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前例主義? ではその前例を処刑いたしましょう

「それは前例がございませんので、却下となります」


 朝の会議室。中堅職員の言葉に、くららの眉がピクリと跳ねた。


「……今、なんと?」


「ですから、前例が――」


「前例がないなら、作ればよろしいでしょう?」


 空気が凍りついた。


 


====


 


 地方市役所にはびこる前例主義。

 新しい提案は即座に「前例がない」「過去に揉めた」「手間がかかる」と葬られる。


「ほら、また怒らせた」


「誰だよ提案したの」


「くららさんに火をつけるとか無謀すぎ」


 若手職員たちはひそひそとささやいた。


「わたくしは理解いたしました。この組織は、貴族的威厳ではなく前例的思考が支配していると」


「いやその言い方はどうなんだ……」


 


====


 


 昼休み。中野がくららに声をかける。


「ちょっと、落ち着けよ。古参を敵に回しても、やりたいことはできないぞ」


「ですから、戦うのです。わたくしの正義と、この町の未来のために」


「……あーあ。そういうとこ、やっぱ好きになれねぇけど、嫌いにもなれねぇんだよな」


 中野は苦笑しながら、サンドイッチを半分差し出した。


「え? これは……施し? まるで中世のパンの配給のような……」


「ちげぇよ。友情の証。あと血糖値下がってるっぽいから倒れる前に食え」


 


====


 


 午後。


「お言葉ですが、古き良きやり方を、軽々に変えるのはいかがなものかと……」


 年配職員たちが静かにくららを囲む。


 それでも、彼女は動じない。


「貴方方の良きやり方が、今の若者を疲弊させ、未来を閉ざしているとしたら?」


「何を根拠に――」


「ならば、わたくしが証明してみせましょう。この新しい提案で成果を出してみせますわ」


 


====


 


 一週間後。


 くららが進めた新提案――「市民からの意見箱をAIで自動分類・集約する実験プロジェクト」は、あっという間に小さな成果を出し始めた。


 放置されていた市民の声が、スピーディに政策会議に反映され始めたのだ。


「……何だこれは……意外と……便利じゃないか?」


「でもこれ、前に同じような話出たとき潰されたんだぞ?」


「くららさんだから通ったんだよ。気品で殴ってきたからな……」


 


====


 


 その日、くららはひとり夜の庁舎に残っていた。


 クラリスの幻影が、静かに問いかける。


「貴女は本当に、それが貴族の振る舞いだと?」


「いいえ。わたくしは――この町の職員として、やっておりますわ」


 背筋を伸ばし、笑みを浮かべる。


 その笑顔は、かつての悪役令嬢ではなかった。


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