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改革令嬢、今日も町を照らす

「市長選、正式に辞退だってよ」


「えっ、あのクラリス様が?」


「くららさん、だよ。最近みんなそう呼んでる」


 庁舎のあちこちで、ささやき声が飛び交っていた。

 かつては、コスプレ女と陰口を叩かれ、変人扱いされた彼女は――いまや、市役所の誰よりも、町の未来を語る人になっていた。


 


====


 


「おはようございます。総務課の綾小路ですわ!」


 変わらぬ気品。けれどその声には、どこか肩の力が抜けた、優しい響きがあった。


「おはようございます。くららさん、昨日の読み聞かせ、子どもたちに大人気でしたよ」


「ふふっ、わたくしの民を導く力が、ようやく通じたということですわね」


 美紗がこっそり耳打ちする。


「でも、改革令嬢とかいうあだ名、本人には言えませんけどねぇ♡」


 


====


 


 くららの目に映る町は、以前よりも少しだけ、明るかった。


 地域イベントに顔を出せば、住民が笑顔で声をかけてくる。


「おっ、くららさん! この間の申請、助かったよ!」


「今度またご意見、聞かせてくださいね!」


 あの高飛車で浮世離れした元貴族は、いまやしっかりとこの町に根を下ろし、信頼を得ていた。


 


====


 


 昼下がり。中野と並んで公園のベンチに座る。


「……正直、最初はどうなることかと思ったよ。あんたの言動、常識の真逆ばっかでさ」


「わたくしも、庶民社会という異世界に困惑し続けておりましたわ」


 中野は少し笑ってから、ふと真顔になる。


「でも、あんたが来て、確かに何かが変わった。役所も、町も、そして俺自身も」


 くららは一瞬、目を丸くして――すぐにいつもの笑みに戻る。


「そのお言葉、わたくしの功績一覧に刻んでおきますわね」


「それ、どこにあるんだよ……」


「心の書庫、第二棚・右から三番目にございます」


「知らんがな」


 二人の笑い声が、公園に溶けていった。


 


====


 


 庁舎の屋上に立つ、くらら。見下ろす町は、まだ課題だらけだ。


 けれど、彼女はもう、ひとりで戦っているわけではない。


 同僚がいる。理解者がいる。住民がいる。


 そして何より、自分自身の中に、「この町を良くしたい」という想いがある。


 


「わたくしは、もう公爵令嬢ではございません」


「ただの地方公務員――いえ、この町の一員として」


 


 風が髪をなびかせる。


 かつてのクラリスなら、そんな風に乱される姿は許せなかっただろう。


 でも今のくららは、まっすぐ前を見て、笑った。


 


「改革令嬢、今日も町を照らしてまいりますわ!」


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