表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/13

この町には魔王がいますわね

「やりすぎだ、綾小路くらら。これは町おこしなんかじゃない。乗っ取りだ」


 重々しい声が、役所の会議室に響いた。


 発言主は、地元の重鎮――元市議会議員・鷲田隆政。


 この町の開発、予算、人事――すべてに裏から口を出してきた影の支配者である。


 舞踏会イベントの成功を機に、一部の職員や若手議員がくららに期待を寄せ始めたことに、彼は苛立ちを募らせていた。


「君のような、正体も経歴も曖昧な若造に、この町を任せていいはずがない」


「まぁ。あなた様こそ、この町を変えたくないというお考えではなくて?」


 クラリス……いや、くららは一歩も引かない。


「長年にわたるご功績は重々承知しております。ですが、今や功労者が、抵抗勢力となっているようにお見受けしますわ」


「なんだと……?」


「改革を邪魔なものと感じていらっしゃるなら――それは、貴族としてではなく、魔王としての振る舞いですわね」


 冷たい沈黙。中野とまどかは遠巻きに見守りながら、小声でささやく。


「くららさん、完全に喧嘩売ってる……」


「でも、逃げなかった。真正面から行った。あたし、負けたわ……カッコよすぎ……」


 


====


 


 その夜、役所にて。


 くららは中野に問いかける。


「わたくし、間違っておりましたか?」


「さぁな。でも、鷲田が本気で潰しに来るのは間違いない。次の議会、確実に潰しにくるぞ」


「上等ですわ」


 くららの瞳に、炎が灯る。


「魔王には、悪役令嬢がお似合いですもの」


 


====


 


 議会当日。


 鷲田派の議員たちが、「イベントの予算不備」や「前例のない計画性の欠如」など、あらゆる批判を浴びせてくる。


 しかし、くららは動じない。


「全予算内で運用してございます。経済波及効果も、試算済みですわ」


 書類を手に、理路整然と反論する。


「前例がないという言葉、何度も伺いましたが――この町を停滞させたのは、その前例そのものですわ」


 場内がざわつく。


「人は変化を恐れます。でも、恐れたままでは町も、職員も、未来も腐ってしまいます」


「今こそ、この町を開かれた舞台に変えましょう」


 ――演説、完了。


 


====


 


 議会終了後。


 中野、まどか、美紗たちが拍手する中、鷲田は無言のまま立ち去る。


 だが、背中越しに一言。


「……言うじゃねぇか、嬢ちゃん」


 それは、初めての敗北宣言だった。


 


====


 


 夕暮れ、庁舎の屋上。


「やり切ったのね、わたくし……」


 くららは風を受けながら、つぶやいた。


 その背後に、かつての幻影クラリスが立っている。


「貴女、民のために頭を下げるような令嬢になったの?」


「頭を下げるのは、誇りを捨てることではありませんわ。覚悟を見せることですのよ」


 幻影は、静かに消えていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ