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7/21

廃部寸前の部活に入ることは間違いじゃないと信じたい。

朝、目覚ましの音で目を覚ました。


いつもならもう少し布団の中でぐずぐずしているところだが、

昨日起こったことを思い出して一気に目が覚めた。

佐藤の靴の件、時任の能力、黒咲のこと……そして俺自身の力。


「はぁ……」


深くため息をつきながら布団をめくると、部屋の勉強机の上に置いてあるお守りが目に入る。


「今度、(父親がいるかもしれない)神社に行ってみるか…」


俺はしばらく自分の手を見つめた。

昨日、黒咲の傷を治したときの感触がまだ指先に残っている気がする。



「……考えても仕方ないか」



気を取り直して布団から出る。

そのまま洗面所まで行って顔を洗い、

制服に着替え、リビングへと向かった。

母さんはすでに朝食を用意していたが、今日は妙に機嫌が良さそうだった。



「おはよう、春斗。そういえば昨日、帰ってくるの遅かったわね?」



「まあ、ちょっと色々あってさ」



「ふぅん?」



母さんはニヤニヤしながら俺を見てくる。

俺が何か隠し事をしているときの顔を見破るのが異常に得意な母親だ。

だが、ここで余計なことを話すわけにはいかない。



「じゃ、行ってくる」



食パンを口にくわえ、そそくさと家を出て学校へと向かった。



学校に到着し、自分の席に着く。

昨日の出来事が嘘のように、平穏な時間が流れていく。


先に来ていた黒咲も(窓際の席で外を眺めているだけで)特に変わった様子はない。


佐藤の靴を隠した三人組はというと、俺の方を見てひそひそ話していた…が、

何か仕掛けてくるわけでもなかった。



昼休みを挟んで、午後の授業も無難に終わる。


最後の授業が終わったあと、教壇に目を向けると熊田が教科書を片付けながら、

腰をさすっていた。



「あの……先生」



俺は意を決して声をかける。


熊田は俺の方を見て、顔をしかめた。



「なんだ、神谷。……まさか、また何かやらかすんじゃないだろうなぁ?」



「いや、そうじゃなくて……その、昨日のことですけど……本当にすみませんでした」



「あぁ……まったく、お前にはひどい目に遭わされたよ。

おかげで朝、ベッドから起きるのが一苦労だった」



先生はため息をつきながら腰をさすった。

俺は申し訳なさそうに頭を下げる。



「すみません……」



「まあいい、大したケガはしてないしな。

しかしあれだ、お前と黒咲に関しては注意深く見ておくからな、覚悟しておけ」



「はぁ…」



先生は「まぁ、問題を起こさなきゃいいだけの話だ」

と言って教科書をまとめ終わると、教室を後にした。



結局、今日は特に変わったこともなく、平凡な一日だった。



——そう思っていた矢先。




「神谷くん、黒咲ちゃん!ちょっといい?」


そう言ったかと思うと、相澤は俺と黒咲の腕を掴み、そのままの勢いで教室から飛び出し、

廊下を速足で進んでいった。



「ちょっ!なんなんだ!?」



「どこにいくの…?」



俺たちの抗議も聞かず、相澤はズンズンと進んでいく。

そうして連行された先は…説明するまでもなく、あの部屋…。



バンッ!



相澤は勢いよく部室の扉を開けると、俺たちを部屋の中に押し込んだ。



「正式に! 神谷くんと黒咲さんに入部してほしい!」



そう言うやいなや、相澤は俺たちを前に手を合わせるようにして懇願してきた。


「お願いお願いお願いお願い!!!このままじゃ廃部になっちゃうの!!!

お願い!入部してー!!!」



「えぇ……」



俺は頭を抱える。

黒咲も困ったように視線を泳がせた。



「昨日はごめんね、黒咲さん」



突然、相澤が黒咲に向き直る。



「心が読めるなんて、冗談だから気にしないで」



その言葉を聞いて、黒咲はほっと胸をなでおろした。



残念なことに相澤は人の心が読める。

実際、俺が口に出していないおふくろとのやりとりを言ってみせたのだから。

真実を知っている俺はともかく、黒咲にはそれで押し通すつもりなのだろうか……。



「ねぇ神谷くん!お願い!入部して~!」


「そんなこと言われても…」



相澤とそんなやりとりをしていると、部室の扉が開いた。

入ってきたのは時任と佐藤だった。


心なしか時任の表情に覇気がない。


昨日、能力を使った反動で疲れているのかもしれない。


佐藤にいたっては、昨日と変わらず自信のなさそうな雰囲気を漂わせていた。



「相澤。佐藤についてなんだが、入部希望らしい」



時任がそう言うと、相澤は「えええっ!? ほんと!?」と叫び、

ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜びを爆発させた。



相澤の大きな胸がそのたびに弾む。



……見ない! 見ないぞ俺!



必死に視線を逸らしていると、佐藤が俺に向かってお礼を述べた。



「昨日はありがとうございました! 靴、見つけてくれて……本当に助かりました!」



佐藤が深々と頭を下げる。


それを見た黒咲は、ふと小さくつぶやいた。



「……困っている人を助けるクラブ……」


その言葉を聞いていた相澤が大きくうなずき



「そうだよ!黒咲ちゃん!

佐藤くんみたいに困ってる子を助ける、そんな素敵なクラブなのだよ!FNKは!」

と演説するような口調で言った。


ぱっと表情が明るくなった黒咲が心の声を振り絞るように言う。


「あっあたしも…誰かを助けたい…!」


「じゃあ! 入部する!?」


間髪入れずに相澤が黒咲の手を握り、目を輝かせる。



黒咲は少し考えた後、ゆっくりとうなずいた。



「……うん」



「やったぁぁぁ!!」



相澤はさらに飛び跳ねた。

俺はその勢いにのまれ、思わず言葉を失う。



「それで、神谷は?」



時任が俺に目を向ける。



「えっ?」



「廃部を回避する為にはもう一人必要だ」



「え、いや、俺は別に……」



「ほらほら! 神谷くんも一緒にやろうよ!」

そう言って相澤が俺の両手を強くにぎる。



「……断ったら?」



「泣く!!!」



相澤が即答した。



「……はぁ」



結局、相澤に押し切られる形で、俺も入部することになってしまった。




「相澤さん、声が廊下まで聞こえてるよ」


その声と同時に部室の扉が開き、スラリとした男性が姿を見せた。



「……おぉ」



思わず俺は声を漏らしてしまう。



黒髪の短髪、整った顔立ち、すらりとした体型。

モデルか何かですか? と思うくらい整った外見の男だった。

年齢は30代前半くらいだろうか、落ち着いた雰囲気を漂わせている。



「直井先生!!!」



相澤が満面の笑みで言った。



彼女のテンションと真逆の落ち着いたテンションで男が口を開いた。



「相澤さん、時任くん。廃部の件なんだけど…新入部員、見つかりそう?」



この直井という男――どうやらこの部活の顧問らしい――。


「それなら大丈夫!」


と相澤が胸を張る。



「ほら、ここに! 神谷くんと黒咲ちゃんと佐藤くん、みんなFNK部に入ってくれるって!」


そう言いながら、相澤は俺たちをざっくり紹介する。


「とっても可愛い黒咲ちゃんと、とっても真面目な佐藤くん、そして___」


相澤に何か言われるのではと心臓がバクバクし始める。


まさか…ここで、俺の力の事を言うつもりか…???



相澤が深く深呼吸をし言った。


「むっつりスケベな神谷くん!!!」


「んなっ!!!!」


「へぇ、そうなんだ」


直井は安心したように微笑んだ。



いや、そこは微笑むところじゃない!

まだ思いっきり笑ってくれた方が助かる。


こんな時に熊田がいてくれたら身代わりになってくれるのにと俺は初めてそう思った。



「じゃあ改めて自己紹介しておこうかな」



直井は姿勢を正し、軽く咳払いをした。



「僕はFNK部顧問の直井直哉です。普段は二年一組の担任をしてます、どうぞよろしく」




……シンプル。



俺はふと、熊田の自己紹介を思い出した。

あの時も思ったが、やっぱり自己紹介はシンプルな方がいい。

妙に長々とつまらないダジャレですべるより、よっぽど印象がいいからな。



「よろしくお願いします」



俺たちはそう言って、それぞれ直井に軽く頭を下げた。



こうして俺たちは正式に FNK部 の一員となったのだった。



「あ、そうだ」

思い出したかのように直井が言った。


「今週の土曜の夜8時、みんなここに来れる?」



直井がそう言うと、相澤が即座に手を挙げた。



「もちろん来れます!」



即答。勢いがすごい。



「来れたら来る…」



時任は腕を組みながら気だるそうに言う。



「たぶん来れます」


俺は一応そう答えておく。



「僕も来れます」


佐藤が控えめに手を挙げる。



「私は…用事があるので、ごめんなさい」


黒咲が少し申し訳なさそうに言う。



直井は全員の返事を聞いて頷いた。



「じゃあ、来れる人は土曜の夜8時、ここに集合ってことでよろしく」


そう言って、直井は部室を後にした。


この学校は夜遅くまで活動する部員のために、

基本的に土日でも夜の10時まで開いているらしい。


それにしても、そんな遅い時間に集合だなんて、嫌な予感がするのは俺だけだろうか。


まだ続きます。

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