税金の使い道? 民を導くが貴族の義務ですわ
「それでは、次年度予算案の各課ヒアリングに入ります」
年度末、予算会議。地方自治体における、最も面倒で、最も権力が可視化される瞬間。
総務課の会議室に並ぶ各課長の顔ぶれは、どれも疲弊と諦めが滲んでいる。
「今年も前年度踏襲で」
「前例どおりで問題ありません」
「削るならうちより振興課で」
まるで責任の押し付け合い。
そのなか、ひときわ場違いなほど堂々とした声が響いた。
「皆様、民のための予算という意識はおありでして?」
沈黙。
「くららさん、またやっちゃった……」
「始まったな令嬢タイム」
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クラリス(現・くらら)・アリア・フォン・グリューエン。
元悪役令嬢、現・地方公務員。
今日も市役所の予算会議室で、貴族マインドを炸裂させていた。
「この『ゆるキャラの着ぐるみ新調』費、なぜ五十万円もかかるのか説明なさって?」
「いや、それは……業者に見積もって……」
「業者? ならば他社比較は? 公開入札は? 市民の税金を何だと思っておりますの?」
「す、すみません……」
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中野誠一は、会議の端でそっとため息をついていた。
「ほんと、容赦ねぇな……いや、正論なんだけど」
彼の隣では大島まどかが、メモを取りながら苦笑していた。
「見てよあれ。予算会議の処刑人って感じ。私、ちょっとスカッとした」
「俺たち庶民は震えてるけどな」
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「ところで皆様――わたくし、ひとつ提案がございます」
くららが静かに立ち上がる。
「貴族的社交を取り入れた町おこしイベント、開催してはいかがかと」
「……は?」
会議室に、ポカンとした空気が流れる。
「地域の農産品・工芸品・伝統芸能を、社交パーティという形式で魅せるのです。市民は正装し、紅茶と音楽と共に交流を深める……いかがです?」
「そんなの……予算が……」
「先ほど削った無駄な支出の一部を活用すれば、十分捻出できますわ。資料も、もうご用意しております」
提示されたパワポ資料は、妙に完成度が高かった。
「なんでこういうとこだけ現代技術に強いんだよ……」
「日比野さんが手伝ったらしいよ。お紅茶フェス、楽しそうだって」
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会議後。
中野が苦笑しながら話しかける。
「ほんとにやるのか? 社交パーティとか」
「当然ですわ。民を導くのは、わたくしの義務ですもの」
「じゃあ、令嬢町おこし、見せてもらうか」
その言葉に、くららはニッと微笑んだ。
「ええ、存分にご期待なさいませ」