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税金の使い道? 民を導くが貴族の義務ですわ

「それでは、次年度予算案の各課ヒアリングに入ります」


 年度末、予算会議。地方自治体における、最も面倒で、最も権力が可視化される瞬間。


 総務課の会議室に並ぶ各課長の顔ぶれは、どれも疲弊と諦めが滲んでいる。


「今年も前年度踏襲で」


「前例どおりで問題ありません」


「削るならうちより振興課で」


 まるで責任の押し付け合い。


 そのなか、ひときわ場違いなほど堂々とした声が響いた。


「皆様、民のための予算という意識はおありでして?」


 沈黙。


「くららさん、またやっちゃった……」


「始まったな令嬢タイム」


 


====


 


 クラリス(現・くらら)・アリア・フォン・グリューエン。

 元悪役令嬢、現・地方公務員。


 今日も市役所の予算会議室で、貴族マインドを炸裂させていた。


「この『ゆるキャラの着ぐるみ新調』費、なぜ五十万円もかかるのか説明なさって?」


「いや、それは……業者に見積もって……」


「業者? ならば他社比較は? 公開入札は? 市民の税金を何だと思っておりますの?」


「す、すみません……」


 


====


 


 中野誠一は、会議の端でそっとため息をついていた。


「ほんと、容赦ねぇな……いや、正論なんだけど」


 彼の隣では大島まどかが、メモを取りながら苦笑していた。


「見てよあれ。予算会議の処刑人って感じ。私、ちょっとスカッとした」


「俺たち庶民は震えてるけどな」


 


====


 


「ところで皆様――わたくし、ひとつ提案がございます」


 くららが静かに立ち上がる。


「貴族的社交を取り入れた町おこしイベント、開催してはいかがかと」


「……は?」


 会議室に、ポカンとした空気が流れる。


「地域の農産品・工芸品・伝統芸能を、社交パーティという形式で魅せるのです。市民は正装し、紅茶と音楽と共に交流を深める……いかがです?」


「そんなの……予算が……」


「先ほど削った無駄な支出の一部を活用すれば、十分捻出できますわ。資料も、もうご用意しております」


 提示されたパワポ資料は、妙に完成度が高かった。


「なんでこういうとこだけ現代技術に強いんだよ……」


「日比野さんが手伝ったらしいよ。お紅茶フェス、楽しそうだって」


 


====


 


 会議後。


 中野が苦笑しながら話しかける。


「ほんとにやるのか? 社交パーティとか」


「当然ですわ。民を導くのは、わたくしの義務ですもの」


「じゃあ、令嬢町おこし、見せてもらうか」


 その言葉に、くららはニッと微笑んだ。


「ええ、存分にご期待なさいませ」


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