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今度は教育現場ですの?

「では皆さま、ごきげんよう。本日は、品格ある立ち居振る舞いを伝授いたしますわ!」


 朝の小学校体育館に、響き渡る高飛車ボイス。


 教師陣は頭を抱え、児童たちはキラキラした目で彼女を見つめていた。


「すげー! お姫さまが来たー!」


「足を揃えてお辞儀!? うちの猫より姿勢いい!」


 そう、今日は市の「地域連携プログラム」の一環として、くららが小学校の特別授業に派遣されていたのだった。


 


====


 


 「令嬢教育」をテーマにしたその授業は、想定を超えて好評だった。


 所作、言葉づかい、礼儀作法……


 クラリス時代に叩き込まれた貴族のスキルを、現代日本の子どもたちにまさかの応用。


 もちろん、教師の大島まどかは最初から猛反対である。


「くららさん! あなた、何を教えてるつもりなの!?」


「未来の淑女と紳士を育てておりますのよ。なにか問題でも?」


「貴族教育なんて、今の時代に意味あると思ってるの!?」


「ええ。だって、彼らは、将来この町を担う民ですもの」


 


====


 


 意外なことに、くららの授業は子どもたちの間で評判になった。


 挨拶をちゃんとするようになった子、姿勢を気にするようになった子、両親に「ごきげんよう」と言って困惑させる子まで現れた。


 一方で、現場教師たちは困惑気味。


「面白いけど……持続性はあるのかな?」


「一時のイベントに終わらせるべきではありませんわ」


 くららは校長に「礼儀・公共マナー」を教育カリキュラムに取り入れる提案をする。


「そんな簡単に変えられないんですよ。現場には現場のやり方がある」


 校長の言葉に、くららは珍しく押し黙る。


 


====


 


 その日の放課後、校舎の裏庭でくららは小さな女の子と出会う。


 ひとり、誰とも遊ばずにいたその子に、くららは静かに近づいた。


「貴女、おひとりで?」


「……うん。私、声が小さくて、いつもみんなに、気づかれないの」


「……ならば、わたくしが聞こえるように、しっかりと挨拶してごらんなさいな」


「え……ご、ごきげんよう……」


 それは小さくとも、確かな声だった。


 くららは微笑み、頷く。


「ええ、立派な声ですわ。世界はきっと、貴女の言葉に耳を傾けるようになりますわよ」


 


====


 


 後日。校長は市役所に訪れた。


「礼儀教育、検討してみるよ。あの子たちの目が、いつもよりキラキラしてた。あんな顔、最近じゃ久しぶりだったよ」


 くららは、ふっと微笑む。


「民に希望を。次代を導く光を――それが、教育の本懐ですわ」


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