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ありえない現象でも受け入れるしかないらしい。


「…佐藤の靴なんだが」



時任がため息交じりに言った。



「下駄箱も教室も、全部探した。でも影も形もない」



佐藤本人は所在なさげに立ち尽くしている。

靴を失くしただけでここまでしょんぼりするのも不憫だが、履くものがなければ家にも帰れない。




佐藤が嫌がらせを受けている理由はともかく、皆で手分けして探すしかない。



「手分けして探すぞ」



時任がきっぱりと言う。


「俺と佐藤は中庭を探す。神谷と相澤は体育館とその周辺をあたってくれ」



「了解」


俺は頷く。

相澤も「おっけー!」と親指を立てた。



「じゃあ、見つけたら連絡しろよ」



そう言い残し、時任は佐藤を連れて部室を後にした。



俺と相澤は顔を見合わせる。



「ということで神谷くん!佐藤君の靴探し、大変そうだけど頑張ろ!」



「あぁ。って、もう部員みたいになってるな俺…」


「細かいことは気にしない~♪」



俺は相澤に背中をおされつつ、体育館へと足を進めた。




俺と相澤は体育館へ向かい、手分けして佐藤の靴を探し始めた。

体育館の中を一通り見回した後、壁際のロッカーや観覧席の下を覗き込む。

しかし、どこにも佐藤の靴は見当たらない。



「ないねぇ……」


相澤がぼそっと言う。



「もしかしたら倉庫の方かもな」と俺は体育館倉庫の扉を開けてみる。

埃っぽいマットや使い込まれたボールが無造作に積み上げられているが、靴らしきものはない。



「外も見てみようか」と相澤が提案し、俺たちは体育館を出た。

外周をぐるりと回ってみるが、それらしいものは落ちていない。



「誰かがわざと持ち出して今手元に持ってるのかも」と相澤が腕を組みながら言う。



「その可能性はあるな」と俺も同意した。



その時——



「おーい!佐藤!お前の靴ならここにあるぞ!」



学校の屋上から声が響いた。

俺たちは顔を見合わせ、急いで屋上へと向かう。

そこには、同じクラスの男子生徒3人組(熊田をからかい笑っていた連中)が立っていた。

そのひとりがニヤニヤしながらフェンスの向こう側を指差す。



「な~んかさ、そこに佐藤の靴が落ちてたんだよ」



フェンスの向こう側、落ちたら確実に怪我をするような危険な場所に

佐藤のものであろう靴がひっかかっていた。



「落ちてたって…あんた達がやったんでしょ?」



相澤が3人組につめよるが、奴らはとぼけた表情を浮かべるばかりだった。


しばらくして、3人組の声を聞いたであろう時任と佐藤が屋上に姿を現す。


「僕の靴が!!」


佐藤がそう言って、フェンスの向こう側にある靴へ向かって駆け出した。

そのままフェンスに手をかけ、よじ登ろうとする。



「おい、やめろ!危ないって!」



俺の声もむなしく、佐藤は足をかけて上へと登っていく。

しかし、フェンスの上に手をかけた瞬間、彼はバランスを崩した。



「うわっ……!」



ぐらりと揺れる佐藤の身体。

今にも転落しそうな不安定な姿勢になり、俺は反射的に叫んだ。



「危ない!!!!」


──その瞬間だった。



ピタリ。



佐藤の身体が、まるで時間が止まったかのように静止した。

いや、それだけじゃない。周囲を見渡すと、相澤も、屋上にいた三人組も、すべての人間が固まっている。

風の流れすら止まり、校舎の向こうで飛んでいた鳥すら空中で静止していた。



「……な、なんだ、これ?」



異常な光景に戦慄し、俺は思わず後ずさる。


その時──



「お前…どうして動ける!?」



不意に、俺の背後から声がした。



驚いて振り向くと、そこには時任がいた。


彼だけは他の人間とは違い、普通に動いている。

いや、動いているだけじゃない。

驚きと警戒の入り混じった目で、俺をまじまじと見つめている。

得体のしれない恐怖を感じながらも



「どうして動けるって…。あんた…何かしたのか?」

と時任に訊ねる。



「俺の……」


時任が口を開き、俺を真っ直ぐに見据えた。



「俺の能力なんだ……」



「能力?」

俺は眉をひそめる。



「時を止める力だ。3分間だけ時間を止められる。しかし、お前には通用しないらしい……」



時任の言葉に、俺の背筋が冷たくなる。

通用しない? 

それはつまり、俺が"普通じゃない"ということを証明してしまったようなものだ。



「それは……」



言葉が喉につかえる。

自分が神の子であること、その力を受け継いでいるからだなんて、軽々しく言えるわけがない。



時任はじっと俺を見つめていたが、「まあいい」と短く言い放った。



「佐藤を安全な場所に移動させる。手を貸せ」



「あ、ああ、わかった」



俺たちは固まったままの佐藤を慎重にフェンスから降ろし、相澤の近くまで運ぶ。

佐藤は何も知らずに目を閉じたまま、凍りついた時間の中で眠っているようだった。



「まだ時間がある……」



時任はそう呟くと、フェンスの向こうにある佐藤の靴に向かって歩き出し、迷いなくそれを拾い上げた。

そして、佐藤のそばに靴をそっと置く。



まるで、何事もなかったかのように。


次の瞬間、突風が吹き抜けた。



「きゃ!!!」



相澤の短い悲鳴が屋上に響く。

制服のスカートがふわりとめくれ上がり、俺は一瞬息を呑んだ。



……やばい。


反射的に視線をそらすが、すでに遅かった。

周囲の連中は、見てしまったものを脳に刻み込んでしまったようで、ぽかんとした顔をしている。



「お、お前ら今の見たか?」



「やべぇ……」



「神の采配ってやつか……?」



興奮と困惑の入り混じった声が上がる。

そんな中、佐藤がフェンスの外にあったはずの靴を履き直していることに、3人組の男子が気づいた。



「……ん? お前、どうやって靴を……?」



「いや、僕もよくわからないけど……」



佐藤自身も戸惑っている。

その肩に、時任が無言で手を置いた。

そして、冷静な声で3人組に言い放つ。



「お前らが相澤のスカートの中を見ている間に、

佐藤が自分の靴をお前らから取り返した。それだけのことだ」



そう言うと、時任は振り返ることもなくスタスタと屋上を後にする。



「も、もうっ最悪~~~~!!!!!」



相澤は顔を真っ赤にしながら、時任の後を追っていった。



俺は佐藤の方を向く。



「もう行こう」



「う、うん……」



俺たちは、まだ状況を飲み込めずにいる3人組を残し、その場を後にした。






まだ続きます。

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