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なんですの? その書類仕事とやらは

 朝、出勤した瞬間から空気が変だった。


「お、おはようございます……綾小路さん……」


 職員の一人が、まるで時限爆弾でも見たかのような目で会釈する。


「おはようございます。今日も民の平穏を守るため、邁進いたしますわ」


 優雅に挨拶を返して執務室へ向かうと、すでに中野誠一が待っていた。


「綾小路さん。今日は書類整理からお願いするよ」


「しょるい……しごと? ……聞き慣れませんわね、その呪文」


 ぴたりと中野の動きが止まった。


「え、まさか……いや、さすがに書類仕事って言葉は知ってるよね?」


「ふふっ、知っておりますわよ。仕事は仕える事――そして書類とは、おそらく魔導書のようなものでしょう? 火を吹くのかしら」


「吹かねえよ。というか、ちょっと本気で心配になってきた……」


 


====


 


 その日、くららは初めて、文書管理システムなる存在に出会った。


「この……ぱそこんとやらで、あの山積みの文書を扱うのですの? なるほど、魔術的操作を伴うタイプなのね」


「いや、そんなRPG感出さなくていいから。こっちは普通にExcel開くだけ」


 クリック。


 画面に広がる表。


 くらら、硬直。


「な、なんという……これはまるで、情報の迷宮……!」


「いやExcelの表だから。慣れたら大丈夫だよ、たぶん……」


 


====


 


 案の定、騒動は起きた。


 印刷ボタン連打→コピー機暴走。


 ファイル保存ミス→共有フォルダ崩壊。


 昼前には課全体がほぼ機能不全となり、中野は頭を抱えていた。


「……お願い、もう触らないで」


「中野さん。わたくし、民のために全力を尽くしているだけですのに……っ」


「全力が災害になってるの。貴族レベルの被害規模だから」


 しかし――午後。


「では、書類はこう分類いたしましょう。施政方針は一括。決裁ルートは三段階まで削減。なぜこのような回りくどい仕組みにしているのですの?」


「そ、それは昔からの慣習で……」


「その昔という前例、今すぐ処刑いたしましょう」


「処刑……!?(比喩だよな!?)」


 慣習という名の非効率を、論理と令嬢精神で次々と断罪していくくらら。


「回覧板は回すから時間がかかるのです。掲示すれば、民の目には早く届きますわ」


 そしてついに、古参の職員までが呟いた。


「……この人、やるわよ。破壊の天才かと思ったけど、整理の天才だった……」


「破壊の整理ですわよ♡」


 


====


 


 その夜、定時後。


「なあ、中野くん。今日、新人さんのせいでコピー機壊れたんだろ? でも書類仕事は早く終わってるらしいね」


「……ええ。人は効率と威厳には逆らえないって、学びましたよ」


「なんか名言っぽいな……」


 市役所総務課に、新たな伝説が生まれつつあった。


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