くないんだよ…」


そして私は、ふと思う…

あの姉の死は、本当に事故だったのだろうか。


あの池の底には、何があるのだろう…

あの日、姉は、なぜ池に行ったのだろう…


そして今…

私もまた…

水に呼ばれているのではないか…

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