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8/21

意外と不審者は身近にいるのかもしれない。

土曜日までの学校生活は特に変わったこともなく、淡々と過ぎていった。



熊田は相変わらず授業中にどうでもいい雑談を挟んではすべりまくっていたし、

クラスの誰もが「またか……」と冷ややかな目で見守るのが日常になっていた。



肝心の部活動も依頼者が現れることはなく、

結局、俺たちは相澤が持ってきたお菓子をつまみながら、

テレビ番組の話やくだらない雑談をしていただけだった。


相澤はよくしゃべるし、佐藤もそれなりに会話に乗ってくる。

黒咲は最初は話を聞いているだけだったが、

慣れてくると少しずつ口を開くようになった。


時任は相変わらず部室の片隅で本を読んでいたし、

直井はというと…忙しいのか一度も顔を見せなかった。





土曜の夜、8時。

学校の部室に入ると黒咲以外の部員、全員がそこにいた。


相澤は元気よくポテトチップスをつまみながら

「直井先生の話、一体何だろうね?」と楽しげに話し、

佐藤は少し緊張した面持ちで静かに椅子に座っていた。

時任はいつものように本を読んでいる。



スマホの画面を確認すると時刻は8時15分。

自分で集合をかけておきながら直井は遅刻しているようで、まだ姿を見せていない。



「先生、遅いな……」



「直井先生は人気者だから誰かと話してるんだよ、きっと…」と相澤は軽く笑う。



それから待つこと、10分。ようやく直井が現れた。



「遅れてごめん。ちょっと職員室での仕事が長引いてしまってね」



「先生、ちゃんと時間守ってくださいよー!」

と相澤が軽くツッコミを入れるが、直井は苦笑しながら話を始める。



「黒咲さん以外、全員そろったみたいだね」



「はい!ばっちりです!」

と嬉しそうに返事をする相澤。



間髪入れずに直井が話をはじめる。



「今日集まってもらったのは、バレー部のみんなから相談を受けたからなんだけど……」



直井がそう切り出した瞬間、部室の空気が少しだけ引き締まった。



「どんな相談なんですか? 」と俺が訊ねると、直井が少し間を置き話し始めた。



「…最近、夜の体育館で妙な現象が起こってるらしいんだ。

ボールが勝手に転がったり、誰もいないはずなのに足音が聞こえたり。

挙げ句の果てには、閉めたはずの倉庫の扉が朝になると開いてることもあるらしい」



「えっ、それって……もしかして幽霊とか!?」

と相澤が目を輝かせる。



「幽霊……ですか……」

佐藤は明らかに青ざめていた。



「バレー部の子たちは怖がっていてね。

部活にも支障が出てる。

だから、真相を調べてほしいって頼まれたんだよ」



「つまり…俺たちに幽霊調査をしろってことか」

と時任が腕を組む。



「いやいや。謎の現象は

単なるイタズラかもしれないし、バレー部のみんなが勘違いしてるだけの可能性もある」



「俺たち皆で真相を確かめるってことですか?」と俺は言った。


「そう。丁度、今の時間帯に行けば何かわかるかもしれないからね…」

そう言う直井の表情は少しこわばっているように見える。


静まり返る部室の空気を裂くように

「面白そうじゃん!」と相澤が言った。



「お、おもしろそう……って、ほっほんとに幽霊かもしれないのに…」

佐藤は相変わらず不安そうだ。



「まあ、幽霊がいるならいるで確かめればいいし、

イタズラなら犯人を見つければいい。それだけの話だろ」と時任が冷静に言う。



「うん、そういうこと。ってことで、今から体育館に行ってみよう」

直井が先導するように言った。



例えようのない不安を抱きながら

俺たちは学校の体育館へと向かうことになった。


体育館に到着すると、バレー部やバスケットボール部の活動が終わったのか、

部員たちがぞろぞろと帰り始める。


バレー部の内の女性生徒一人が直井を見て

「先生、私達もう帰ります。例の件、気をつけてくださいね」

と諭すように言った。


その女子生徒は直井に気があるようで心なしか恥じらいを持っているように見える。


直井は「僕なら大丈夫、部員のみんなもいるしね。

それより、もう外が暗いから帰りに気を付けてね」と優しく諭す。


それを見ていた相澤は不服そうに目を逸らした。



体育館の扉がバタンと閉まり、部活帰りの生徒たちの声が次第に遠ざかっていく。

広い体育館には俺たちだけが残された。



「さて、本題に入ろうか」



直井がそう切り出し、俺たちは自然と彼を中心に円を作る。



「バレー部のみんなの話によると、主に体育館の倉庫から物音がするみたいなんだ」


 直井はそう切り出した。



「謎の現象を待つより、

先に体育館の倉庫の中を確認するのがいいと思うんだけど……どうかな?」



 俺たちは顔を見合わせ、静かにうなずく。



 確かにその方が手っ取り早い。

謎の音の正体を突き止めれば、それが単なる自然現象なのか、

それとも本当に不可解な何かが潜んでいるのかが分かるはずだ。




シンとした体育館の中、倉庫の扉の前に全員が集まる。



 「先生、どうします?」



 相澤が直井に指示を仰ぐ。

しかし、直井は黙ったままピクリとも動かない。



 「先生、大丈夫ですか?」



 俺が声をかけると、直井はハッとしたように顔を上げた。



 「あ、うん。平気だよ」



 その直後――


 ガタガタガタッ!!



 倉庫の中から突如として大きな物音が響く。



 「うわぁ!!!!」



 直井が思わず後ずさる。



 「隙間風が入ってきてるんじゃないのか?」



 時任が冷静に言う。



 「そっ、そうかもしれない。建物が古いからね。

うん、きっとそうに決まってる」



 直井は額に汗を浮かべながら、必死に自分を納得させようとしていた。



 「本当に幽霊だったらどうしよう……」



 佐藤が震える声でつぶやく。

不穏な雰囲気が漂う夜の体育館。



 その中で、一人だけ空気を変えようとする人物がいた。



 「幽霊でもなんでもいいじゃん!ってことで、オープン!!」



 相澤が勢いよく宣言すると、そのまま

何のためらいもなく倉庫の扉に手をかけた。



 ギィィ……。



 古びた扉が不吉な音を立てながらゆっくりと開く。



 

倉庫の中は特に変わった様子はなく、人の気配もない。

長年使い込まれたボールやネット、マットなどの備品が雑然と積まれ、

棚には予備のユニフォームやモップが並んでいる。

隅のほうには壊れた器具が押し込まれており、全体的に薄暗く、

埃っぽい空気が漂っていた。



「異常なし!時任くんが言った通り、ただの隙間風なのかも!」

倉庫の中を見回していた相澤が元気よく宣言した。



その言葉を聞いて、直井と佐藤がほっと胸をなでおろす。

直井は小さく息をつき、

「よかった……」と呟いている。



何か引っかかるものを感じていた俺は

倉庫の中を見渡しながら、一歩、また一歩と奥へと進んでいく。



そのとき——。



倉庫の奥、暗がりの中に、何かがうっすらと見えた気がした。



(……なんだ?)


と目を凝らす。

最初は靄のようにぼんやりとしていたものが、

徐々にはっきりとした形を取り始める。



それは——人影だった。



倉庫の奥、跳び箱のそばに立つ半透明な人影。

その姿がどんどん明確になり、ついには細部まで見えるようになる。



…裸の男だ。



肩まで伸びた、パーマのかかった茶髪。

年齢は自分より少し上に見える。

すらりとした長身で、身長はおそらく180センチほどだろう。



その男が、驚いた顔でこちらを見ていた——。



まだ続きます。

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