身近に能力者がいたとしても冷静でいるべきだ。
「私ね、実は……人の心が読めちゃうの!」
「……はぁ!?」
俺はとっさに声を上げた。
「え、いや、何それ?超能力かなにかか?」
「うん! まぁ、そんな感じ!」
相澤はノリノリで頷く。
「いやいや、冗談だろ?」
「信じるか信じないかはあなた次第です!!」
そう言って、相澤は得意げに微笑んだ。
俺は半信半疑だった。
ふと、さっき相澤が俺が好きなお菓子をピンポイントで渡してきたことを思い出す——
(……まさか、本当に?)
俺の背中に、じわりと冷たい汗が滲んでいった——。
「人の心が読める」とかいう相澤のトンデモ発言のせいで、俺の心臓はさっきからずっとバクバクしている。
やばい、こいつが本当に人の心を読めるなら、俺が神の子だってこともバレるんじゃ……?
俺は平静を装いながらも、相澤から無意識に視線を逸らした。
すると、相澤は突然、俺の耳元に顔を寄せ、囁くように言った。
「安心して。君の秘密は誰にも言わないから」
「……っ!」
一瞬、背筋が凍った。
俺の秘密を知ってる?
それともただのブラフ?
「な、なんの話だよ」
できるだけ動揺を隠しながら聞き返す。
相澤は俺の反応を楽しむようにクスクスと笑い——
「なんてね! 冗談! 冗談!」
と、おどけてみせた。
「……」
俺は眉間に皺をよせながら相澤の顔をじっと見つめる。
冗談、なのか?
「……あたし、帰ります」
突然、黒咲が立ち上がった。
その表情は明らかに強張っていて、どこか怯えているように見えた。
俺の視線に気づくと、黒咲は目を伏せて小さく息を吐き、逃げるように部室を出ていく。
「……怖がらせちゃったかな」
相澤は苦笑いしながら頭をかいた。
俺はまだドキドキしていたが、黒咲がいなくなった事で心の荷が少し降りたような、そんな気がする。
黒咲が破壊神の子供かもしれないなんて、そんなこと…俺の心を読んだ相澤が黒咲に話したら
それでこそおしまいだ。
なんとも言えない空気が立ち込める中、相澤は俺の顔をじっと見つめ口を開く。
「ねえ、さっきの嵐みたいな天気……君はどう思う?」
「……」
俺は無言を貫いた。
だけど、それが逆に答えになってしまったらしい。
考えないようにすればするほど黒咲が破壊神の子供かもしれない、という母親の言葉が脳内に流れてくる。
相澤の表情がすっと真剣になり、淡々と語り始める。
「さっきの嵐……あれは、黒咲ちゃんが原因だったんじゃない?」
「……!」
「彼女の表情と天気が連動してた。そして、君が彼女の傷を治した途端、天気が晴れた……。偶然だとは思えない」
俺は言葉を失った。
どうやら相澤は事の全てを見ていたらしい。
「ねえ、神谷くん。君の母親の話が本当なら——黒咲ちゃんをほっとけないと思うんだけど、どう?」
相澤の目がまっすぐ俺を射抜く。
……まったく、こいつには敵わない。
俺は小さく息を吐き、
「……あぁ、そうだな」
と短く答えた。
重い空気が流れる中、部室のドアが開いた。
「おい、相澤。相談者だ。」
けだるそうな声で時任が言った。
その後ろには、俺たちと同じ1年生らしき男子生徒が立っていた。
「初めまして…佐藤努です……」
彼は少し不安そうな顔でペコリと頭を下げる。
佐藤はいかにも真面目な優等生という感じの外見で、
明るい金髪の時任と並ぶと短い黒い髪がいっそう暗く見える。
「何があったの?」
相澤が尋ねると、時任が代わりに答えた。
「こいつの靴が消えた」
「……靴?」
俺と相澤は同時に聞き返す。
「そうだ、下駄箱に入れていたはずの靴が、帰ろうと思ったら跡形もなく消えていたらしい」
「誰かが移動させたんじゃ…」
俺がそう言うと、佐藤がうつむき
「そう…かもしれません…」とつぶやく。
「……」
「……」
俺と相澤は顔を見合わせた。
おそらく相澤も俺と同じ事をおもっているに違いない。
<佐藤努はいじめのターゲットになっている>
まだ続きます。