市役所で舞踏会!? ~町おこしはお上品に
「貴族式町おこしイベント、お紅茶と音楽の夕べ、いよいよ本日開催ですわ!」
春の夕暮れ、市役所の中庭。普段は無機質な庁舎に、シャンデリア風の照明とクラシカルなテントが並び、市職員たちはタキシードやドレス姿でバタバタと準備に追われていた。
……そう、これは町おこしを名目にした、クラリス式社交パーティ。
案内状は金縁、BGMはバイオリンの生演奏、そして出店の代わりに――紅茶の試飲ブースと、地場産品を用いたオードブルコーナー。会場はすでに、町の有力者から子連れファミリーまで、さまざまな人で賑わい始めていた。
「クララさん……本気でやりやがった……」
中野誠一が、ネクタイを緩めながら唖然と呟く。
「庶民に貴族体験を提供することで、地域の魅力を再発見させる……言い切ったのよね、あの人」
まどかは感心半分、呆れ半分といった様子。
その視線の先、主催者のくららは、本日も完璧な立ち振る舞いでゲストたちに挨拶していた。
「皆様、ようこそ。わたくしの町へ――ごゆるりとお過ごしあそばせ♡」
満面の笑み。
そう、この舞踏会フェス、出だしは大成功だった――
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だが、事件は起きる。
「発電機が……止まりました!」
音響スタッフの悲鳴とともに、照明が一部ダウン。BGMが止まり、会場はざわつく。
中野がすぐに駆け寄る。
「非常用電源は?」
「切り替え中です、でもブレーカーが……!」
くららがスタッフに詰め寄る。
「復旧の目処は? 今宵の宴を止めるわけには参りませんわ!」
しかし、照明の半分が消えた会場に、ゲストの不安が広がる。
「こ、これは……失敗か?」
まどかが小声で漏らしたその瞬間。
――パチッ。
くららが、キャンドルを一本灯した。
「皆様、お騒がせして申し訳ありません。ですが、これこそが真の社交の美。光が消えても、心の明かりは消えませんわ」
彼女はあえてマイクを使わず、通る声で語りかける。
「今宵は、貴族たちがかつてそうしたように――ロウソクの明かりで、静かに語らいましょう」
スタッフが急いでキャンドルを配る。地元の高校の吹奏楽部が即興でアコースティック演奏を始めた。
照明のない会場が、逆に幻想的な空間へと変わっていく。
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イベントは、そのまま、ロウソクナイトとして再始動。むしろ照明ダウン前よりも「雰囲気がある」と好評に。
「……すげぇな、くららさん。トラブルを演出に変えた」
中野は小さく笑う。
「なんか……ちょっと、泣きそうなんだけど」
まどかは目を潤ませていた。
くららは最後に、夜空を背景に、ゆっくりと一礼した。
「民の皆様、本日は誠にありがとうございました――この町に、光あれ」