今度は教育現場ですの?
「では皆さま、ごきげんよう。本日は、品格ある立ち居振る舞いを伝授いたしますわ!」
朝の小学校体育館に、響き渡る高飛車ボイス。
教師陣は頭を抱え、児童たちはキラキラした目で彼女を見つめていた。
「すげー! お姫さまが来たー!」
「足を揃えてお辞儀!? うちの猫より姿勢いい!」
そう、今日は市の「地域連携プログラム」の一環として、くららが小学校の特別授業に派遣されていたのだった。
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「令嬢教育」をテーマにしたその授業は、想定を超えて好評だった。
所作、言葉づかい、礼儀作法……
クラリス時代に叩き込まれた貴族のスキルを、現代日本の子どもたちにまさかの応用。
もちろん、教師の大島まどかは最初から猛反対である。
「くららさん! あなた、何を教えてるつもりなの!?」
「未来の淑女と紳士を育てておりますのよ。なにか問題でも?」
「貴族教育なんて、今の時代に意味あると思ってるの!?」
「ええ。だって、彼らは、将来この町を担う民ですもの」
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意外なことに、くららの授業は子どもたちの間で評判になった。
挨拶をちゃんとするようになった子、姿勢を気にするようになった子、両親に「ごきげんよう」と言って困惑させる子まで現れた。
一方で、現場教師たちは困惑気味。
「面白いけど……持続性はあるのかな?」
「一時のイベントに終わらせるべきではありませんわ」
くららは校長に「礼儀・公共マナー」を教育カリキュラムに取り入れる提案をする。
「そんな簡単に変えられないんですよ。現場には現場のやり方がある」
校長の言葉に、くららは珍しく押し黙る。
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その日の放課後、校舎の裏庭でくららは小さな女の子と出会う。
ひとり、誰とも遊ばずにいたその子に、くららは静かに近づいた。
「貴女、おひとりで?」
「……うん。私、声が小さくて、いつもみんなに、気づかれないの」
「……ならば、わたくしが聞こえるように、しっかりと挨拶してごらんなさいな」
「え……ご、ごきげんよう……」
それは小さくとも、確かな声だった。
くららは微笑み、頷く。
「ええ、立派な声ですわ。世界はきっと、貴女の言葉に耳を傾けるようになりますわよ」
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後日。校長は市役所に訪れた。
「礼儀教育、検討してみるよ。あの子たちの目が、いつもよりキラキラしてた。あんな顔、最近じゃ久しぶりだったよ」
くららは、ふっと微笑む。
「民に希望を。次代を導く光を――それが、教育の本懐ですわ」